【小見山研究室】弱い構築

【Komiyama Lab】English title: coming soon

執筆:小見山 陽介・根城 颯介

儚い時間/弱い構築

 大学の研究室は毎年所属する学生が変わり続ける。一人の学生は1年から最大3年程度所属するものの、3月には必ず卒業する学生がいて、その年の構成メンバーがまた揃うことは二度とない。僕の先生だった難波和彦が寺山修司の随筆集にある井伏鱒二の言を引いて「さよならだけが人生だ」と常々嘆息し、研究室の学生たちにも「今いる環境に拘泥せず自分を常にそこから引き離す努力をすること」(つまり、与えられた場所に生きるのではなく、常に新しい場所を自分で開拓していくこと)を説き、「研究室」の儚さを強調していたことが今はよくわかる気がする。一方で、もう一人の僕の先生であるリチャード・ホールデンは、そんな学生たちとの短い時間のなかで「建築の全てを擬似体験する」ことを目指し、マイクロ・アーキテクチュア・プログラム、すなわち1年かけて小さな建築を建てる設計教育を始めた。僕がスタジオ課題という枠組みを使い研究室の学生たちと「小さな建築」を建てているのは、難波先生に教えられた儚さを受け入れつつ、小さな建築の中に大きな可能性を見るホールデンの野心にも惹かれたからである。その時だけしかない学生たちが所属している間にプロジェクトを完結させるためには、大きさや期間に制約が自然と生まれる。しかし、ホールデンが「ドアノブから空港まで」と言ったように、小さな建築の中にも、大きな建築をつくるための学びや気づきはあるはずだ。
 2025年度のスタジオ課題は、テーマを2年前と同じ「弱い構築」とした。素粒子物理学の〈弱い相互作用〉のように、微かで小さく短命だけれど確かにこの世界を構成する重要な関係性やそれが持つ力に着目することで、小さな建築から大きな建築へも展開可能な建築のプロトタイプを探求した。具体的には小見山研究室に依頼のあった2つの実施プロジェクトと連動してスタジオを進めた。一つ目は吉田キャンパス内に新たに設置される、障がいのある学生を支援するための施設DIINセンターに置く家具の製作。収納、間仕切り、折りたためる椅子など、使い方によって空間を変えられるフレキシブルな什器の製作を、喜木家具工房 南山喜揮氏の技術協力を得つつ、DIINセンターの村田淳准教授と行った。二つ目は、桂キャンパスにほど近い桂坂公園で使用される仮設の日除けテントの製作。膜構造を広く取り扱う太陽工業とも協同し、桂坂自治連合会のために膜を用いたテントの設計を行った。本稿では、これら2つの実施プロジェクトの途中経過を報告する。
 なお、4回生たちには、これら実施を前提とした小さな建築の設計で得たコンセプトを、より大きな建築の構想へと展開することも求め、それぞれ敷地やスケールを変えて建築プロジェクトへの展開を提案してもらった。スタジオ課題という儚い時間の中で取り組んだ弱い構築物の設計が、4回生に限らず参加した学生たちの中で今後何らかの建築プロジェクトの構想へとつながり展開していくことを願う。
(小見山陽介)


DIINセンタープロジェクト

 吉田キャンパスに新設されるDIINセンター(ディスアビリティ・インクルージョンセンター)内の活動スペース「DIINスタジオ」のための什器の設計。施設を主宰する村田淳先生と打合せを重ね、実際の製作を行う喜木家具工房の南山喜揮さんの助言も得ながらプロジェクトは進められた。障がいのある学生のための支援器具のフィッティング(試着、調整)や、センタースタッフらのミーティングなど、異なる場面に合わせて部屋が可変できるような什器の製作が求められた。

折り畳む、ひっかける

 打合せを重ねる中で出てきたアイデアが「屏風」の機構だった。屏風は開閉によって簡単に空間を変えることができ、コンパクトに畳むこともできるので収納スペースの限られたDIINスタジオにも適している。屏風を構成するパネルをただの板ではなく加工され機能を付与されたものとすることで、その組み合わせによる使い方の幅はさらに広がる。例えば、フィッティング時には利用者のプライバシーを守る衝立となり、普段はものを引っ掛けて収納する棚となり、屏風を取り外せばテーブルの天板として利用することもできる。

 屏風と同じ折り畳みの機構を用いた椅子と、屏風を固定するための「島」と名付けた家具も設計した。椅子の形状はシンプルな六面体(立方体)とし、単体で座れるほか、積み上げれば机の脚や棚としても使える自由度を持たせた。中は空洞で、底にはキャスター付きでスムーズに動かせるため、来客のちょっとした荷物を収納したり、イベント時には台車代わりに荷物を運ぶ道具にもなることを意図している。島は、屏風を安定させる支えになるほか、異なる高さに設けられた水平の棒材が支援器具をクランプやクリップで固定するための拠り所となる。後述のパラコードと組み合わせることでさらに様々な使い方が考えられる。

