【学び、創造する製図室】製図室調査①京都大学|個が響き合う場

学生座談会 私たちにとっての製図室はどんな場所?

2023.08.06 京都大学桂キャンパスにて

参加者:池内優奈、上田瑛藍、神田晋大朗、杉本春佳、千葉祐希、寺西志帆理、森田健斗、山口結衣(いずれも京都大学建築学専攻修士一回、traverse24 編集委員)

この座談会では京大OBおよび他大学の調査を行う前に、京大の製図室がどのような場所で、生活の中でどういった位置づけなのかということを本誌編集員で話し合い、互いの製図室への認識の差異や共通点を探求した。

京都大学工学部建築学科は一学年およそ80人で構成される。一回生と二回生はそれぞれ一回生製図室、二回生製図室を全員で利用する。三回生になると設計演習を任意で履修している学生が三回生製図室を利用する。四回生になると多くが吉田キャンパスから桂キャンパスへ移り、計画系・環境系・構造系に分かれて研究室に配属される。四回生で桂キャンパスの製図室(デザインラボ)を使うメンバーは、四回生前期に設計演習(スタジオ課題)を履修した学生および後期で卒業設計を選択した学生の20~30人が中心となる。


学年による製図室の使い方の変化

――まず、学年が上がるにつれて製図室を使う目的や利用頻度の変化はあった?

千葉 自分は三回生までノートパソコンやスケッチとかが基本だったからわざわざ製図室に行かなくてもよかったけど、デザインラボ(通称ラボ)に移ってからデスクトップに変えて、学校に居座ることを覚悟した気がする。ちなみにサークルに所属していて部室や居場所があった人はいる?

山口 自分はバンドサークルに入っていて、24 時間基本的に使える練習場所があった。楽器の練習中にご飯食べたりしている人が結構いて、今思い出せば製図室のような居場所だったと思う。

上田 自分は一回生の製図課題が始まった頃は、製図課題とか宿題が製図室に行くメインの目的だったかも。上回生になるに連れ「暮らす」という意味合いが加わって、滞在時間は増えたし、目的も課題をこなすことだけじゃなくなった。たくさん選択肢があるうちの一つだった製図室が、段々とメインの居場所になっていったという感じだね。

森田 一回生の時のことを振り返ると、給湯器を持ってきて昼休みにカップラーメンをすすっている集団がいつもいた気がする。一つの部屋の中で、こっちにはウィニングイレブンやってる集団がいて、あっちには製図をしっかりやっている集団もいてという風に、いろんな属性を持ったグループが同居している状態だった。

山口 大学の講義室が授業を受けるためだけの場所になっていたから、建築学生は製図室があって得だっていう感覚はあったよね。何か作品をつくる場所ってだけじゃなくて、フリースペースのようだった。

上田 分かる。なんとなく「午後に行っちゃおっかな」みたいな感覚。深夜にわざわざ麻雀をしに来る人たちもいたしね。課題とかもないのに夜にふらっと人が来てたのは、ラボに移る前の吉田キャンパスの頃の方が多かった。

寺西 ラボだと下宿してても遠いよね。桂キャンパスは吉田と比べて坂道があって徒歩や自転車の通学のハードルが高いし、終バスもあるから困る。アクセスの違い以外にも、気持ちの変化っていうのも大きいと思う。一回生の時は作業の内容が明確に決まっていなくて、「絵を描けばいいんでしょ」みたいなラフな空気があったから頑張って居残る必要もなかったけど、学年が上がると作品のハードルが上がってきて、「徹夜してでも完成させなきゃ」って居残る人も多い。

千葉 自分の場合は、単純に仲良くなりたいから製図室に来て、 誰もいないから帰るってのは結構あった。

上田 寂しがり屋だな。

千葉 そう(笑)。吉田の製図室の時は立地的にすぐに家と行き来できたから、友達と喋りたいっていう気持ちで来てた。四回生になったらその意識が自分の課題とか自分のやりたいことに向いてきたから、一人でも製図室に行って作業するようになったかな。

――他に何か変化は?

森田 学年の変化を通じて、製図室委員の役割も変わったと思う。自分は製図室委員だったけど、一回生の時は全員に向けて「掃除やります。集まってください!」と呼びかけても実際は7、8人しか来てくれなくて困ったこともあった。

上田 三、四回生になってからはもう少しちゃんと話し合うようになったよね。自分から選択的に製図室を選んだ人が残っているというのもあるけど、三回生にもなるともう、

寺西 全員が汚すから。

上田 そうそう(笑)。だから、三回生以降は製図室委員が一応仕事はやるけど、その指示とかにも全員が従うようになった。

大掃除の様子(デザインラボ)

コロナ禍での過ごし方

――どんな生活をしてた?

