STUDIO2024

小見山スタジオ「弱い構築」

山極寿一元総長は京都大学を、新たなイノベーションを生み出す世界最大の「知のジャングル」と呼んだ。ジャングルは、常に新しい種が生まれ、陸上生態系で最も多様性が高い場所。大学も、学生や研究者が常に入れ替わり、学問分野も多種多様である。開発の途上であり、社会への実装方法が定まっていない新しい技術をエマージェント・テクノロジー(EmTech)と呼ぶが、19世紀に「鉄とガラス」という新素材の登場をめぐって建築の新しい姿が模索されたように、黎明期の技術は建築観の深層をゆさぶる。本スタジオでは、①建築学科を飛び出して京都大学のジャングルからエマージェント・テクノロジーを発見し、②その実装が社会に与えうるポテンシャルを建築デザインのプロトタイプとして構想する。

異領域の研究と建築デザインとを結びつけるひとつの手がかりとして、「弱い構築」をテーマとする。弱さとは何だろうか。構築とは何だろうか。例えば、ひものようにしなやかで解くことのできるものは「弱い」と言えるだろうか、それを結んだものは弱い構築か。異領域との対話から生まれる思いがけない「弱い」を、あたらしい方法で「構築」した建築空間を提案してほしい。

「半場所建築」 宮田大樹|小林研究室

私たちは、どんな《場所》にいても、何かをするのはそれをするための《建築》のなか。

既存の《場所》の一部を切り取って、ソコでは従来行われていなかったコトをする《場所》を作り出す:これが《半場所建築》

強い《建築》を作ることなく、弱く区切って、コトのための《場所》を作り出す《建築》

– 野生動物研究センター「フィールドミュージアム」から着想

​編集委員推薦理由

特定のエリア(=フィールド)を観察・研究対象として博物館的に位置づける「フィールドミュージアム」の手法をもとに、その場所の特性を持ちつつ切り取られた空間である「半場所」をつくる最低限のフレームを設計し、それが置かれたさまざまな場所における小さな影響を直観的に訴えかけている。抽象的な空間を実現させる手法の提案である。


田路スタジオ「空間構成原理を獲得する」

建築には、求められる機能や用途、周辺環境や法制度への適合など他律的な決定要因がある。一方で、そうした要因とは別に、建築家に託された内在的で自律的な側面がある。それが空間構成原理である。数々の優れた建築家たちは、魅力的で、独創的かつ普遍的な空間構成原理を生み出してきた。本スタジオでは、そうしたアイデアをまず学ぶことから始める。3つの建築作品を選び、図面のトレースやモデリングをとおして、建築家たちの空間構成原理を探り出す。そして、抽出した原理を展開し、自分自身の空間構成原理を模索する。重要なのは最後の形態ではなく、どのような原理を獲得できたかという点にある。その自律的な原理は、人々の用途や周辺環境との関係性といった他律的条件に適合していかなければならないだろう。それは次のステップとなる卒業設計で取り組んでほしい。

「金鳥の止まり木」 三上マハロ|田路研究室

太陽に住むとされている金烏、その名前は太陽の異称としても使われる。

太陽から放たれた「光」は、建築というキャンバスに空間を描き出す。

「光」が描く異なる空間に文化施設を取り込み、都市の喧騒からの止まり木となるような建築を設計する。

​編集委員推薦理由

彼は20世紀の巨匠ルイス・カーンによる自然光の扱い方を精密に分析し、そこから光の操作と空間の物理的な構成の関連に伴うダイアグラムを作成している。普遍的な光の問題に止まらず、文化コンプレックスとしての機能を掛け合わせた形態操作とその空間は美しき沈黙に包まれていた。


神吉スタジオ「場所の力」

これまでにない変化をみせる現代の都市・地域で、どのようなランドスケープが受け継がれ創造され得るだろうか。新しいランドスケープに向かうために、場所に潜む力を読み、その力を顕在化させる建築と都市・地域空間の提案をめざす。各人が選ぶ敷地およびその位置する都市・地域の「場所の力」の読解作業を重視しつつ進める。敷地は、全員参加でそれぞれの現地調査に赴くため、京都から日帰り可能圏内とし、自由に選ぶ。

「よりしろの街」  四十坊広大|神吉研究室

建築は敷地の上に立ちます。この建築の前提的構造を揺さぶることが今回の大きなテーマです。道路と敷地の境界、敷地と敷地の境界が特に強調されることの多い住宅街を取り上げ、道路区画・敷地区画ではない仕方で街を設計することを試みます。敷地は1960年代から70年代にかけて開発された住宅街・比叡平とし、土地が造成される前まで時間を戻し、比叡平に通ずる唯一の道である下鴨大津線が開通した1959年の状態から設計を始めます。地形に手をつけないことを拘束条件とし、「よりしろ」という新たな都市構成言語によって大きなスケールでの都市の骨格を設け、それらに対する住民の働きかけとその重なり合いによって街を形づくることを考えます。土地造成と道路区画をやめてみることによって約三千人の住むところを設計する、アナザー比叡平の思考実験です。

編集委員推薦理由

本提案は簡単なユニットによって一見画一的なものを都市に導入する試みに見えて、実はていねいに場所の性質を読み解き、そこでの暮らしがどう営まれるのかについて考察された新しい都市開発のあり方を提示するダイナミックな「場所の力」らしい設計提案である。


平田スタジオ「ものの響き」

さまざまな事象やモノが響き合いその秩序が構築されるような建築を構想してほしい。

森の中に、環境のムラ、それに呼応する植生群、またそれらを支える土壌や地盤、水の循環、などが響き合っているように、建築設計を通して、その背後にある響き合いを思考する。

建築をとりまく、環境や文化的なコンテクスト、建築を使いこなす人々のふるまいや個性、素材そのものが潜在的にもつ構造的・物理的・表層的特性などに注意深く耳を傾けて、美しく響きあう建築を構想してほしい。

「ミラージュ・イマージェンス」 小幡直|平田研究室

記憶の沈澱

いずれ周りの建物がどんどんなくなろうとも、街の残り香を受け継いだ強いソリッドが次の時代にそれを発し続け、その沈殿物が街の記憶を浮かび上がらせる。まるでパズルのピースの断片が全体像を想像させるように。この非直接的な新しい保存方法は、蜃気楼(ミラージュ)の如く弱く幻想的な総体を現出(イマージェンス)させる。

編集委員推薦理由

響き合う空間がそこにいる人々に影響を及ぼし、長い時間軸の中で新しい空間の質が提示されている。新旧の要素が混ざりあい、さらに多様な人々をまきこんでいく響きの建築。外部の人がうける印象と住民の記憶がうむ多様な解釈が響き合う。さらに新たな創造の可能性を孕んでいる提案である。

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