自治寮と、「日常記憶地図」

熊野寮生の日常をとらえる
本誌の「自治寮と、暮らしの姿」では、全国のさまざまな自治寮の内部や実情に迫り、明らかにした。その一方で、本特集では熊野寮を対象に、自治寮の内部に限定せず、熊野寮が立地する街についても焦点を当てていく。
熊野寮が位置する京都市左京区(京都大学吉田キャンパス周辺)を中心とした街において、熊野寮生がどのように街と関わってきたのか、サトウアヤコ氏の「日常記憶地図」という手法を用いて、一人一人の日常に迫っていく。

本企画に実施にあたり、4名の元熊野寮生の方々にご協力いただいた。4名の方はそれぞれ「同釜会」と呼ばれる熊野寮における同窓会に属している。本企画で熊野寮生の主観的な記憶を取り扱うにあたり、新しい記憶ではなく無意識に体に刷り込まれた潜在的な古い記憶に焦点を当てるため、同釜会に属している方で入寮時期が現在(2024年)から10年以上前となる方を対象とした。加えて、それぞれ入寮時期が10~15年ほど離れた4名の記憶を取り扱うことで各年代における場所の記憶を呼び起こすとともに、変化する熊野寮周辺とそのかかわり方について探求していく。
※あくまで個人の記憶に関するものであり、事実とは異なる場合があります。

「日常記憶地図」という手法
本企画においては、サトウアヤコ氏の「日常記憶地図」という手法を用いて、熊野寮生の日常を見ていく。「日常記憶地図」とは、ある時期の日常生活の記憶を地図をなぞることで呼び起こす手法である。地図を用いて記憶を語ることによって、普段は思い起こされることのないような「弱い記憶」が、当時の風景とともに想起されて、当時の世界を俯瞰的に振り返ることができる。日常的な記憶や出来事などを言葉や文字だけではなく、地図上に視覚的に記録することで、記憶の整理や他人への共有を可能にしたり、自己理解を深めるきっかけとなったりする。

本企画における「日常記憶地図」の作成手順
以下に「日常記憶地図ノート」を参考にした「日常記憶地図」の作成手順を示す。
0.地図を準備する 
自宅(熊野寮)を起点に、よく訪れた場所が含まれる範囲のできるだけ当時に近い地図を準備する。本企画では「エリアマップ京都市(1978)」「ニューエスト京都府都市地図(1999)」「都市地図京都府京都市(2011)」(昭文社)を用いて、京都大学吉田キャンパスと熊野寮周辺を範囲とした。
1.地図の「よく行く場所/道」をなぞる
用意した地図に「家」「よく行った場所」の印をつけ、「よく歩いた道」をなぞる。縮尺の異なる地図、熊野寮内平面図を用いて日々の行動をふりかえる。なぞるという過程がその場所の記憶を呼び起こすきっかけとなる。
2.それぞれの「場所の記憶」を思い出す
それぞれの場所や道について、なぜよく行っていたのか、理由や習慣、記憶を思い出す。寮生が寮周辺の街とどのように関わっていたのかをお話ししていただく。
3.愛着のある場所を思い出す
「愛着のある場所」があれば、それがどこか考える。具体的な場所をひとつ選んでもらい、その場所についてお話していただく。4.ふりかえる
当時の生活圏を囲み、これまでの過程で気がついたことをふりかえる。今回は、個人での振り返りに加えて、4名の「日常記憶地図」を共有する座談会を行う。各年代の違いや共通点を分析し街との関わり方を読み解いていく。


サトウアヤコ「日常記憶地図ノート」(2024)より ( https://my-lifemap.net)
デザイン・イラスト:KOTANI DESIGN OFFICE

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