山口 二回生の時にコロナが流行し、製図室が一年間使えなくなった。自分は二回生から下宿を始めたから、引っ越してすぐに6畳の家にずっと閉じ込められて大変だった。だから、寝てる間に模型を蹴とばしちゃって朝起きたら絶望、みたいな。

杉本 私も!すごく分かる。ベッドの下に模型置いたりしてたけど、毎朝怖かった。

上田 それは単に置き場所の問題では?

杉本・山口 いや、本当に置く場所が無かった!

杉本 インスタで課題中の様子をあげてる様子を見てると、カッターマットの上にご飯を置いてる人も多かったよね。

千葉 それが四回生からのラボで生活と製図が一緒になりがちなことと繋がっているかもしれないね。あと、製図室が無くなったことで人と会わなくなって、二回生の一年間、建築学科に新しい知り合いが一人もできなかった。三回生で設計演習が任意になるから、環境系や構造系に早々と行った人たちのことは今でも良く知らないです。二回生は80人全員で設計演習ができる一番良いタイミングなのに、それはすごくもったいないと思います。

――設計課題はどうだった?

寺西 お互いに高め合うというか、「この人がやってるからやらなきゃ」 って思えることがなかったから、クオリティは正直低かったと思う。三回生になって「え、みんなPhotoshop(PCソフト)使ってるの?」って周りの状況を初めて知ったんだけど、そういう情報は誰も教えてくれないんだよね。

山口 中には自分で試行錯誤してスキルアップしている人もいて、三回生になって周囲とのギャップを感じたな。情報が無かった一年間のしわ寄せが一気に来て、もうだめだって思った(笑)。誰かから学んだり教え合う機会がなかったのは結構大きいし、制作過程において人を見て技を盗んだり、共有することは大事だと思う。

千葉 そもそも「スタディ模型って何?」みたいな初歩の初歩から話すことが無かったし、空間についての議論もなかったよね。不安な状態のままエスキスに出して赤ペン先生みたいに添削したデータが帰ってきて、「あ、これでいいんだ」と処理してた。でも、建築のデザインって数学みたいに答えがあるものじゃない。本来だったら自分が持って行った答えに対して先生のコメントしてくれて、さらに学生からも「いや、自分はこういう考えを持ってるんです」って自分の考えを育てて先生と議論していくやりとりがある。コロナ禍は本当に情報が少なくて、先生の言っていることを受け入れるか、拒絶するかの二択になって、先生と対等な関係にあまり近づけなかったと思う。

寺西 確かに。答えのない問いに答えを出す過程って、いろんな人のいろんな意見があった方が伸びると思う。二回生の講評会は選ばれた数人が発表するだけだったけど、私のグループでは講評会後に先生が全員にフィードバックを書いてくれて、それはすごく良かったと思う。

神田 他大学に比べて、京都大学の普段のエスキスがすごく対話中心のスタイルなのは感じる。自分が学部の時にいた大学でも先生が来て一対一でやり取りするエスキスはしていたけど。あと京都大学のようなTAチェックが無かったです。時間割通りの日にTAさんが来て、質問があれば各自で相談しにいくという感じで、設計する思いの強い人が聞きに行く感じだった。

――どうやって周囲とつながっていた?

上田 自分はコロナの時にオンライン製図室(京大の有志建築学生により発足。詳細は次のページ)を使って、何人かで情報共有をしていた。オンラインのプラットフォームに常時繋いでおいて、自室で作業してるけど声だけ繋がってるっていう状態。

森田 リアルにちょっと寄せた仕様で、オンライン空間で移動できて距離が近づいたら音量がだんだん大きくなって会話が聞こえるんだよね。

寺西 でもそれって手元とかは見えないわけで、そこはリアルと大分違うのでは?

上田  全然違う。だから「これ今どれくらい進んでる?」みたいな内容はその都度写真で共有していました。

森田 オンライン製図室はただ個人的な安心感のために開いていただけなんじゃないかな。目的としては人からの監視の目を求めていたからだった気がする。

上田 個人的にはちょっとそれも違う気がする。どちらかというと、YouTubeライブで配信者と一緒に作業しようみたいなのがあるけどそれに近かったかな。

杉本 私もそう思う。誰かとやってた方が目が覚めるから、提出の10 時間前くらいから友達と電話をしたりしてた(笑)。

――空間についてはどう思う?

