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Hachi Record Shop and Bar ・レコードバイヤー/神谷勇人|レコードの世界から、いま集まることを考える

聞き手:谷口颯一郎、山口結衣、神田晋大朗

2023.09.07 於 Hachi Record Shop and Bar 


サブスクリプションというサービスが全盛のこの時代に、レコードが再評価されています。私たちの生活の場であった製図室についても、コロナ禍にデジタルな製図室の在り方が提案されてきました。そうした時に再発見される製図室のアナログ的な性質の魅力がどこからきているのか。レコードと製図室がともに持つ共通点を探り、アナログの豊かさを見出していきます。

神谷勇人氏

――まずはこれまでの経歴や、Hachi Record Shop and Bar を構えたきっかけについてお聞かせください。

まずお店の成り立ちから言うと、私たちの会社は株式会社酒八というクラフトビールや日本酒を提供する飲食店舗を中心にした事業店舗を展開してる会社なんです。僕が入ったのはここ1、2年なんですが、仕事としてはいわゆるレコードのバイヤーと、バーの接客をしています。旧遊郭の余韻を今に残しつつ、近代洋館の意匠を纏った不思議な佇まいの京町家を改装しています。うちの会社はもともと日本酒の蔵元だったんですが、日本酒の醸造としては廃業しており、大きな日本酒の蔵が当時の姿を今に伝えるのみです。いつかはメーカーに戻るっていう希望があるようですが、その前段階としてビールと同じように日本酒もカジュアルに楽しめる空間を作りたいというコンセプトがあります。

僕個人は、ここに勤める前は大手のレコード屋で6年ほど働いていて、レコードの仕入れやレコードに関わる仕事をずっとしていました。ちょうど僕が京都に引っ越してきたくらいの時にレコードの担当者が不在になり、タイミングが重なったことでこちらで働くことになりました。そのため僕の仕事はレコードが圧倒的にメインで、2階のレコードの仕入れ全て担当しています。海外から買ってきたり、日本で良いものを見つけたり、あとは最近出た新譜も全部チェックしたりするのが僕のメインの仕事ですかね。海外にも行けたらいいのですが、渡航費も高いですし、うちはそんなに坪数があるわけではないので、他のお店と比べるとそこまでがっつり海外に行くということはしてないです。ここ2、3年はコロナなど色々な事情もあり、オンラインや買取でレコードを仕入れていました。

Hachi Record Shop and Bar 外観

インコンビニエントなものについて

Hachi Record の HP には「レコードはデータ音源に比べ、コ ンビニエントとは言えませんが、かつて帯びていたメディア性・ 丁寧に音を聴く・選ぶ空間をもう一度と考えました」とあります。より便利な方向へと進化した時に生まれるデジタルに対し て、アナログ はどうあるべきなのか、議論していきます。

――便利な方向に進化したサブスクに対して、インコンビニエントなレコードの魅力って何なのでしょうか。あるいは、レコー ドを好きになったきっかけやそのエピソードはありますか。

僕は大学を辞めてすぐレコード屋で働き始めました。音楽が 好きだったのでたまたまレコード屋で働き始めて、レコードに 触れる機会が多くなり、好きになっていきました。それがちょうど2015 年くらいです。レコードブームがちょうど始まったくらいの時ですかね。

レコードの魅力か。難しいですね(笑)。ジャケがでかい。まずでかい。こうやって飾っているとだいぶ映えるっていうのがまず1個ですね。かっこいいっていうのと、僕のメインの扱ってるジャンルってジャズなんですけど、今でこそレコードをなんとなくかけてるカフェって多いじゃないですか。日本にジャズ喫茶っていう文化があって、そこでジャズのレコードをかけるのがほぼ当たり前のように行われている場所があるんです。地元のそういうお店に行くのが元々好きで、レコードも当然かかっていたのでレコードにそもそも憧れがありました。僕が買い始めた当時は、レコードがまだ安かったんですよね。サブスクも当然ないですし。CDはあったけど、CDって新譜で出てもアイドルでもなんでも1枚2000円くらいするじゃないですか。それがジャズのCDを買うときに、同じ内容のものをレコードで探すと500円とかで買えたりしたんですよ。安く買えるというのは、まず1個の魅力ではあったんですよね。あと基本サブスクが台頭しても、サブスクにない音源がいっぱいあるっていうのがレコードの魅力です。やっぱり当時出たものを今出し直そうとすると、原盤権とか権利の問題で出せなかったりとか、サブスクやCDを出せないという例がいっぱいあるので、誰も知らないような音楽に巡りつけるのが、レコードの1個の魅力ではあるかなって思います。

