STUDIO2022

ダニエルスタジオ「Urban Farming in Katsura」

桂川沿いの地域は、自然景観、公共空間、都市農業の観点から京都にとって重要な地区である。
この課題では、それぞれ学生が川沿いの未開発な場所を選択し、都市農業を中心とした、公共スペースなどを含んだ複合施設をデザインする。景観や水景に対する建築の影響、相互作用する新しいコミュニティ空間の創出、そして生活空間と農業の統合を目指す。

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「HORIZONTAL SKYSCRAPER」 秋田次郎|ダニエル研究室

資本主義の象徴たる高層ビルは地面をZ軸方向に複製して富を生み出す装置である。自然とは切り離され、今自分が何階にいるのかわからない。都市、自然、スラブ間、スラブとコアとの間など様々な断絶が生まれ、それらを抱え込んで立つ。

一方、桂川を阪急が渡る地域は公園、道路、団地、堤防、川、堤防とまるで高層ビルのスラブのように断絶する線が並ぶ。そこに高層ビルを倒して重ね合わせることで新時代のHorizontal Skyscraperを構想した。

​編集委員推薦理由

21世紀に生きる我々を包み込む都市には当たり前のように高層建築が乱立する。そんな無自覚な現状に対して根源的な問いを立てたのがこの作品だ。高層ビルを地球表面から90°そのまま倒すという直感的かつ野心的な操作に対して、実に様々な視点から分析を施している。種々の分析に対して、設計者なりの建築的回答はまだ作品からは読み取り難いが、今後導かれるであろう彼の結論に期待したい。

 


平田スタジオ 「『ふるさと』から生まれる建築」

「ふるさと」とは、一体性と隔たりの両方を含んだ言葉だ。想像力の中で自分自身がそこに含まれている、ある美しい風景。しかしそれは、離れているからこそ対象化できるものでもある。突き詰めていえば、それは無限遠の原点とか原風景のようなものなのかもしれない。さまざまな含意を持った「ふるさと」から立ち上がる、新しい美しさ、あるいは卓越性を持った建築を提案して欲しい。

traverse22_studioformat_KIYOOKA(1)-04.jpg「始まりのところ」 清岡鈴|平田研究室

ふるさと、と聞くと、多くの人は自分が愛着を持った「ここではないあの場所」を思い浮かべるのではないでしょうか。私は、生活の場としている住宅の中で、住人が今いるところを受け入れて暮らしを展開させていく、そのような場所を目指して設計しました。身の回りに存在するまちの要素によって異なる質を帯びた24つの部屋は、この場所に強く結びついたふるまいを生むと考えられます。

編集委員推薦理由

展示会場にパースはなく、25枚の平面図が並んでいた。ふるさとという温かな、ともすると主観的になりすぎてしまうテーマを理性的に解体・構築した姿勢が印象的であった。住宅という限られた敷地内にふるさとを発見するという興味深いテーマを立て、垂直方向に解決策を求めた。上昇に応じて各部屋から見える風景に変化が生じ、街が建築に吸収されるように各部屋の空間性が更新されるというイメージは、都会にふるさとを見出す希望のようにも見えた。

 


神吉スタジオ「場所の力」

これまでにない変化をみせる現代の都市・地域で、どのようなランドスケープが受け継がれ創造され得るだろうか。

新しいランドスケープにむかうために、場所に潜む力を読み、その力を顕在化させる建築と都市・地域空間の提案をめざす。

各人が選ぶ敷地およびその位置する都市・地域の「場所の力」の読解作業を重視しつつ進める。

敷地は、各自が現地調査に赴くことができるよう、京都から日帰り可能圏内とし、自由に選ぶ。

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「記憶の現像術」 豊永嵩晴|神吉研究室

初めて訪れた場所なのに、どこか懐かしいのはなぜだろう。そんな素朴な問いから本研究は始まる。人は空間を見るとき、自らの記憶から生じる空間のイデアを重ね描いている。その像を写真上に表象し、建築空間へと現像する思考実験である。今から100年前のわずか9年間、現在の加茂駅―奈良駅間9.9kmを赤い蒸気機関車が駆け抜けた大仏鉄道廃線跡。記憶が儚げに宿るこの敷地で、写真をツールとした光の記憶の空間化手法を試みる。

​編集委員推薦理由

鉄道廃線跡の「場所の記憶」という抽象的な概念に真摯に向き合い、それを建築として表現した力作である。この建築は過去を幻視するための装置である。建築空間での体験を写真撮影になぞらえて分解し、多重露光のように重ね合わせることで一つのイメージを成立させるアイデア、そして、各建築群の造形どちらもが魅力的にまとめられている。現実的な場所と、抽象的なイメージとの間を自由に横断する作者の柔軟な発想に今後も期待したい。

 


大崎・張スタジオ「コンピュテーションが形作る建築空間」

近年の施工技術・コンピュータ技術の急速な発展にともない、複雑な形態の建築が数多く現れるようになってきている。意匠のみならず、構造・環境・施工などの種々の設計条件を満足し、高度に調和させるためにコンピュテーショナルデザインやアルゴリズミックデザイン、ジェネラティブデザインと呼ばれる設計手法に注目が集まっている。

本スタジオでは、大崎・張研究室助教の林和希先生ご指導の下、コンピュータによる解析技術を用いた建築形態創生の可能性を探求する。プログラム・敷地等に制限は設けないが、コンピュータやデジタルファブリケーションなどの技術を積極的に用いることとする。また、構造力学やプログラミングの知識を必ずしも前提とはしないが、適宜学習しながら課題に取り組むものとする。

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「‌線と屋根」           中里桂也
​「‌数式の空間」      野村祐司
​「‌いごこち たちごこち」 丸山悠斗|大崎・張研究室

図形から立体を見出し、空間を創出した。構造条件を考慮しつつ、単純な部材で軽やかに美しく包む空間を作れば、豊かな体験が得られると考えた。(中里)

数式で与えられえる形に、構造的・計画的に手を加えて、外部と内部が混ざり合う、3D曲面からなるシェル構造の展示空間を設計した。(野村)

人々の「いごこち」を構造負荷の最適化問題を解く、すなわち「たちごごち」から考えるという実験的なアプローチにより新たな空間を提案する。(丸山)

編集委員推薦理由

今年度初の試みとして構造デザインを専門とする大崎・張研究室が4回生のスタジオ設計課題を担当した。コンピュータによる解析技術の使用を要求する本課題はこれからの建築業界を考える上で無視できないものであるだろう。彼ら大崎研の学生が表現した解答は他の学生とは一線を画すものに感じ、意匠を学ぶ私には特に印象的に映った。ただ、デザインの面では稚拙な部分もあり、今後彼らの成長と大崎研究室の課題の継続が期待される。

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