ラボの使い方

上田 四回生になってから桂のラボに移るとき、研究室ごとにラボ内の区画を割ったから、それぞれがその幅の中に机が収まるように工夫しているうちにこれは〇〇研の入り口、みたいな仮想の入口が生まれていたと思う。もともと一つ上の先輩が残していった自作の二段ベッドとかがあって、だから「自分たちも何してもいいんだ」という空気感があった。

寺西 先輩から引き継いだのはラックだけなの?

上田  自分はラックだけ。

杉本 私はヒーターをもらったけど、一回も使わなかった。あと流しそうめんの樋と、ものすごく大きい網状のフェンス。とにかくどうしたらいいか分からない(笑)。

千葉 製図室内に机が与えられて、先輩からも物を引き継ぐ。引き継いだ段階で物がそれなりにあるから、空間のカスタマイズの選択肢がそんなにないよね。自分の研究室(神吉研)の区画なんかは角地だから出口を1か所にするしかなくて、動線を決めたらほとんど自動的に配置が決まった。

――卒計の期間、使い方は変化した?

上田 卒業設計と前期スタジオで、そもそもラボを使ってる人が変わった気がする。例えば3人の研究室だったら、1人は研究室で作業して、2人はラボで作業するように変わって、空いた机は誰かの荷物置き場か、後輩の作業スペースになった。あとは模型の置き場が後々必要になるのを見越して、机の配置を変えて机の上に木でラックをつくったりしたかな。

寺西 ちなみに広島大学の製図室はどうなの?

神田 広島大学の四回生製図室は、天井の高さまで防音の分厚いガラスで仕切られて真ん中で2つになってる。後輩が作業するところと四回生が各作業するみたいな感じで仕切られてたから、同期だけがいる空間が担保されててそんなに苦痛じゃなかった。製図室か研究室かで言うと、自分たちが卒業設計でピリついて先輩たちに気を遣わせたくなかったから、全員製図室でやってたな。

ラボVS研究室

――研究室とラボではどう違った?

池内 ラボと比べて、研究室はすごく落ち着く。ラボは天井が高くて全然落ち着かないので、もっと物が多い方がいいのかも。

上田 入りやすさは、その人の知り合いの割合で決まる気もする。自分は後輩の知り合いが多いから下級生の製図室も入りやすかったです。

寺西 でも三回生製図室は狭いし、自分が入るとみんなこっちを見てくる。それに対してラボは入口から奥まで見渡せるし、物が多いから自分が隠れられる場所があるなと思います。shopbotみたいな共用の物も入口の近くにあるし、あんまり気にせずに入れました。

森田 確かに、そういうのはあるかも。手前側に共用の物が並んでいて、かつ自分の方から知っている人が今いるか目で確認できるようになっている空間が入りやすさに繋がってるんじゃないかな。

千葉 逆にラボに知らない先輩が来ると気まずかった。やっぱり気が散っちゃう。だから最終的にどっちが良かったかというと、研究室かな。

上田 自分はラボの方が良かったな。

寺西 そこは本当に性格の違いだろうね。私は研究室で後輩が帰った後、そこからは自分の時間になって、音楽を流しながらご飯も食べながら、自由に作業できた時間がすごく好きだった。

森田 僕も。研究室でわいわいしていると安心感があった。

杉本 同期だけだったら全然ラボで良かったんだけど、1月の後半になって後輩が来て、わちゃわちゃした空間になるともうだめだった。同じ属性の人だけがいる場所じゃないと無理なのかも。

上田 それは空間じゃなくて、使ってる人数の問題?

寺西 空間の狭さもあると思う。研究室の空間は自分のテリトリーとしてちょうど認められるぐらいの広さだから良い。

上田 研究室ごとに一応区画はあったけど、それは違う?

寺西 区画の境界はちゃんとした壁じゃないから閉じた空間になっていないよね。例えばラボの奥の神吉研ゾーンだったらそうかもしれないけど、私がいたダニエル研のゾーンはラボの手前だから誰か来たら必ず通る位置にあって、人の行き来が落ち着かない原因になった。

作業場としての研究室(小見山研)

――ラボの良さって?

