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インキュベータ/ 飯島由多加・ソフトデベロッパー/岡雄大|「方向性のある多様性」ー密度ある多様性を作り出すものとはー

余白を作ること、作らないこと

――場を生み出す時に、あえて余白をつくって決めきらないこと、予測と異なった結果によって場の可能性が引き出されたことはありますでしょうか。

飯島 予測と結果、設計コンセプトと実態、ですね。一例を紹介すると、ダイニングでは食事だけでなく仕事や読書、共同作業や相談もできるような場所をコンセプトとして描いて、実際その通りに機能しています。一方で全く想定していなかったこともあって、ライブラリースペースの床が柔らかい所では、フェローの子どもが昼寝をしていた時もありました。それはもうすやすやと。そんな使い方もあるんだなっていう、ポジティブな意味で予測していた機能に留まらない部分もありました。

また、空間的・時間的な余白はとても大事だと思っています。近い距離で過ごして、それぞれが事業開発に打ち込む姿が見えて、刺激をもらって、相談したい時はすぐにできて、というのはもちろん良いんですけれども、それだけだとしんどくなると思います。ちょっと一息おいて自分の部屋でゆっくりしたり、ライブラリースペースでひとり静かに読書したり、小上がりやソファで寝転んだり。一人で落ち着いて考えられる余白があって、それぞれの密接なつながりや個々の創造性が生まれる好循環を実感することは多いです。

 

 実はかなり決めてやっていて。でも、どこに視点を置くかで結構話が変わる気がしています。

まち目線で行くと何も決めてないという感じですけれども、空間視点で行くと詳細まで決めてつくり込んでいます。ホテルでは3時にチェックインして11 時にチェックアウトするという行為は明白だし、銭湯ではお風呂に入る行為が明白です。僕らが1 個1 個やっているプロジェクトって、宿泊をするとか、 体を動かすとか、お風呂に入るとか、ご飯を食べるとか、toberu に比べると実はすごく余白の少ないプロジェクトを取り扱っていると、聞いていて思いました。

1 個1 個のプロジェクトでは、具体の行動をここでこうして欲しいみたいにかなり定義していて、余白がないとは言わないですけれども、想いが強すぎて行動までデザインしたくなる気持ちがあるなと感じています。

一方、まちの成長という観点から考えると、基本的には余白として考えざるを得ないという視点でまちと接しています。例えば、アパートを6室作った時に、そのアパートにどういう人に来てほしいかみたいなペルソナを書くことができても、本当にどういう人が住むかまではコントロールできない。だから、6部屋の人を見てからでないと、釣り部屋であるべきなのか、本屋であるべきなのか、何であるべきなのかみたいなことが、なかなか分かってこないと思っています。常にそのまち全体をプロジェクトと見立てた時には、行き当たりばったりなのか、行き当たりばっちりというべきなのか、余白が常にある状態の中で、日本橋も瀬戸田もやってきていますね。

ただ、導入の1 個目のプロジェクトっていうのは、そのまちと出会って仲良くなって、そのまちを1 番よく表す最高の店をつくるプロジェクトから始まっているので、そこはすごくつくり込んでいます。余白を大事にというよりかは、つくり込むことに没頭することで、相手のことやまちのことをよく知れるし、受け入れてもらっているまちに対して、自分たちはこのぐらい真面目にまちのことを考えてつくっていることを伝えたい。自分たちの姿勢はやっぱり知ってほしいし、そこはもう余白とは真逆の境地です。全ての角度まで自分として決めたいまであるかな。

ライブラリースペース  提供:フェニクシー
Azumi Setoda の客室※2  提供:Staple
(※2 Staple の兄弟会社ナルデベロップメンツの関連会社Azumi Japan による企画・運営)

 

――実際どういう人が何をしているかが決まってない状態では、人と共につくるのが大事だけれども、具体的な行動に関してはどの人も共通する部分があるので、そこに関しては行動のデザインのが緻密になってくる訳ですね。

 繋がる行動の場ということを考えると、予定不調和を意識している部分もあります。

例えば、Soil Nihonbashi。ワークスペースの真ん中に、大きい丸っこいキッチンがあります。仕事をする場なのですが、人は必ずご飯を食べたり、飲み物を飲んだりするので、ステーションとして部屋の中央に置いています。 誰かが一生懸命仕事していたり電話会議をしていたりする傍ら、誰かが大根を切っているっていう、予定不調和の景色が生まれるようにつくっていて、ある意味それは余白だと思うんですよね。何をやっても良い場所なので、それが良いと思うんですよ。

似たような話で、今度はSoil Setoda のレストランですけれども、階段状になっている席があります。人のご飯がある高さに人の足があるレストランって、絶対あってはいけないことなのですが、あえてやっています。階段状の席では、座り方が人それぞれになってきます。人の座るという行動の中でもかちっと座るとか、ゆるっと座るとか、様々な行動があるので、全員同じように座って欲しいのではなくて、座り方も多様であって然るべきだし、椅子なのにちょっと寝そべる人もいた方が良い。自分らしくいられる空気感にするために、物理的な視覚的情報がより人を自由にさせるんじゃないかと思っています。