パラコードによる接合部

 接合部にはパラコードと呼ばれる紐を用いた。登山でも使われる強度のある紐で、コードロックと組み合わせればロープワークに詳しくない人でも取り外しが容易で、屏風を外して机の天板にしたり、屏風と島との接合位置を簡単に変えることができる。紐を緩めることである程度の誤差も許容して固定できるため、想定外の組み合わせ方も可能になる。紐と板との接合方法を様々検討した結果、最小限の穴を開けて紐を通すシンプルな方法に収斂した。

 折り畳まれることや、引っ掛けることなど、固定し過ぎないことを統一のコンセプトに屏風・椅子・島の3つの什器を設計した。我々が設計した什器が、新しく開設されたDIINスタジオの使われ方に応じて自在に空間を変えていく助けとなることを期待したい。
(担当学生 本田凌也、船留祐希、吉原綾音)


桂坂公園プロジェクト

 桂坂公園の活性化を、京都市建設局みどり政策推進室、桂坂自治連合会、エイチ・ツー・オー リテイリングと一緒に、考えていくプロジェクト。技術協力と材料提供の面では太陽工業にもご協力いただき、まずは、2025年の7月に折り畳みができる日除けの仮設構造物を公園に実装することを目的にプロジェクトがスタートした。

桂坂公園の概要

 桂坂公園は京大桂キャンパスから徒歩20分の場所にあり、「人間と自然が共生する新しい街づくり」を目指してつくられた桂坂地区の中央に位置する大規模な公園である。開けた大空の元に起伏豊かで自然豊かな地形が広がり、芝生広場、緑に囲まれた遊歩道、池等が配置されている。隣接する「桂坂古墳の森」周囲の桜並木は春には見事に咲き誇る。ポテンシャルを持った公園でありながら、住民が公園に集うきっかけが少なく、同公園の魅力を住民が享受しきれていないという課題があり、京都市の「Park-UP事業」を活用して公園の魅力向上をはかることが目指された。

桂坂自治連合会との定例ミーティング

 桂坂自治連合会との定例会議は2024年11月から始まり、いま地域住民が公園に求めていることがアンケートやワークショップなど様々な形で意見聴取された。2024年度末までには公園の使い方の幅をさらに広げるために仮設の日除けをつくるという方針が定まり、7月の完成を目指して設計を進めていくこととなった。2025年6月にはプロジェクトメンバーで製作した模型を地域住民と一緒に囲み、日除けを使って公園でどんなことができるかを考えるワークショップも桂坂小学校を会場に開催された。

モックアップの作成・検討

 公園内には、小さな倉庫しか置くことが出来ないため、仮設の日除けもその中に収納できるような設計が求められた。また今後住民自身が活用できるように、組み立てに関しても女性でも容易に持ち運びができ特別な工具なしに組み立てが可能であることが求められた。また、技術協力と膜材提供をしてくれた太陽工業からは、構造計画や材料選択についての助言をいただき、オンラインや大学でのミーティングを週一程度の頻度で重ねていった。安全性や、機能性の検討のため、実物大のスケールでモックアップを作成し、検討した。

お披露目会

 2025年7月13日、桂坂公園で完成した日除けのお披露目会が行なわれた。3つのチームがそれぞれに制作したテントは1,2時間ほどで姿を現した。お披露目会には地域住民らが集まり、学生の説明を聞く姿やテントの下で談笑する姿も見られた。また、当日にはエイチ・ツー・オー リテイリングによる読書会イベントも日除けの下で行なわれた。
 今後、この日除けの構造物を桂坂公園に配備するにあたり、今年度をかけてさらなる技術的改良を重ねていく予定である。

TEAM1 dynamic ribbon
根城 颯介 , Astrid Ma Wing Yee, 村上 凌
 市販の塩ビパイプとジョイントを活用し、組み立てと解体を容易にしたフレームに、ロール状の膜をかけていき、ひとつながりの様々な場所を作るというアイデア。屋台状のものや、ループ状のものなどのユニットを公園内に自由に配置することで柔軟な使い方ができる。

TEAM2 Shade In Tension
Simon Hegdahl, Tor Kvisgaard
 必要に応じて拡張できる折りたたみモジュールによって、空間・形・影の無限のバリエーションを可能にする。膜の張力を活用したスレンダーな構造は、石を吊り下げ、重力によって膜を引っ張ることで完成する。屋根の自重のみを支えることで細くなった柱は、屋根下につくる日陰の空間を開放的にし、公園利用者たちを招き入れる。

TEAM3 折り紙構造によるテント
佐野 聖真
 折り紙からアイデアを得た伸び縮みする半円筒状の折り畳み構造は、公園に親密なスケールの場所を作る。


京都大学大学院工学研究科建築学専攻 人間生活環境学講座 小見山研究室
建築の仕組みを意識する建築構法の視点や、建築と異領域を横断する建築情報の視点から、隠れた関係を解き明かし、建築プロトタイプを設計しています。
実寸でつくることや研究室外に開かれた議論を通して、建築と環境や社会とのつながりを明らかにし、より普遍的な建築的思考へ展開したいです。

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