株式会社竹中工務店 総括作業所長/中野達男|仮囲いの中の現場哲学

― 学生に向けて

中野 この現場では皆さんの先輩(京都大学出身)が鉄骨担当をしています。でも、大学で4 年か6 年間どんなに勉強していても、現場で培われた職人さんの技量にはかないっこないんです。だから、自分のプライドとか、そういうものが空回りして、「何で自分がこんなに頭を下げなあかんねん」と悩む時期がどうしてもあります。でも、できるだけ早くそのことに気づき、「職人さんの知恵を吸収して、人をうまいこと使える」ようになった人が、現場で大成するといえますね。

―― 今の新入社員をどういった風に見ておられますか。

中野 近年の新入社員の傾向としては、頭はいいけど知恵がない。同じ方向には従順で向いてくれるのですが、そうではなくて反対の方向に進むくらいのやんちゃがちょうどいい。なんだか歌詞のようですが、将来を通じてそちらの方が面白いかと思います。

また、昔に比べて体力・精神力共に弱くなって来ているように思います。すぐ風邪をひいたり熱中症になったりしますしね。他にも、土曜に仕事をしなければならなくなった時、「入社した時に土日は休みと聞いておりましたので出勤できません」と堂々という新入社員も出て来ました。挨拶もちゃんとできていない人が多い。昔は先輩の背中を見て育って来たと言っていたけど、今は、先輩の背中にマニュアルを書いて読ませるような、懇切丁寧に一つ一つ教えてあげないといけないような人間が増えたように思います。体育会系と言いながら、体力・礼儀すべてに教えられてないことを感じます。

―― 厳しくして育つ人とそうでない人はどのように見分けていますか。

中野 現場に入って来た時に必ず大きな声を出させています。ついて来ることができない人は目も虚ろで、中には震えてしまう人もいます。体育会系出身の人も長い目で見ると結局同じなんですよ。新人がどの程度の負荷で潰れてしまうかを判断するのは難しいのですが、それを見極める能力も必要になってきています。

―― 現場では女性管理者の姿も見られましたが、現場という「男の世界」でうまくやっていくための配慮はありますか。

​中野 若手の中でも現場監督として仕事をしている女性が最近増えましたが、彼女たちにはすごく重圧がかかっています。政治や会社などにおいて、女性が社会においてリーダーシップを取っていくことが期待されていれていますが、頑張りすぎて潰れてしまう人たちだっているんです。頑張るということは長期的に徐々に積み上げていくものであって、急に成果を出すことではないですから、周りが騒ぎ立ててはいけないと思います。その人に何ができるかを考えるべきです。そこに男女の別は関係ありません。頑張れなくなった人に頑張れと言ってはいけない。そのような状態になった人たちはちゃんと呼び出して話を聞くようにしています。

― 人間愛

―― 最後に一言お願いします。

中野 やはり人間愛。これに尽きる。私はインタビューの時、「最後に一言」と言われたらいつも、「絶対笑ったらあかんよ、笑ったら怒るよ」と言って、「LOVE です」と言うことにしてるんです。そしたらやっぱりみんな笑うんですよ。でも、みんなそこに繋がってくると思うんです。だから、それをずっと案じながら仮囲いの中でずっと生活してきました。

それが仮囲いから外に出て、家庭の愛とか、家族愛となると、私はなかなかできなかった。奥さんにやさしい言葉もかけられなかった。やっぱり、家では現場みたいなはしゃぎ方はできない。常に何かが気になってね。まるで海外に派兵された兵士のようです。常に緊張の中で戦ってきて、たまに国(家)に帰っても戦場(現場)の事ばかり考えている。戦場に行かされている時は良いのですが、退役になった時のことを考えると怖いものを感じます。もしかすると家庭復帰のリハビリが必要なのかもしれません。でも、そういうことを自分で反省しながら、奥さんや、子供や、周りの人に、40年間失くしていた愛を今からちょっとずつでも返していこうかなと思っています。

 

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