【学び、創造する製図室】OB・OGインタビュー
OBOG インタビュー③ 一人ひとりに与えられた場 ―西野 佐弥香―
インタビュイー:西野 佐弥香 氏(京都大学工学部建築学科2006 年卒業)
聞き手:寺西志帆理、山口結衣
2023.08.30京都大学桂キャンパスにて
――建築学科全体のカリキュラムや製図室のシステムについて教えてください。
座学は今とそんなに変わってないと思いますが、設計演習の内容が私の入学年から変わったはずです。一回生の後期に造形演習として図面のトレースと模型を制作する課題があって、二回生から各先生が担当を持って、グループに分かれて設計課題に取り組みました。
今との違いの一つは、自分でこの先生の課題を取りたいという希望が出せたんです。必ずしも第一希望にいける訳ではありませんでしたが、そこが今と大きく違いますかね。製図室は今の吉田キャンパスの本館の北側に、一回生から三回生までありました。私が2回生の時までは研究室も吉田にあったので、TA さんに聞きに行けたりしましたね。
――四回生製図室についてもう少し詳しく教えてください。
私が三回生の時から、桂の今のラボが四回生の製図室でした。ラボを使用する学生は20 人くらいでしたね。基本的に研究室ごとでエリアを割り振って、机を1 人1、2台使っていたと思います。荷物が多くて仕切りのようになってる人もいましたが、パーティションなどはなかったですね。ラボが開設されて2年目ということもあって、確かに今よりは物が少ないかも。今は棚など高さのあるものがありますが、当時はなかったので、全体的に机くらいの高さの物しかないですね。
――製図室ではどのように過ごしていましたか。
何時から何時までしか使用できないということはなかったので、何時まででもいられましたね。みんなで食堂にお昼を食べに行く時間以外は、基本的にずっと製図室にいたと思います。私は製図室で院試の勉強はしていませんでしたが、熱心な助教の先生がいらっしゃる研究室などは即日設計の練習をしていたと思います。院試の情報をまとめたCDをみんなで共有したりもしていました。私は車を持っていなかったので、最終バスがなくなったら泊まっていました。車を持っている人がホームセンターや飲食店に連れて行ってくれたりしましたね。
卒業設計期間は基本的にはみんなラボで作業をしていました。研究室はあくまで大学院生の部屋としていて、許可をとって使用する感じでしたね。大学院生に無断で研究室の机を移動させて作業をしようとした子がいたのですが、やっぱり先生からとめられて。後輩を呼ぶとかなりラボがぎゅうぎゅう詰めになっていましたね。他の大学の卒業制作が終わった友人も手伝いに来てくれたりしたので、かなり満員状態でした。
――誰が製図室を取りまとめていましたか。
製図室委員という存在はいなかったように思います。自発的に、机の割り振りや取りまとめを行ってくれる人はいましたね。ゴミ出しも溜まったら自分で地下に出しに行くといった感じでした。今よりかなり緩かったように思います。
――当時を振り返って、よかった点や気に入らない点はありましたか。
当時は特に不満は感じてなかったですね。比較材料もないですし。他大学の人に、24 時間使用できていいねとよく言われました。卒業設計の時期はお手伝いにくる同期以外の学生と知り合うことができてよかったです。例えば、今京大にいらっしゃる岩瀬先生が同級生の手伝いに来ていて、そこで顔見知りになりました。他の友達の手伝いに来ていて知り合った人たちと社会人になってから再会したりと、一堂に会しているからこその繋がりができることはよかったですね。
ただ、あまりいい衛生環境ではなかったですね。換気なども気にしていなかったので、なんとなく空気が悪かったように思います。コロナもあって今は先生から換気についての言及があったみたいですが、私の時は特に先生が管理していた印象はないですね。色々とやってくれていたのでしょうけど、先生たちがラボにくること自体があまりなかったかな。上のテラスから覗いて、ちょっと汚いねとクレームをおっしゃる先生方はいましたね。
――最後に、西野先生が考える創造の場について教えてください。
私は最初に武庫川女子大学に勤務していました。そこでは、私がいた頃は1人一台製図室に机とパソコンがある環境を用意することをとても大事にしていました。自分の場所があるっていうことを大切にしていて、それを建築学科の特徴としていたんです。確かに、建築学科以外の学生って大学に自分の場所がないじゃないですか。創造の場としてというか、物理的にそのような居場所があることが大切なのではないかと思います。吉田にいた頃は経済学部の図書館に多いときで週に3回ほど通っていましたが、最近もよく吉田の構内をうろうろしたりしています。ちゃんと大学にいる感じがしてテンションが上がるんですよね。授業時間以外にも、なんとなく大学の場にいるっていうことが私や上の世代の人にとっては大きかったように思います。
今の皆さんの世代はどうなんでしょう。製図室に自分の場所が決まっているけれども、製図室という大きな空間の中で他の人と一緒に作業することで自分の個性をより出せるという話がありましたが、皆さんにとっては、オフィスのフリーアドレス制度などはかえって嫌だと感じるかもしれませんね。私は京都大学に勤める前に一般企業にも勤めていたのですが、フリーアドレス制度を取り入れ始めた時がありました。最初は反発もかなりあったんですけど、意外とみんな慣れてしまって。コロナを経てオンラインでの作業も増えましたし、自分の机がちゃんとある方が、かえっていいのかもしれないですね。