
【小林・落合研究室】traverse25 Project
継がれる民家“MAHORA西野谷”の再生プロジェクト

MAHORA西野谷は,2014年に日本人の夫と共に集落へ移住してきた台湾出身の若い女性オーナーが長年空き家だった古民家を引き継ぎ,宿泊・交流スペースとして再生した建物である.オーナーはこの地で米作りや酒造り,狩猟に従事する夫をサポートしながら地元の観光振興活動に取り組んできた.ここでは集落の暮らしや住まいの豊かさをもっと知ってもらうため,郷土料理や集落散策などの体験コンテンツを備えた宿泊施設と共に,集落住民が集える交流スペースを整備し,高齢過疎化する地元コミュニティに支えられた/を支える場所づくりを目指している.
1902年5月17日,この地を襲った万内川の土石流により30戸が被害を受け,その後安全な土地に再建された住居の一つがこの民家で,築120年以上を数える.生活の復旧を急ぐことから,他所にあった民家を解体し建設されたという.そのため,再利用された柱梁材には,以前の住居で組まれた貫穴や仕口の加工痕が多く見られ,資材だけをみればその歴史は相当に古いと思われる.
改修設計は,既存のポテンシャルをどれくらい読み込めるかにかかっている.民家がもつ時間的,空間的な質を受け止め,新たな要素と融合させながらデザインとして昇華させる,まさに民家と設計者の共同作業だ.雪深い地域ならではの大径丸太によるダイナミックな小屋組み,加工跡の残る柱梁材,使い込まれた建具や家具,小舞竹が露わになった土壁など,既存民家の継ぐ部分を見極めながら空間を整える作業をおこなう.
古びた柱梁を多く残す土間の壁面にはワークショップ形式で珪藻土を塗り,手の跡を残すことでラフな雰囲気を共存させた.大きな囲炉裏をつくった団らん室には,吹き抜けによる視覚的な抜けを抑えるため,照明器具と一体化した煙受けの傘を新たにデザインし,緩やかに囲われたスペースを創っている.玄関入口には木製ルーバーを設けて光を拡散させつつ,天井を下げることで,続く土間の吹き抜け空間をダイナミックに感じるようにしている
2024年4月6日,多くの集落住民が集まり盛大な完成式が挙行された.元の家主の方が涙を浮かべながら民家の再生を祝し,コロナ禍後初めて集落の伝統芸能・春駒が集落住民によって披露された.皆それぞれに,伝統民家が継がれていくことを喜んだ.空き家となっていた民家が滞在・活動する器として再び息を吹き返した今,人々の記憶にとどまり永く愛される場所になることを願っている.

建物外観

土間

土間

土間

団らん室

団らん室

寝室

寝室

交流スペース

交流スペース

図書室

図書室

完成式・春駒の披露(写真:小林広英)

完成式・春駒の披露(写真:小林広英)
※建築:小林広英 (京都大学),照明:牛込慎介 (u.L.s)
※写真(表記以外):林科呈