だから、相反するもの、例えば仕事をしている横で大根を切とか、ご飯食べるところに人の足が同じ段にあるとかですね。こういう意図で設計していて、ということはもちろんサービスマニュアルには書いていないですが、スタッフが潜在意識として感じてくれていて、結果少しでも和らいでくれたら良いなと思っています。そういう意味でも、余白は大事だなと思います。

 

今後の展望

――最後に、将来どのような展望を考えられていますか。

飯島  自分の常識や経験の外で考える、既成概念にとらわれない、というような意味の「Think outside the box」という表現があります。私たちも、toberu という箱の外にも出て、また違った非日常に触れる機会も提供したいと考えています。具体的には、私たちフェニクシーがモデルとしたアメリカのハルシオンや、ワシントンDC 周辺でインパクトビジネスや投資に関わる組織をいくつか巡るようなツアーを企画しています。社内や国内では得がたい気づきを得るのが狙いで、米国首都スタートアップエコシステムの一端を体感できるようなツアーにしたいと思っています。コンセプトは「Think outside the box called Japan Inc.」、日本株式会社という箱の外で考えてみる、そんな感じです。

あと、私としては toberu という品種の苗みたいなものが出来たら良いなと思っています。toberu の苗をどこかに植えさえすれば、それが京都じゃなくても、北海道でも沖縄でも、そこで起業人材が育つ、新規事業が生まれやすくなる、そんな品種に育てていきたいです。そういうことがうまくいくとしたら、いつもその中心、礎には、素敵な建築があるんだろうなと思います。

 

 人口減少下でも、民間に移設された適切なインフラ運営と、生活インフラ・思考インフラが揃う地域をつくるのは、社会的に必要なことだと思っています。それをもう何パターンかやってみて累形化してみたいです。国際的にも、これから人口減る国がかなり多い中で、そこに人口を増やすのではない解みたいなのを含めたら非常に面白いなと。そこを探っていきたくて。

また、その時、物流のグローバリゼーションを中心とする経済はあまり誰も求めていないんじゃないのかと思っています。文化の画一性という観点からも、どこでも同じものが食べられて、同じようなデザインもできて、素材もあるという状況では、どの都市に行っても同じようなデザイン・料理になってしまう。それは旅好きの自分としてはつまらない。自分の行っている地域づくりとグローバル社会を見た時に、アイデアと人が駆け巡っているんだけれども、物流はローカルの中で完結している状態をつくりたい。これからは、地域を跨いで、インターローカルな人とアイデアの共有が出来ると良いなと思っています。

その第1 弾として、ちょうど僕らと真逆のまちづくりをしている村、岡山の西粟倉村と知見の共有を始めます。観光を全くやらずに、「一次、二次産業のアップデートと未来の里山を作る」というキーワード、「 いかにエネルギーと一次産業の循環、自然と経済資本循環を起こすか」というテーマに結構成功している所があって。彼らは緩やかな観光をそろそろ始めたい。一方、僕らは観光をやっていくのに、いかに自然生態系が弱っているかとか、地元の人も新しいものに挑戦していけば良いのにみたいな、人の挑戦という意味での土壌の豊かさの不足に気がついていたので、補完し合えるという話になりました。まさにお互い合わせて、ナレッジ共有しようみたいな取り組みが始まるのですけれども、そのようなことを続けてやっていきたいです。

インタビューの様子 

飯島由多加

株式会社フェニクシー 取締役・最高広報国際責任者

VLP セラピューティクス・ジャパン株式会社 国際広報・IR 部長

京都大学 研究員(2007 ~ 2010 年)・職員(2010 ~ 2020 年)として材料・バイオ系国際研究拠点(WPI-iCeMS)のパブリックリレーションズや全学・部局の国際交流に従事。ソーシャルベンチャー支援・投資を行う米国Halcyon でインキュベータ運営補助・メディア担当(2017 ~ 2018 年/京大からの海外派遣)を経て、2020 年より現職。Strategic Public Relations修士(米国ジョージワシントン大学大学院)。京大理学部ロゴ制作者。

岡雄大

株式会社Staple 代表取締役/ 株式会社Terrain 共同代表

岡山に生まれ、米コネチカットと東京で育つ。早稲田大学政治経済学部卒業後、スターウッドキャピタルグループの東京及びサンフランシスコオフィスで不動産やホテルブランドへの投資業務に従事。シンガポールで独立し、ホテルブランドへの投資戦略や経営企画に関するコンサルティングを行う。2019 年からはInsitu Japan(現 Staple)の本格稼働を開始。都市一極集中ではない社会を見据えた場やまちの企画・開発・運営に情熱を燃やす。

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