【西嶋研究室】 traverse 25 Project

Fourier Neural Operatorを用いた建築物周りの風速場の非定常予測

特定研究員 李 栄茂

 

はじめに

建築物の強風リスク評価および気象制御の目的のために、風工学分野では建築物周りの風速場や建築物表面に作用する風圧の予測に関する研究が行われている。従来は風洞実験を用いて予測されていたが、近年では数値流体力学シミュレーションを用いた予測も行われている。しかし、建築物周りの流れ場を高精度に予測するためには、解析領域における緻密な計算格子が必要であり、計算コストが高い。また、三次元空間における複雑な乱流構造の瞬時解を求めるには、シミュレーション全体にわたって時間刻みごとの流れ場を逐次計算する必要がある。そのため、偏微分方程式を解く計算のコストを減らすことが求められる。

近年、データ駆動型手法を用いた偏微分方程式の解の予測に関する研究が増加している。その一つであるFourier Neural Operator(FNO)は、フーリエ変換を活用して空間データ(例えば、流体力学の速度場)を効率的に処理するモデルである。FNOは、入力データをフーリエ空間(周波数領域)に変換することで、物理現象全体の特性を効果的に把握することが可能である。従来の畳み込みニューラルネットワークなどが局所的な情報の学習を主としているのに対し、FNOはフーリエ空間でデータ全体の中低周波数の特徴を学習し、広範囲にわたる空間的相関を捉えることができる点が特徴である。特に、偏微分方程式に基づくシミュレーションや物理的制約を伴うデータ駆動型モデリングにおいて、その適用可能性が示されている。

そこで、本研究は数値流体力学シミュレーションのコストを大幅に削減し、空間解像度が高い建築物周りの風速場の進展の予測を実現することを目指す。データの用意にはLarge-Eddy Simulation(LES)を用いて非定常な風速場データを生成した。LESは数値流体力学解析における乱流モデルの一つであり、Sub-Grid Scaleより大きな渦を直接計算し、Sub-Grid Scaleより小さな渦のみをモデル化する手法である。この方法により、時々刻々と変化する精緻な乱流構造を再現することが可能となる。また、研究方法として、FNOを用いて、単体建築物周辺気流のLES解析結果に基づく未来の風速分布予測の効率的なモデルを構築する(図1)。未来の時刻における風速分布の長期ステップ予測では、FNOは高周波数特性を一部の小さな乱流スケールを省略する一方で、大きな乱流スケールの正確性を維持する傾向がある。そのため、訓練済みのFNOに複数の時刻における風速分布を入力することで、未来の風速分布を高速かつ高精度に予測できると期待される。

図1.FNOを用いた未来の時刻の風速分布の予測手法([1]をもとに加筆・修正)

単体建物周りおよび後流の予測可能性

図2に示すように、1:1:2単体建物周辺流れに関する解析ケースは、風工学研究において標準的なケースとして広く活用されている。建物高さをとして、解析領域は13.0H(x)×6.0H(y)×5.0H(z)と設定し、建物風下側から3.0H風上の位置に流入境界面を設けた。建物の実スケールはとし、そのモデルスケールはと設定した。したがって、建物モデルの幾何学的スケールは1:500である。流入風速は5.3 m/sとし、その鉛直プロファイル[1]は図3(a)に示している。また、図3(a)および(b)に示すように、LES解析結果は風洞実験のデータで検証され、入り口および建物周辺の平均風速の鉛直プロファイルが風洞実験のデータと良好に一致している。

 

図2.単体建物周辺の三次元流れ場に対するLES解析ケース(引用文献[2]より)

 

図3.鉛直断面()における入り口および建物周辺の平均風速の鉛直プロファイル

 

実行可能性研究[2]では、過去10タイムステップの風速分布から未来の1タイムステップの風速分布を予測し(図1)、このプロセスを10回繰り返す形式で三次元LES解析の予測モデルを構築した。予測モデルについては、FNOの優位性を検証するため、従来のDeep Neural Network(DNN)との予測結果を比較した。FNOでは空間三次元に対して18個のフーリエモードを使用した。また、FNOのフーリエ層は1層、DNNの隠れ層の数は4層に設定した。モデルの訓練には30秒間のデータを使用し、予測にはその後の1秒間のデータを使用した。予測結果に関しては、連続する10タイムステップにわたる瞬時風速を予測するタスクにおいて(図4)、FNOはDNNに比べて約半分の予測ばらつきを示し、特に第10タイムステップで流れ場の動きをより正確に予測することが確認された。この結果は、FNOがDNNよりも安定した予測を実現し、長時間にわたる予測において高い信頼性を発揮することを示している。

 

図4.三次元の流れ場の鉛直断面()における、一連のタイムステップ(第1ステップ、第5ステップ、第10ステップ)での瞬時風速(m/s)の予測結果および絶対誤差(引用文献[2]より)

参考文献

[1] Z. Li et al., “Fourier Neural Operator for Parametric Partial Differential Equations,” ICLR 2021 – 9th Int. Conf. Learn. Represent., no. 2016, pp. 1–16, 2021.

[2] R. Li and K. Nishijima, “Unsteady Velocity field Prediction around a building using Fourier Neural Operator,” 第28回風工学シンポジウム講演梗概集, 2024.

[1]風の鉛直プロファイルとは、地表付近で地表面の摩擦の影響を受け、乱流を伴いながら風速が上空よりも減少する鉛直分布を指す。これは、平均風速や乱流強度が高さによってどのように変化するかを示すものである。

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