【西嶋研究室】 traverse 25 Project

強風時の飛散物による被害過程のモデル化

博士後期課程 文 礼志

 

はじめに

強風、特に台風によって飛ばされる飛散物は、建築物に大きな損害を与える。高速で移動する飛散物は建物の外壁を突き抜け、人命や財産を脅かす可能性がある。飛散物の貫通は建物内部の圧力の上昇も引き起こし、屋根、側壁、風下側の壁にかかる風荷重が増大する。その結果、建物の部材が破損する可能性が大きくなり、破損した部材がさらに飛散物となる。これは飛散物衝突被害の連鎖として知られている。強風時の被害を低減するためには、強風中の飛散物の飛散性状、特にその飛散軌跡と飛散速度を把握することが不可欠である。台風時の飛散物の種類は様々であるが、本研究では特に飛散の多い瓦などの屋根葺き材に着目し、その飛散性状を解明する。瓦は通常、平板型飛散物に分類されるため、正方形平板の飛散実験を実施し平板の飛散の軌跡を解析することで、平板の空気力学的特性をモデル化する[1]

 

正方形平板の飛散実験

図 1に飛散実験に用いた装置を示す。まず、2 台のデジタルカメラを使用して、2つの異なる方向から平板の飛散軌跡を撮影した。次に、撮影した動画を対象に動作解析ソフトウェアを使用して、飛散する平板の位置、姿勢、速度、角速度の時刻歴を推定した。

本実験では、大きさが60 mm×60 mm、厚さが3 mm、質量が 6.6 gの正方形平板を使用して、風洞で風速8 m/sの一様な風を当てて飛散させた。平板の初期姿勢が飛散性状に及ぼす影響を考察するために、図1に示す装置を用いて平板の初期姿勢を変え複数の飛散実験を行なった。平板の初期姿勢は棒1、棒2の回転および吸盤上での平板の回転によって制御する。パラメータは棒1の回転角=(0, 30, 60, 75)、棒2の回転角=(0, 30, 60, 75)、吸盤上の平板の回転角=(0, 30)の組み合わせとし、計32(=4×4×2)ケースの実験を実施した。

図1.正方形平板の飛散実験に用いた装置。(x,y,z)は平板とともに移動する物体座標系、(X’,Y’,Z’)はグローバル座標系を表す。x,y,zの向きと、X’,Y’,Z’の向きが一致するように平板を吸盤に固定してからを変化させ平板の初期姿勢を制御した。

平板の空気力学的特性

風の中を飛散する平板は風力を受ける。平板が回転しないときに受ける風力は並進風力と呼ばれる。平板が回転すると並進風力のほかに回転風力が生じる。実験結果を解析する前に、既往研究の結果[2]に基づいて、平板の回転風力に関する以下の仮説を提案する(図2)。

仮説1:回転風力 の大きさは角速度が増加するにつれて増加し、
他のパラメータは力 の大きさに大きな影響を与えない。

仮説2:の方向 ( で表される) は次の式で計算される。

eU: 相対風速ベクトル(風速ベクトルと平板の(並進)速度ベクトルの差)の方向
eω: 平板の角速度の方向

 

図2.飛散する平板に作用する風力と角速度の向き(左:=-30°、右:=-120°)。*実験では、平板の速度は風速ベクトルに比べて小さく、相対風速ベクトルは風速ベクトルとほとんど変わらないため、近似的にの向きが風向すなわちX方向(紙面直交方向)と一致すると近似した。([1]より転載,一部変更)

上記の仮説に基づいて、角速度が図2に示す向きとなる2つの平板の状態を考える(°の二種類)。図の中に,XYZ座標系は平板と共に並進運動するが,回転しないため,並進座標系と呼ばれる。座標系の原点は平板の中心であり,方向はグローバル座標系と一致する。

これら2つの平板の飛散時間について考える。それぞれの平板の角速度ωの大きさは等しく、方向は異なるものとする。仮説1より、角速度の大きさが同じであれば、2つの平板に作用する力  の大きさは同じである。また、仮説2によると回転方向角度が0°に近づくにつれてのZ成分が増加し重力に抵抗するため(図2)、平板はよりゆっくりと落下し、飛散時間は長くなる。

上記の推論を検証するために、平板の角速度がほぼ同じであり、回転方向角度が異なる実験ケースを抽出し飛散時間を比較する。その結果を図3に示す。が0に近づくにつれ飛散時間は長くなっており、推論を裏付ける結果となった。

図3.回転方向角の平均値(全体の飛散過程の時間平均値)と平板の飛散時間([1]より転載)

 

結論と今後の展望

本研究では正方形平板の飛散実験を行い、平板の回転風力に関する仮説を立てた。第一の仮説は回転風力  の大きさは角速度が増加するにつれて増加するというものであり、第二の仮説は、 の方向が相対風速の方向と角速度の方向で決定されるというものである。これらの仮説に基づいた平板の飛散時間に関する推論を実験によって検証し、仮説の妥当性を間接的に示した。今後、これらの仮説を利用し,既往研究の結果と整合して,正方形平板の飛散運動の空力モデルを提案する。

 

参考文献

[1] Wen, L., Nishijima, K., Investigation of aerodynamic effects of rotation on 6-DOF motion of flat square plate based on free flight experiments, Journal of Wind Engineering and Industrial Aerodynamics, 245, 2024, https://doi.org/10.1016/j.jweia.2023.105629.

[2] Tachikawa, M., Fukuyama, M., Trajectories and velocities of typhoon-generated missiles. Part 1 Aerodynamic Characteristics of Flat Plates and Equations of Motion. Transactions of AIJ, 302, 1-11, 1981.

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