【田路研究室】​建築論の探求と建築設計の実践

建築論研究

​教授 田路 貴浩

 京都大学における建築論研究は森田慶一によって基礎が据えられ、増田友也、加藤邦男、前田忠直と継承されてきました。いずれの先生も建築家として設計活動を行いながら、同時に研究にも専念しました。それぞれの研究テーマは次のように、たいへんヴァラエティに富んでいます。森田慶一はウィトルウィウスを中心とした西洋古代ギリシア・ローマの建築論、増田友也は古代日本住居の建築空間論、加藤邦男はフランスの詩人ポール・ヴァレリーの建築論、前田忠直はルイス・カーンの建築論。

 建築論には建築設計論も含まれますが、設計の方法論にとどまらず、建築を設計する根拠や建築の設計がめざす理念について論究することを目的としています。森田慶一はこれを「建築とは何か」という問いだと端的に言い表しました。建築は人間の環境を創出する営みです。人々の思いや記憶、社会関係、自然との関わり方、これらの土台を物的な環境によって用意する行為です。きわめて責任の重い仕事です。したがって「建築とは何か」という問いは、必然的に人間とは何か、社会とは何か、都市とは何か、自然とは何かという根本的な問いにも広がっていきます。建築は人間のためにつくられるわけですが、この「人間のため」ということを突き詰めて考えることが建築論だということです。増田友也は20世紀を代表するドイツの哲学者ハイデガーを建築論の基礎にしましたが、田路研究室ではそれに加え、現代の環境思想から自然や地域のなかの人間のあり方について学んでいます。建築にとって「自然」とはなにか。地球環境問題が深刻化するなかで、この問いは現代の最大の建築論の課題だと考えています。

 建築論の基本姿勢は以上のとおりですが、具体的な研究課題としては建築と都市の両面に取り組んでいます。というのも、建築を設計するには建築を組み立てる内在的な論理と、建築が置かれる外部環境との応答の論理の両面があるからです。また、研究はあくまでも設計のための研究であるため、実際に地域に入って設計プロジェクトを行っています。ただ考えるだけ、ただつくるだけではなく、つくるということが考えることのモチベーションとなるのであり、「行為的直観」が建築論の発端となるのです。

 京都大学には物事を根本的に問い詰めるという学風がありますが、そこから西田幾多郎をはじめとする京都学派の哲学者・思想家が多くあらわれ、またノーベル賞受賞者が多く輩出されました。基礎研究は一見するとまどろっこしく思えますが、知識や技術の根本を考えることは京都大学の責務だと考えています。

 

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