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インキュベータ/ 飯島由多加・ソフトデベロッパー/岡雄大|「方向性のある多様性」ー密度ある多様性を作り出すものとはー

聞き手:森田健斗、千葉祐希、神田晋大朗

2023.09.26 於 toberu2 


製図室では「設計に取り組むという共通の目的」をもつ個性ある人が集まって同じ空間内で作業をすることで、「互いの学びを深あめ合う場」、「創造の源泉となる場」が形成されている。本インタビューでは、製図室の特徴である「方向性のある多様性」に着目し、さらに多くの人、多様な背景を持つ人々が活動する場へと視野を広げる。

本企画では株式会社フェニクシーで取締役・最高広報国際責任者を務められ、インキュベーション施設「toberu」を運営されている飯島由多加氏、株式会社Staple を経営され、コミュニティが生まれアイデアが事業として形になる「密度の濃いまち」の実現を目指して事業を展開されている岡雄大氏に、「多様性を活かし、密接に繋がる場をつくること、育てること」について想いを伺う。

飯島由多加氏(写真左)、岡雄大氏(写真右)

 

――ご自身の活動、事業についてご紹介頂けますでしょうか。

飯島 私はフェニクシーという会社で、社会課題を解決する事業アイデアとそれに取り組む起業人材を育てることをミッションとして、フェニクシー専用施設「toberu」で居住滞在型のインキュベーションプログラムを運営しています。

toberu に居住しプログラムに参加する人たちをフェローと呼んでいるのですが、フェローは、収益と社会課題の解決の2つが両立する事業モデルをつくることをゴールに4か月間を過ごします。私たちはスタートアップ流のスキル研修や日常的な異業種交流、事業領域に応じた個別メンタリング等を通した伴走支援をしています。

対象としては、2種類の方々に対して。一つはスポンサー企業の社員の方々。もう一つは一般公募枠で、学生・研究者や、起業後1年以内や売上1億円以下くらいの方々です。両方の方々が時間と空間を共有しながらプログラムに参加して、最終発表に向けて過ごしてもらう、ということを行っています。

toberu でのインキュベーションプログラム  提供:フェニクシー

 Stapleという会社をやっておりまして、「ソフトデベロッパー」を標語にしています。不動産の企画としてハードウェアのに開発をしているのですけれども、我々はその先の中身まで目を通して一気通貫で行っています。一気通貫で行うことで、ハードウェアをつくっていくだけではなくて、その中身の人の営みだったり、シーンなどもつくっていく。ハードウェアをつくっているデペロッパーに対してある種、差別化を図る意味合いでも「ソフトデベロッパー」を掲げています。

特色として、ブランドをつくって横展開していくのではなく、自分たちが「ここは気が良いなとか、ポテンシャルが高い、ここで生きていきたいな」と思う、「ご近所」と呼んでいる徒歩20分圏内ぐらいのユニットを旅する中で見つけて、そこで徹底的に企画開発、運営という行為を繰り返しています。

また、都市と地方の関係性を模索していきながら、より地方の拠点を増やしていこうとしています。例えば長門湯本温泉。なかなか行ったことがないと思うのですが、私たちは場所を見いだして、掘り起こして、深掘っていく。多層性を理解して、企画を重ねていくことに喜びを感じている企業です。

まちへのアプローチ

 まちへのアプローチは、大きく分けると2つあります。

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まちへのアプローチ  提供:Staple
 

一つ目は、「高さをつくって、交わりをつくること」です。我々は、密度の高い徒歩20分圏内の中で、多様な人々・アイデアがどんどん集まってきて、使い合って、何か新しいものが生み出されるエネルギーをつくることが、まちが盛り上がっていく、豊かになるということだと思っています。高さと交わりは、それが起きるための装置としてつくっています。

高さをつくることは、周知されるきっかけをつくることです。そのために、衣食住、その地域性を表したホテルをつくります。交わりをつくるために、まちに段々ポコポコ増えていく、交流拠点となる施設「Soil」をつくっています。複合的にあらゆる便利なものが纏まったショッピングモールを因数分解し、街中に配置をしていくイメージです。まちの回遊性を上げると共に、一つの施設がまちを牛耳っているんじゃなくて、分散しているが故、まちとして多様なコンテンツができているように見える。このようにして交わりをつくって、高さと広がりができると、3Dの受容性がどんどん上がっていくので、多様性を受け入れられるまちになっていくんじゃないかな、という思いを持って開発をしています。

二つ目は、「まちに関わる人を二分化しないこと」です。人口が減っている日本の地方において、大凡の観光地ではどうしても、観光客と地域住民の二分化が起きてしまっています。そこで、僕らは観光客を「ポテンシャルローカル」と呼びます。彼らは、複数回繰り返して来るうちに、友達ができて、関係者となって「ニューローカル」(関係人口)になるかもしれない。また、その人たちも数十年経てば、地域の地元住民である「オリジナルローカル」になっているのかもしれない。このような考え方をすることで、二項対立ではなく、3層が全てインクルードされていくのではないかと思っています。そのような思想を持って、現在は日本橋という都心と、瀬戸田というローカルな場所の2箇所でやっています。

瀬戸田での取り組み  提供:Staple

瀬戸田での1つ目のプロジェクトが、まち一番の豪邸を改装して旅館Azumi Setoda ※ 1 にするというものでした。これをやる傍ら、地元の方々とワークショップで、どういうまちにしていきたいかと話をしていたら、「高級な旅館が出来ても、俺らは飯を食いにいけないし泊まれないから、つまらん。」と言われました。「じゃあ一緒にお風呂入りましょう」と言って、yubune という銭湯をつくりました。次は何が欲しいですかっていうと、「銭湯あがったら、海見ながらビール飲む場所ほしいよな。」と。確かに、となって、海の目の前の場所で風呂上がりにビールとワインを飲んで仲良く交流を生む場所、Soil をつくりました。

まさにAzumi Setoda ※ 1 で高さをつくり、yubune やSoil で交流を生むことをやった結果、国内外の人たちがポテンシャルがあるんじゃないか、面白いんじゃないかっていう風に思ってくれたようです。アメリカのOverview Coffee というコーヒーのブランドが瀬戸田にロースターを置いてくれたり、西麻布で売れっ子な中華料理の鬼崎シェフが「これからの時代は港区でお金持ちに2万円のコースを出すよりも、いかに食材の近くで、漁師さんや農家さんとコミュニティをつくれる方が格好良い。」と言って島に移住して、レストランをつくってくれたり。また、柑橘が有名な島なので、柑橘を使って僕らがブランディングをして、商品として売っていくような流れをつくりました。

そうやって、ホテルから始まり交流を生んだ結果、人との出会いもあって移住して新しいことを始める人もいれば、僕らもホテルの運営だけじゃなくて、一次産業・二次産業を含んで、どうまちに活性化をもたらすか、という話になってきたところです。

※1 Azumi Setoda:Staple の兄弟会社ナルデベロップメンツの関連会社。Azumi Japan による企画・運営

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