――レコードが持つ不便さやあまり一般受けしないようなところについてはどのように考えていますか。

例えばレコードブームが来てレコードを聴きたいとなっても、まず機材を買わなきゃいけないじゃないですか。ものすごくアナログなので携帯電話1個で済まないですし、レコードプレイヤーってとにかく場所をとるんですよね。おそらく製図板もアナログでやると、すごくでかい製図板になりますよね。それからレコードはパチパチ音がして、レトロっぽい暖かい音がするっていう魅力がよく言われるんですよね。レコードって表面に溝がずっと刻んであって、そこに音が入ってるんですけど、これに傷が入っちゃうともう音に出ちゃうんですね。バチバチ音がなって音楽を邪魔しちゃうので、そういう面はコンビニエントじゃないですね。手入れも杜撰にすると、あっという間にその音楽を邪魔するノイズになってしまいます。あとは、長年倉庫に置きっぱなしにすると全部カビだらけになったりもします。当然カビだらけになると音楽を邪魔するノイズが入るので、すごく不便で嫌ですよね、やっぱり。

店内2階にはニッチなレコードが並んでいる

――今はサブスクがたくさんあるので、レコードって本当に音楽が好きな人しか手を出さないというイメージがあります。

うんうん。最近のバンドでもとりあえずレコードを出すっていうバンドはすごく多くて、アニソンでも、バンドでも、アイドルでも、とりあえずレコードで出すというのがブームになっていますね。だから最近はレコードがすごく好きな人じゃなくても、レコードを買うパターンがちょっとずつ増えてる感じはしますね。アニメ好きの人がグッズを買う延長でレコードを買うというパターンも最近は割と聞きますね。プレイヤーは持ってないけどレコードを買うみたいな。そういった意味でレコードにはコレクション的な側面やファンアイテムのような側面もかなりあると思います。

――ホームページの文章でメディア性というワードが気になりました。私たちはまだ20 代前半なので、レコードやCD が全盛期の頃はあまり記憶にありません。そこでレコードの社会的な立ち位置の変遷などをエピソードとともに教えてほしいです。

基本的にいわゆるこの形のレコード(LPレコード)は大体、1940年代から普及し始め、そのあと50年くらいずっとレコードの歴史が続きます。その後80年代後半から90年代くらいにCDが出てきて、需要が一気に下がるんですよね。だんだんCDに移行していって、90年代後半から2000年代は、レコードの人気は全然なくて、それこそコアなファンの人が買うメディアでした。その後なんかの拍子に、2010年代中頃からとんでもないブームになって、今に至るっていうのがレコードの変遷だと思います。レコードが不人気になった90年代から2000年代にかけての間でも、すごくマニアックな曲のレコードが出ていたり、CDになっていないものがあったりして、誰も知らないレコードを世界中回って探してきて、いわゆるDJのひとが踊らせるための音楽として使ったり、ヒップホップのサンプリングという手法で使われていたりするというのが、歴史の1個じゃないですかね。

店舗1階でバイヤーの作業を行う神谷氏

――サブスクのメディア性について考えてみると、今はサブスクが一番影響力があって、 どうやってサブスクの中で聴かれるかのような、逆に音楽に影響を与えている部分があると思います。こういった現象はレコードが全盛の時にもあったのでしょ うか。

レコードの場合は外側が一番音が良くて、内側が一番音が悪くなるので、外側に良い音楽を置いたりすることがあります。どうしても曲の収録の幅も狭まっちゃうので、そこである種の制約があったり、1枚に収めるためのクリエイティビティが活かされたりもします。音楽をご家庭で再生できるための一番最初のフォーマットじゃないですか、ここ100年で。ビートルズやロックが流行ると、ジャケットに仕掛けができたり、ジャケットがちょっと動くようになったり、レコードは最後針がずっと内側で回り続けるんですけど、ここに音を入れるギミックを入れたり、ずっと音がリピートするようなギミックを入れたりする遊びみたいなのは、60年代とか70年代ぐらいになると出てきますね。そのような新たな遊び方みたいなのはロックが流行ってから出てきたはずです。もっとレコードを作品として、メディアとして楽しむようなギミックが出てきたのは、多分60年代ぐらいからだと思います。

――レコードを主にバイヤーとして扱っている人たちはサブスクに契約しているのでしょうか。

それね、めちゃめちゃ聞かれます(笑)。僕個人で言うとSpotifyとYouTubeとApple Musicを契約していて、僕はめちゃめちゃサブスクを使います。例えば新しく新譜が出たりすると、やっぱりすぐレコードは買えないので、まずサブスクでとりあえず聴くしかない。あと、買いに来る人も基本サブスクで聴いちゃってから来るってパターンが多いんですよ。視聴を家で誰でも簡単にできるので、レコードを仕入れてから売り方を考えてると、もう遅いってなりますよね。全然内容が良くなかったりすると、もうおしまいみたいな感じになるパターンが多いんで(笑)。あと、このアルバムの内容はどんなのだったかなっていうときにレコードに針落とすよりサブスクで聞いた方が早いですし。ただやっぱりレコードが好きで集めてるので、好きな音楽とか気に入った音楽を聴くのはやっぱりレコードが多いですね。わざわざ買ってまで、レコードに針を落としてまで聴く。聴きたくなるようなものはレコードで聴きますね。

キッチン横に置かれたレコードプレーヤー

 

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