【原田研究室】日常と非日常の境界
小さな火災を見つけるために
助教 仁井 大策
はじめに
火災から身を守るためには、火元が小さなうちに消火するか早くその場を離れるかしかない。いずれにしても、火災が成長する前に気付き行動を起こさないと、その脅威から逃れるのは困難となる。そのため、建築物には火災感知器の設置が義務づけられており、在館者の早期火災覚知が図られているが、それでも現在の建築火災における死者発生の約半数は逃げ遅れである¹。
より小さな火災を見つけるためには、天井に感知器を密に配置すると共に、火災を判別する基準を下げればよい。さらに、利用者の負担低減のためには、より低コストでこれらのシステムを構築することが望ましい。しかし、これらは簡単に実現できるものではなく、センサーの応答特性や非火災報の防止、さらにはエアコン等による日常的に生じている気流と火災熱気流との干渉、といった課題があり、これらを解決すべく検討した結果を紹介する。
汎用温度センサーを用いた火災感知
近年では、日常の温度範囲で使用する汎用の温度センサーが安価で普及してきている。これを火災感知に応用できれば、低コストで火災感知システムが構築できる。しかし、安価なセンサーは応答が遅い場合も多く、火災感知に適するかどうか不明である。そこで、実大規模の実験(図1)を実施し、小規模の火源から生じる熱気流を温度センサー並びに応答性の良い熱電対で測定して比較した。また、煙層内の火災気流温度²、流速³の予測式とセンサーの応答遅れを考慮したRTI-C’モデル⁴を組み合わせてセンサー温度の推定を試みた。図2に示すように、推定結果は実験結果と良好な一致を示し、この手法を用いれば汎用温度センサーでも火災感知が可能であることを示した。
また、これらのセンサーを用いて、居室内の温度を常時モニタリングすることで日常の使用実態によって生じる温度変動のパターンを把握しておき、日常からの逸脱を異常として検知できれば、非火災報が少なく迅速な火災感知が可能になると考えられる。
エアコン気流の干渉
火災が小さいうちは生じる熱気流も弱く、日常的に生じている気流に影響を受ける。特に、冷房空調時には天井面に沿って冷風を吹き出すことが多く、火災気流が分散されるとセンサーで感知できなくなる。そこで、数値流体解析や実大実験を実施して、その影響を調べた。
図3は数値流体解析の一例である。室中央に設けられたパッケージ型エアコンからの冷風が火災気流を押し返しており、この範囲にセンサーを設置しても日常的な温度変化しか示さないことが分かる。これらの結果を用いて、火源の規模とエアコンの吹き出し風速及びそれらの離隔距離から火災気流が到達できる範囲を推定することが可能である⁶。
【参考文献】
1) 消防庁:令和3年版消防白書,https://www.fdma.go.jp/publication/hakusho/r3/63931.html
2) 渡邉純一, 下村茂樹, 青山洋一, 田中哮義, 二層ゾーンモデルとAlpertの式の併用による天井流温度予測~ISO試験火災による比較検証~, 平成12年度日本火災学会研究発表会概要集, pp.60-63, 2000.
3) Alpert, R. L., Calculation of Response Time of Ceiling-Mounted Fire Detectors, Fire Technology, Vol.8, pp.181-195, 1972.
4) Heskestad, G., and Smith, H. F., Investigation if a New Sprinkler Sensitivity Approval Test: The Plunge Test, Factory Mutual Research, FMRC Serial No.22485 RC 76-T-50, 1976.
5) Daisaku Nii, Mai Namba, Kazunori Harada, Ken Matsuyama and Takeyoshi Tanaka, Application of Common-use Temperature Sensors to Early Fire Detection, Proceedings of 11th Asia Oceania Symposium on Fire Safety Science, 2018
6) 藤本航輔,仁井大策,原田和典,火災初期の天井流に及ぼす空調吹き出し気流の影響に関する研究,日本火災学会研究発表会概要集,pp.70-71,2019