
【西嶋研究室】 traverse 25 Project
噴石模型の落下実験による動的空力特性の解明
博士後期課程 劉 美智
はじめに
2014年9月に発生した御嶽山の噴火の際には63名もの死者と行方不明者を出す結果となり,被害者の多くは飛来した火山礫や火山岩塊による損傷死であった[1]。この噴火で見られるように,火山からの噴石は甚大な人的被害を引き起こす場合がある。被害を減少させるためには,噴石の飛散範囲や落下速度を正確に知る必要があるが,現状、噴石の飛散性状を精度よく予測できているかは分からない。たとえば「火山防災マップ作成指針」[2]では噴石の軌道を計算する際に噴石の形状が球形であると仮定し、どの方向から空気を受けても同じ大きさの空気抵抗を受けるものとして扱っており、「火山噴火予知連絡会火山活動評価検討会報告書」[3]では噴石の空気抵抗を考慮しないで飛散性状を計算している。噴石の飛散性状を精度よく予測するためには、いまだ不明な部分が多い噴石の空力特性*を明らかにする必要があるが、これまでの研究では、風洞内に固定された噴石模型を用いて静的空力特性を測定することがほとんどであった。しかし実際の飛散物に作用する空気力は時々刻々と動的に変化するため、動的空力特性の測定が必要である。
*ここで噴石の「空力特性」とは噴石が様々な方向からの空気に対して受ける力のことを指す。
桜島での噴石模型落下実験
本研究では噴石の動的空力特性を明らかにするために噴石模型の落下実験を行った。図1に実験に使用した三種類の模型(噴石の代表的な形を模した模型 A、模型B、球形の模型C)を示す。ただし模型Aは表面が粗くあまり鋭角がないものとし、模型Bは鋭角があるものとした。模型には本研究室で開発した自立型計測装置を内蔵し(図2)、内部に搭載されている六軸センサー(三成分加速度センサーおよび三成分角速度センサー)によって落下時の加速度・角速度を計測できるようになっている。


上記の模型を桜島の麓(図3)にてドローンで上空150mまで持ち上げ落下させた(図4)。加速度・角速度の計測と同時に地上に設置した三台のカメラで落下の様子も撮影した。


六軸センサーから出力されたデータの有効性を検証するために、六軸センサーから得られる落下軌跡と動画解析から得られる軌跡を比較した。例として模型Aを落下させたときの軌跡を図5に示す。黒線は加速度センサーで計測された加速度を積分した得られた軌跡であり、赤線は三台のカメラで撮影された映像の動画解析から得られた軌跡である。両者を比較すると落下軌跡の誤差は3m以内であり、六軸センサーのデータの有効性が示された。

噴石模型の抗力係数
噴石模型の動的空力特性のうち、ここでは流体の流れの性質を表すレイノルズ数[1] によって変化する抗力係数
に着目する。抗力係数[2] は式(1)で定義され、
は風力、
は空気密度、
は相対風速、
は見付面積を表す。抗力係数が大きいと噴石模型が受けている力が大きく、抗力係数が小さいと噴石模型が受けている力が小さいことを示す。式(1)の右辺の分子
は模型質量
と絶対座標系における加速度から計算した。また、分母の相対風速
はドップラーライダー[3] *で測定した周囲の風速から、加速度センサーの加速度を積分して得られる模型の速度を引いて求めた。
*ドップラーライダー:レーザー光を大気中に照射して、大気中の微粒子からの散乱光を受信することで、風速や風向きを計測する装置である。

実験から得られたレイノルズ数と抗力係数の関係を図6に示す。レイノルズ数が小さいときには模型の形状によって抗力係数がばらついているが、レイノルズ数が大きくなるにつれ(Re≥2×105)、どの模型も抗力係数は小さくなり徐々に一定の値になる傾向がみられた。このとき噴石模型A、Bどちらも平均的に0.4に近い値になるのに対し、球体の模型Cでは抗力係数がおよそ0.3となったため、噴石のように凹凸のある形状では球体に比べ抗力係数が大きくなることが分かった。将来的には今回得られた抗力係数をモデル化し、数値シミュレーションに利用することで、噴石の飛散分布や衝突速度をより精度高く予測することが期待される。

噴石模型A, Bの抗力係数は球形模型Cの抗力係数に比べて大きい。 ([4]より転載・一部変更)
参考文献
[1]及川輝樹, 山岡耕春, 吉本充宏, 中田節也, 竹下欣宏, 前野深, 石塚吉浩, 小森次郎, 嶋野岳人, 中野俊,御嶽山2014年噴火,火山, 第60巻, 第3号,pp.411-415, 2015
[2]内閣府防災担当,消防庁,国土交通省水管理,国土保全局砂防部,気象庁,火山防災マップ作成指針,2013
[3]気象庁,火山噴火予知連絡会 火山活動評価検討会 報告書,2014
[4] Meizhi Liu, Takashi Maruyama, Kansuke Sasaki, Minoru Inoue, Masato Iguchi, Eisuke Fujita, Measurement of Aerodynamic Characteristics Using Cinder Models through Free Fall Experiment, Atmosphere, 2021