山口 自分は計画系ではなくてラボに入ったことがないから、興味を持ちながらみんなの話を聞いてました。自分の研究室では文献を扱うし人と一緒にやる研究でもないから、研究室じゃなくても図書館とか家でも作業ができる。ある意味一回生製図室に近い状況だと思う。一人分のスペースが一定面積あって、そこではどう過ごしてもいいという感じ。だからラボは想像できないくらい違うなと思ったし、普通に楽しそうだから、今からでも使ってみたい。

森田 自由に作業場所を選べることは一つの良さだね。でも模型製作のようにラボでしかできない作業もあって、そのためにラボに来た人同士で些細な話をすることで新しい気づきが生まれることもある。それはラボの良さだと思う。自分も今は環境系だから普段は研究室にいるけど、研究室ではあまりそういうのはないね。

上田 対話の必要性と模型の存在が、卒業設計組のワークスペースを良い意味で制限している。卒業設計をする人同士ですらも、研究室ごとで考え方はだいぶ違う気がする。

寺西 分かる。例えば他の研究室の友達に相談するときでも、突っ込まれる部分が神吉研と小見山研では明確に違う。その違いがありがたいと思える状況なのが計画系なのかも。設計においては意見に多様さがあるほうがいい。

千葉 そうだね。でも目的は一緒で、角度がバラバラな人たちが集まっていることが重要だと思う。もし目的も角度もバラバラだったら向こうは向こう、と線を引いてしまう。

山口 異なる角度からの意見交換ができるだけじゃなくて、そういう環境に身を置くことで、逆に、自分をはっきりさせられるという良さもあるんじゃないかな。

――ラボのテリトリーはどこまで?

上田 一応ルールとして研究室の区画の境界にはテープを引くことになっていたけど、あれに接する通路は全て研究室のものになっていたし、 たまに隣の研究室の机まで侵入してたから、実際の境界はテープで貼った境界よりも曖昧で複雑だったと思う。

杉本 私は研究室の同期の子と共有している机があった。私がその机の位置が好きで使ってることが多くて、結局その子は別の個人スペースのところに行くから、必然的に少し私の方が面積多い状況だった。

寺西 私の場合、研究室の同期が気づいたら全部の共用机を使ってて、私のパソコンとかに石膏の粉が散ってたりしたから説教したことある(笑)。

杉本 去年の先輩でみんなの机に石膏を散らかしてた人もいたよね(笑)。みんな図々しさが根底にある気がする。さっき話した同期の子は周りが図々しい中ですごいきっちりしてるから、ちょっと損だったとも言えるかも。

上田  「ラボを苦に思ってない人間は図々しさを持っている」、ということ? (笑)。

寺西 共用部が増えたらコモンズの悲劇みたいなことが起こると思う。名前に「共用」ってついていると、使うけど掃除はしたくないってみんなが思うから、どんどん汚くなっていく。

森田 アルバイト先のオフィスでは、設計用の作業机を会議としても使う。だから毎回アルバイトが終わる時に片付けておかないといけない。上司という管理者がいるから、会社だとちゃんと片付けるようになってるね。

寺西 私も同じオフィスでバイトしてるけど、備品の定規とかも買って1ヶ月ですぐに盗まれちゃうらしい。アルバイトの人が持ち帰って使ったりしているんだろうけど、多分建築学科の人はみんな図々しい。言い過ぎ?

上田 その面もあるかも。製図室だとカッターとか定規が落ちてたら、印がない限りみんな使うよね。共用物の範囲がだんだん私物にまで及んでいく。

千葉 三回生までのブースと比べて、そういうのが暗黙のルールになっているよね。他人のブースにしっかりしまってあるものだったらもちろん使わないけど、机の上に設計作品集とかがポンと置かれてあったら、人の机でもその場でぱらぱらと見てしまったりする。

杉本 別にそこに誰かが来ても気まずさは感じないよね。

寺西 感じないね。でも知らない間に他人のカッターを使って、それを自分のものにしてしまったらもうそれは犯罪よね?

杉本 うん犯罪(笑)。

山口 カッターを失った人がまた他の人からカッターを取って、が繰り返されて、製図室内で一つの循環ができている。

杉本 最後に結論を出すとすると、やっぱり「図々しさ」。図々しさが育つ場所でもあるし、もともと図々しい人が共存している場。

上田 段々と自治をしていくにつれて現れる図々しさ。同期しかいない学生団体がそういう空気をつくっている。

寺西 でも何かを創造する人ってそういう図々しさも大事。だから良いことじゃない?図々しさを育てることは、創造できる人間を育てることに繋がる。

杉本 確かに。結論がこれで大丈夫かは分からないけど、自分をはっきり出していくこと、自己主張は大事だね。

物が溢れ、隣の作業スペースとの境界が分からなくなっている(デザインラボ)
桂キャンパスの立地

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