自治寮と、「日常記憶地図」

『日常記憶地図』のメソッド考案者
 サトウアヤコ インタビュー

写真提供:長野県立美術館

インタビュー:2024/7/24
聞き手:小川泰地、岡本陸、川村宗生、川本晃、早川真優子

――「日常記憶地図」の活動について、詳しく教えて下さい。
 「日常記憶地図」の活動は今のところ大きく3種類に分類できると考えています。1つ目は自分自身で記憶をふりかえること、2つ目は地域で複数の人々の記憶を聞く活動、3つ目は主に家族や親しい人々が互いの記憶をきくことです。
 活動を始めたのは2012年頃ですが、2019年に東京の美術館で行われた展覧会*1にて、10人ほどの地域の方へのインタビューと、その際に「日常記憶地図」や写真を年代別に展示する企画を行ったのが1つの転機でした。その後、長野県で展覧会*2を行い、いずれの企画でも冊子の制作を行っています。また、鳥取県の米子市皆生では2022年に地元のキュレーターらと10代から80代までの13人の地域の方に対するインタビューワークや冊子制作*3を行いました。最近では、千葉県市川市の和洋女子大学の学生と街の人々の記憶を聞くワークショップを行い、地域のアーカイブを作っていこうとしています。また、今も帰還困難区域が多くを占める福島県双葉町で、町役場の研修*4の一環として研究者らとワークショップを行っています。町外から来た主に若手の職員が、地元で生まれ育った40〜60代の職員の土地にまつわる記憶を聞くものです。その人個人の記憶であるけれど、土地の記憶でもある、ということが大事かなと思っています。
 3つ目の家族の話を聞くプロジェクトは、ずっと個人的に行っていたのですが、他の人にもやってほしくて、公募に応募しました。この展覧会*5では、「日常記憶地図」を体験したことのある3人の方々に、家族の子ども時代の話を聞いてもらいました。この取り組みで親子であってもあまり聞いたことがない話が多いということが確認できました。これは、地図をなぞりながら、「なぜこの場所によく行っていたのか?」といった、普段は聞かれないようなことを話してもらっているからだと思います。

――「日常記憶地図」の活動に至るまでの経緯を教えて下さい。
 2013年に大阪の上町台地で行われた「オープン台地」というまちびらきイベントに参加したことが最初のきっかけです。上町台地で暮らす人々の日常を取り出すという視点で企画し、5、6人にインタビューをしました。その時につけた名前が「日常記憶地図」でした。単発の企画としてウェブサイトに掲載して終わるつもりでしたが、反響があったことから取り組みを続けることになりました。 それと、個人的な事情ですが、ちょうどその頃父親の余命宣告を受け、昔の話を聞きたいという気持ちが湧いたことも、このプロジェクトを始めた背景の一つです。

――幼少期や学生時代の経験で現在の活動に通ずる部分もあるのでしょうか?
 子どもの頃からそれっぽいことに興味は持っていたように感じます。例えば、中高時代には、家にあった赤瀬川原平の『東京路上探険記』という本を読んで路上観察に興味を持ったり、クリストファー・アレグザンダーの図を本で見て、「『ツリー構造』の考え方より『セミラティス構造』の考え方は自分に向いてそう」と感じていました。また、大学時代には同じくクリストファー・アレグザンダーの『パターン・ランゲージ』やバーナード・ルドフスキーの『建築家なしの建築』に関心を持ちました。巨匠の建築よりも、いろいろな国の住宅の間取り図の方がおもしろいと感じていたんですよね。そういうことが現在の活動に通じているのかもしれません。
 あと、18歳までに千里ニュータウン(大阪)、洛西ニュータウン(京都)、シーサイドももち(福岡)と、3つのニュータウンに住んでいて、私自身は強い愛着を持てるような土地がないことは影響していると考えています。

――「日常記憶地図」の活動の目的について教えていただきたいです。
 目的があるというより続けられるうちは続けている感じですが、特におもしろいと感じているのは、街で昔暮らしていた人たちから、旅行や本ではわからない土地の変化や背景について話を聞ける点です。元々、2012年以前に何度も1人旅をしていたのですが、その時に街の構造、例えば駅、城、商店街の関係が、それぞれ違うことに興味を持ったんです。出かけた先で資料館に行ってみたり。その後「日常記憶地図」を始めて、話を聞いた後に街を歩くと、旅行では見えない、話に出てきた場所の様子も実感としてわかるんですよね。
 あとは、年代の異なる複数の人々の話を聞くことで、1人の視点ではわからない場所の別の側面が浮かび上がり、場所のイメージが積み重なっていくんです。こういった体験は他ではなかなか得られないんじゃないかと考えています。

――ここから、「日常記憶地図」の手法について伺います。本や写真などの資料を用いる方法ではなく、地図に書き込む手法だからこその発見や面白い点はあるのでしょうか?
 単に事実としての情報ではなく、場所にまつわる人の記憶が分かることだと考えています。もちろん、資料からわかることはたくさんありますし、編集段階では様々な資料を参照しています。でも、その場所で暮らしていた人々の話を聞かないと、実際に個人がその場所をどんな風に感じていたかはわからない。聞いた話の内容が資料と結びついた時はとてもおもしろく感じますね。

