【原田研究室】日常と非日常の境界
可燃内装材の燃え拡がり
教授 原田 和典
はじめに
近年は木造建築がブームとなっており、従来のような住宅に加え、オフィス、物販店舗、学校などを木造でつくる事例が増加している1)。木構造としての技術開発が進み、大スパンのものが建てられるようになったことに対応し、火災安全の分野でも準耐火構造の技術開発が進みバリエーションが増え、さらには燃え止まり型や被覆型の耐火構造の開発も行われている。そのため、木造建築の大型化がさらに進むことが予想される。
構造躯体の耐火性の基準がクリアされ、構造体を木造でつくるのであるから、内装にも木材を現しで使いたいという要望が出てくるのは自然なことである。また、鋼構造やRC構造の建物であっても、せめて内装を木質仕上げとしたいと考える場合も多い。しかしながら、建築物の避難安全のことを考えると、可燃性の内装材は危険である。そのため、建築基準法では内装制限の規定があり、一定規模以上の建物の内装には、不燃材料、準不燃材料もしくは難燃材料の使用が義務付けられ、大規模な建物の内装には木材が使えない2)。実務的には、内装制限の規定がかからない範囲でなんとか設計しているのが実状である。エコマテリアルの利用促進という観点では、木材利用を促進したいところだが、火災時の避難安全のことを考えると慎重にならざるを得ない。日常と非日常で要求事項が背反する典型的な問題である。
木質内装の燃焼実験
図1は、合板を内装材として約1.8×1.8×1.8mの部屋の模型をつくり、燃焼実験を行った結果である3)。合板は厚さ9mmのものを室の壁2面に施工してある。天井と残り2面の垂れ壁は不燃材で仕上げてある。可燃物量としてはそれほど多くないのであるが、実際に火をつけてみると大変激しく燃える。(a)隅角部に点火した後、最初のうちは(b)のように比較的ゆっくりと上方に燃え拡がる。天井面に達した炎は壁との取り合い部に沿って展炎して壁の上部を燃焼させる。この実験では天井面が不燃材なのでそれほど酷いことにはならない。しかし、暫くして合板の裏側(非加熱側)まで熱が伝わり温度が上昇すると、合板の全厚から高温の可燃ガスが発生して室上部に蓄積する。これが(c)のように空気との界面に引火すると、ごく短時間で(d)のようなフラッシュオーバーに至る。(c)から(d)への変化は非常に早いので、(c)の状態を見て危ないと思ってから逃げ始めてもフラッシュオーバーに巻き込まれてしまう危険性が高い。
木質内装を使うときには、内装制限にかからない範囲に限定するのは法律上は当然のことであるが、そうであっても可燃内装には急速なフラッシュオーバーの引き金になる危険が潜在している。このことを踏まえ、内装制限がかからないから安全であると勘違いしないようにしてほしいものである。
図1 合板内装の中規模燃焼実験((一財)日本建築総合試験所 自主共同研究による実験)
内装の燃え拡がり予測
それでは、木質内装を安全に使うためにはどうすればよいのだろうか。一つの鍵は、内装の燃え拡がり予測である。フラッシュオーバーの引き金にならない範囲で内装を木質化すれば安心である。そのような目的のため、多くの研究者により燃え拡がり予測モデルが提案されてきた。筆者らの研究室では、建築の火災安全設計の実務でも使えるように、図2に示すような簡略化したモデルを検討している4)。実験との定量的な比較検討は今後の課題であるが、このモデルを利用して6畳間ほどの室の壁と天井を合板にした場合の予測を行うと図3の結果となり、3分半ほどでフラッシュオーバーに至ることが示される。天井を不燃材にする、壁の一部を不燃材にするなど、適切な抑制策が望まれる。
【参考文献】
1) (一社)木を活かす建築推進協議会、木造建築のすすめ、(財)日本住宅・木材技術センター、2009
2) (公財)PHOENIX(木材・合板博物館)、内装木質化ハンドブック~内装制限を読みとく~、2014
3) 小宮祐人,大上尊子,原田和典,初期火災における内装の燃焼拡大性状に関する研究 ,GBRC((一財)日本建築総合試験所機関誌),47(3),2022/7
4) 池松由良,原田和典,仁井大策,鍵屋浩司,Quintiereモデルによる内装材料の燃え拡がり予測,日本建築学会大会学術講演梗概集(東海),環境工学,pp. 759-760,2021年9月
5) Quintiere J. G., A Simulation Model for Fire Growth on Materials Subjected to a Room-corner Test, Fire Safety Journal, 20, pp. 313-339, 1993
6) (一社)日本建築学会,建築物の火災荷重および設計火災性状指針,2022年3月