インキュベータ/ 飯島由多加・ソフトデベロッパー/岡雄大|「方向性のある多様性」ー密度ある多様性を作り出すものとはー
密接につながるための取り組み
――実際、人がより密接に繋がっていくために意識的に取り組んでいることはありますか。
飯島 食事が大きいです。元々こういう居住滞在型インキュベータは珍しいのですけれども、フェニクシーの共同創業者で取締役の久能祐子さんが、2014年にワシントンD.C.で先に始めていました。アーリーステージの社会起業家を支援するハルシオンという施設です。そのモデルを日本に輸入する際に加えた要素が食事です。ハルシオンでは週に1回みんなで朝ごはんを一緒に食べていましたが、toberuでは毎日朝晩と料理をしてくれるプロの調理師がいて、みんなで食卓を囲みます。そうすると、ビジネスアワーの外で発生するコミュニケーションが日常的に生まれます。食事中の会話って、やっぱりビジネスアワーとは異質のものがあるじゃないですか。それを毎日やると、会話の広がり、深さが段違いになってきました。ハルシオンを設立当初から運営していたアメリカ人のディレクターを日本に呼んだ際には、こちらのフェロー同士の親交や議論の深さ、良い意味での連帯感がとても早い段階で生まれていたことに驚いていました。toberuという特別な建築、空間だからこういうことが起こりやすい、またそうなるように設計されていることを、日々実感しますね。
もう1つは「facilitated serendipity」です。セレンディピティは「幸運な偶然の出会い」というような意味ですが、その機会を偶然任せではなくファシリテートして作る、というようなことです。ハルシオンの当時マネージャーがよく使っていた表現で、私も気に入ってパクりました(笑)。ハルシオンもそうでしたが、toberuには「普通は会えない」「接する機会がない」ような方々が訪れてくれるので、そこに住むフェローに引き合わせて対話の機会を作るようにしています。会議室で机をはさんで向かい合う感じではなくて、館内を歩きつつフェローを紹介します。近い距離で、少人数で、構えずに話せる雰囲気になることが多いですね。みんなが密接につながるわけでは勿論ないですが、会議室スタートの関係よりは親密さが生まれやすいのではないでしょうか。
岡 祭りですね。まちづくりも、僕らがやっている場づくりも、全員が関われるものではないので、どちらかというとまち全体で捉えた時には小プロジェクトなんですよね。まちづくりをやりたいと言っても、まちに5000人いたら、5000人が参加している訳ではない。本当に万人が参加しても良いと思える場って何かあったかなと言ったら、花火大会や祭りという話になりました。
最近、役割と出番というキーワードをよく使っています。会社員であるとか、担当の部署・席に座って経理作業を行うという社会的役割の人も、その人の人生における出番は、そこで経理担当として簿記をやることでは多分なくて、意外とその人はドラム叩かせたらすごかったりするかもしれないし、アングラ界ではすごいDJだったりするかもしれない。祭りが起きたら、普段は元気のないおっちゃんでも、その日だけ御輿の上で舞い上がっていてまちを代表する存在になるかもしれない。
まちづくりやお店を作ることを出番にできる人って、人生における自分の社会的役割も楽しい方に寄っていくのですが、まちにはもっといろいろな人がいる。万人に出番をつくるという意味で、マラソン大会であったりとか、花火大会であったりとか、御輿を担ぐとか、そういったことをやっています。