――他に、地図を使うメリットがあれば教えていただきたいです。
 この方法でしか聞けない話があると思っています。地図を使うことで場所や環境の認識がしやすくなり、聞き手がその土地をよく知らなくても話し手の言っている場所だけはわかります。場所がわかる、ということはかなり重要なのではないかと思うようになってきています。例えば、近くに海や川がある、など話し手が言及していない場所への質問もしやすくなると思っています。また、地図の範囲内で語ってもらうので、話がどんどん逸れていくこともあまりないですね。一般的なインタビューのように、聞き手が話を引き出そうとしなくても、自然に思い出して語ってもらえることが多いと思っています。

――“町の弱い記憶”に焦点を当てている理由はありますか?
 もともと、町というよりは土地に関心がありました。活動を始めた頃、大阪の上町台地周辺で「日常記憶地図」を行った際は、日常生活に焦点を当てていました。その土地で生まれ育った大学生が1人いて、小学生の時、中学生の時、そして今の生活という風に地図を3つに分けてインタビューしたんです。別の4歳の子とその大学生、20年ぐらい離れているのによく似ていて、こんなに街の中心部なのに、子どもの生活はあまり変わらないところに興味を持ちました。なるべく今より遠い話、記憶の話をしてもらうようにしています。一般的には子どものころの記憶ってその人の中で思い出話として物語化されていることも多いと感じています。そういう話よりは、今初めて思い出して言語化されたような記憶の話の方が、そんなになめらかでなくても、聞いてて本当におもしろいなと思います。

――最後に生活圏を囲む手順があると思うのですが、これによって見えてくるものはありますか?
 生活圏を囲むことで、その人が当時どの範囲を「世界」として認識していたかがわかるんです。もともと、この日常記憶地図を始めたきっかけも、日常というものと”土地への愛着”に興味があったからなんです。ですから、ご本人に直接囲んでもらうことで当時自分がどこでどういう風に生活していたのか、を認識してもらうことも大切だと思っています。大きく囲んだり、あるいはとても狭い範囲を囲んだり、人によってさまざまなんですよね。

――活動の中でサトウさんの印象に残っている出来事を教えてください。
 インタビューが長時間になると、その人がまるで当時の風景を目の前にしているかのように話してくれることが多いんです。そういう時は、聞き手も何かイメージが浮かぶように感じるんですね。私だけではなく、他の人と一緒に話を聞いていて「今、何か見えたような気がする」と言い合ったことも何回かありました。
 これがなぜ起きるのかをずっと考えているのですが、1つの仮説としては、語り手が何か画を思い浮かべながら話していると、聞き手も自分自身の過去の記憶から似たようなビジュアルイメージを引き出してくるからではないかと思っています。(日常記憶地図によって)語り手が話す場所の記憶が風景描写に近いから、聞き手にも何かが見えイメージが浮かぶのではないかと考えていますが、まだよくわかっていないところです。誰かがさらに研究してくれたらいいな、と思ったりもしています。

――今後の展望としてなにか考えていることはありますか?
 自分(サトウ氏)じゃない人が、自分の地域や関心のある地域でやってくれるように進めていきたいなって思っています。各地域の場所のライブラリーみたいなものがつくられて、記憶が溜まっていくといいんじゃないかなと考えています。サトウにしかできない、という属人性のようなものは減らしていって。やはり、家族だったり自分の地域で残したいという意思を持つ人が出てくるのがいいなと思っています。この「日常記憶地図」って多分アーカイブしやすい性質があるんですよね。場所の記憶、人の話じゃなくて場所の話をしてもらっているからこそ、保存することができている。かつ、これまであまり語られてない話が残っていった。それはそれで意味があるかなと思います。

*1 MOTサテライト2019「ひろがる地図」(東京都現代美術館 / 2019)
*2 「美術館のある街・記憶・風景 日常記憶地図から見る50年」(長野  
  県立美術館 / 2021)
*3 「日常記憶地図 皆生 1940s – 2022 80年の場所の記憶」ちいさいお
  うち(子どもの人権広場)(2023)
*4 日本質的心理学会 研究交流委員会企画
*5 OPEN SITE 7 | サトウアヤコ「日常記憶地図『“家族”の風景を“共有”
  する』」(TOKAS本郷 / 2022)

サトウ アヤコ| Ayako Sato
大阪生まれ。建築と情報工学を学び「日常記憶地図」、「カード・ダイアローグ」、「マイクロ・ストーリーズ」など複数のプロジェクトを継続しながら、「場所の記憶」や、言語化、媒介的なコミュニケーションについて探求している。『日常記憶地図ノート』や展覧会の記録冊子なども制作、発行。
「日常記憶地図」サイト:https://my-lifemap.net/

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