【平田研究室】traverse25 Project

平田研究室改装プロジェクト

設計 京都大学平田晃久研究室
施工 京都大学平田晃久研究室
所在地 京都府京都市西京区
HIRATA LAB. RENOVATION PROJECT, PHASE 2
architects : KYOTO UNIVERSITY HIRATA AKIHISA LABORATORY

 

たくさんの秩序と向き合って

どこにでもあるオフィス家具がならんだ研究室。本、模型、模型材料、様々な道具、機械…この部屋は、家具ではなくモノによって支配されている。モノは放置しておくと暴れまわり、研究室の秩序を発散方向へと加速させる。そんなエネルギーをもったモノたちの手綱を握り、そのエネルギーをこの部屋で過ごす人々のクリエイティビティのための燃料にする。そんなモノと人のための新たな居場所、建築と家具のあいだのような空間が求められていた。

既存の家具の分解と再構成
先述した通り、この部屋にはモノがとても多い。したがってこの空間を変えるために新たなモノをこの部屋に持ち込むのは本末転倒である。そこで、この部屋に既にあるものから、新たな空間を作り上げることを考える。その材料となるのは、暴れまわるモノたちに埋もれてしまっているどこにでもあるオフィス家具たちだ。家具とモノと人がふたたびより良い関係性を構築する為に、既存家具を部品レベルまで解体し、それらを再構成することで、もとの家具よりも大きく、部屋よりも小さい、家具以上建築未満の立体を生み出す。その立体に、暴れまわるモノたちはそれぞれの住所を見つけ、からみつく。
研究室の新たな秩序となるその情報のかたまりのような物体を、山車とよぶことにする。

動き回る情報の塊
山車の役割は大きく分けて3つある。1つは、人々が作業するための家具として機能すること。2つ目はモノが暴れまわらないようにきちんとおさまる「モノの住処」となること。そして3つ目は、研究室の情報量に、秩序を持たせることである。とくに3つ目が、山車と呼ばれる所以、車輪がついて動くことと関係している。
繰り返しにはなるが、エントロピー増大の原理により、モノは放っておくと空間内の乱雑さを均一にする方向に散らばっていく。簡単に言えば部屋が散らかるということである。そのため人々は家具というモノ以上の概念を導入し、空間に秩序を与えようとする。しかし家具は空間に秩序を与えることはできても、その秩序をいくつも用意することはできない。年間を通じて多様な活動がめまぐるしく行われるこの研究室において、家具によって規定された「ただひとつの秩序」というのは、少々窮屈に感じられる。そこで、モノと人のからまりしろである山車が部屋のなかを自由に走り回ることで、この問題を解決することにした。日々山車が動くことによって、室内における情報の粗密のモードは多様に変化し、それに伴って人々の活動も大きく変化する。無秩序をつくるのではなく、「たくさんの秩序」を用意することに成功した。(乾翔太)

ゼミの様子。山車によって生み出された大きな谷のような地形の真ん中に研究室メンバーが集う。

平田研究室断面 縮尺 1/80

思考と格闘の記録
202448日、前期の始まりと共に今自分たちがいる部屋の改装が始まった。ものが溢れた部屋をどうにかしたいという思いで始まったプロジェクト、その敷地でものを作り続けてスタディするというのは奇妙なものだ。私たちの眼前には常に解決すべき課題があり、そんな場所で日々を過ごすのだから改装が頭から離れることは無かった。しかし、課題と共に膨大な手がかりも常に私たちの目の前にあったのだ。実物の部材が敷地に転がっているという状態でスタディを進めていた。当然この利点を用いない訳にはいかない。まず手始めに本棚を外すことが可能か検証を行った。部材の採寸も精度を上げるため何度も行った。時には実際に本棚を机の上に乗せて張り出す長さを検証したりもした。およそ2ヶ月間、お世辞でも整った環境とは言えない、ものが散乱した研究室は私たちに課題と手がかりを与え続けた。これらの写真たちは、そんな研究室と向き合った私たちの思考と格闘の記録である。(三上マハロ)

実施設計・施工
基本的なボリュームスタディを経て各山車のスペックを決定したのち、それらを実現するための具体的なディティールについての実施設計を行った。
今回の2期プロジェクトでは、ディティールの精度を圧倒的に向上させることを目標として、施工方法、仕上げを大きく変更した。

畑を耕すことと、建築をつくること
―家具以上建築未満の構築を通じて―
畑を耕すように、建築を自分の身体性と強く結びつけて思考することが、建築の佇まいにある種の力強さをもたらすのでなないか。
今回のプロジェクトでは、様々な観点から施工はすべて手刻みとし、ShopBotなどのデジタルファブリケーションを用いないという選択をした。これは材料ごとにばらつきが大きい、安価な木材を効率的に扱うという戦略でありながら、我々の身体性の範囲内でものづくりをすることの重要性を意識していたためである。「たった数人の人間が数カ月で構築できる構造体」であることに価値を置いた。「硬い」「重い」「痛い」「暑い」を経験した人間が引く図面の線がもつ意味は、そうでない人が引くそれとは確実に異なるものになると、私は信じている。
この研究室においてそういった手の届く範囲の構築が空間を支配していること。そしてそのなかで建築を学んだ者たちは、きっとその身体性が自然に記憶され、分解者としての身体性の限界を理解したうえで、それを超える構築へと向かっていくことができるのだと考える。今回の研究室改装を機に、これまでの研究室の活動によって浮かび上がってきた平田研の〈Ghost〉に、いま、身体性をもったレイヤーが加わる。それが実践的思考の場としての価値を高め、また新たな分解・再構築へと向かっていくきっかけとなる。
この構築は現時点で完成ではない。研究室の新陳代謝は激しく、今想定している意図などはすぐに伝わらなくなっていくだろう。しかし平田研究室というひとつの生命体はその時々に応じた進化を遂げ、それまでの履歴をたどりながら、研究室としてのさらなる成長を遂げるはずで、その過程でこの構築はさらに解体、再編されていくはずである。まさに我々は畑を耕して土の内部に酸素を送り込むように、自身の身体性を強く意識しながら、分解者として、建築に向き合っていくのである。(乾翔太)

竣工写真

モード「スタジオ・実習」 研究室の手前では4回生が、奥では修士の学生がそれぞれの制作活動を行う。山車B・Cがゆるい境界を作り出している。

モード「卒制・修論」 山車B・Cが研究室に壁を作り閉じられた奥側で論文執筆に没頭する。対照的に手前では活発に卒業設計に勤しむ。

モード「展示」 研究室の白い壁面が大きく開かれた展示壁となり、入り口からL字に続く展示動線を生み出す。

設計 平田研究室
施工 平田研究室
構造 木造
工期 山車A,B,K 2024年7月~2024年10月

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