鳥から学ぶ巣の形|【対談】 鈴木まもる×大崎純

鳥の巣から建築を見つめなおす

「鳥の巣」と呼ばれる建築

図14 北京国家体育館 (提供:Liu Zhengnan)

 

――「鳥の巣」と呼ばれている建築としてヘルツォーク&ド・ムーロン設計の北京国家体育館(図14)がありますが、様々な鳥の巣のお話を聞いて、大崎先生は改めてどのように思われますか。

大崎――この建築は設計変更で、屋根構造の開口部に設置予定だった開閉屋根が設置されないことになったんです。すると力の流れが大きく変わって、開口の縁を固めないといけないのですが、そうではなく別のところの部材を増やしていって、どんどん重くなったといわれています。鳥の巣も弱いところがあれば、枝を抜くのではなく増やしていくと思うんですね。そのあたりが、つくり方として似ているかなと思います。一方、建築構造の最適化は、まず全体に材料が敷き詰められていると考えて、要らないところを除いていきます。

鈴木――人間の場合は要らないものをとっていくそうですが、鳥の巣は本当に自分の必要なものだけを集めるから、シンプルなものになると思うんです。だから抜くというよりは、最低限のものでできていて無駄がない形ではあるのかなと思います。

付け足すといえば、翌年巣を足すことはあります。猛禽類は、繁殖期毎に新しい素材を付け足して新しい巣を古い巣の上につくっていくので、どんどん厚くなっていくんです。だからといって、構造的に悪くなることはないと思われます。

大崎――前半に、途中で方針が変わることがないかということをお聞きしたのは、これと関連があって。人間の建物の場合は途中で方針が変わるなどして、混乱する場合があるんです。そうすると、最初から一直線で設計していけなくなってしまう。人間の建物は用途変更も含めていろいろ変更がありますので、機能だけで形は決まらないですね。先ほどの鳥の巣の話で、全体の構成を把握しているのではなくて、各部分に必要な機能や性能をもたせるため、一つ一つ手続きを積み重ねてできていると聞いて、非常に納得しました。人間の場合は全体も見て評価しないといけない、そのあたりが違うかなと。スケールだけの問題ではないと思います。

ベドウィンテント.jpg
図15 ベドウィンテント(図版作成:雨宮美夏)

身の回りのもので建てられる住居と鳥の巣

大崎――それぞれの場所で手に入れやすい材料を使って生成できる膜構造の例としてベドウィンテント(図15)などがあります。手元のものしか使えなかった時代の住居は、鳥が材を入手して、自分たちでつくるのと似ていると思います。また、人が自分の手だけでつくることができるサイズで、それが鳥と巣のサイズ感に似ているという意味もある。それより大きいものは必要なかったんです。

鈴木――現代の住居の形態は直方体や立方体、使いやすい寸法や、規格が決まっていて、効率よくできるようになっていると思うんです。でもこういう家はそれ以前のものだから、造形的なつくり方としては、鳥の巣と同じだと感じます。どちらが良いということはないと思います。

大崎――そうですね。膜構造を例に出したので、鳥の巣とは形が違いますが、構造的な形というとシェル的で、その点でも鳥の巣に似た例がいろいろ見られると思います。

ただ、お話にありましたように、鳥の巣は子どもを産むための短い期間のもので、人間の住居は長い期間住むものですから、そこは大きな違いです。

鈴木――やはり、使用期間が決定的に違うところですよね。何年も使い続けられるというのは人間の家のもっている役目だと思います.

そして、鳥の巣から学べること

――鳥の巣と人間の建築のあいだにある目的の違いが、スケール感の違い等に関わってきているのでしょうか。

大崎――つくり方で重要になるのはやはり重さですね。材料の重さが全然違うので難しいですけども、例えば建築のドームを上からつくっていくことができれば、話が全然違うと思います。今は地上で組み立ててリフトアップするというやり方もありますが、下からつくっています。例えば鳥が回りながら巣をつくっていくように、真ん中に柱を立てて、その周りに段々広げながら屋根をつくることができれば、全く違った構造や施工方法が生まれるのではないかと思っていますし、将来それができれば何かが変わっていくでしょうね。だから、鳥から学べることの一つにはそういうつくり方があるんじゃないでしょうか。

鳥の巣に学ぶとしたらもう一つは吊るすということになると思います。吊るす鳥の巣はいくつかありますが、人間のつくる建物は吊るすことはほとんど無いんですね。ただ、例えばジャングルジムみたいな枠組みをつくって、家をその下に吊るすことも、可能といえば可能なわけです(図16)。吊るすと建物は安定しますし、地震荷重もこの骨組みがちゃんともっていれば問題ありません。以前地震に強い建物をつくるために、モノコックボディ(図17)という基礎を固定しないサイコロみたいなものを標準として、その中に家をつくればいいじゃないかという話がありました。その場合、ユーティリティ(水道、ガス等)をどうやって入れるかということが一番問題になります。吊るすと上から入れられるので、そのような問題は生じないと思います。

他には供用期間の違い、設計変更や用途変更の有無といった違いもありますが、鳥の巣を建築に当てはめる上での一番の問題は設備、環境だと思います。

図16 ジャングルジムのような枠組みに家を吊るす(図版作成:竹岡里玲英)
図17 モノコックボディ(図版作成:竹岡里玲英)

大崎――それから、装飾性の違いですね。人の建築は遠くから見て綺麗である必要があるという側面もありますが、鳥は巣の全体の形や色を理解しているのでしょうか。

鈴木――外観に関しては人の感覚とは違うと思います。内側からの視点での満足、不満足を気にしているのではないでしょうか。例えばウグイスの巣(図18)は球体なんですけど、縦長、横長、外がボサボサしているもの、と外観自体はそんなに統一性はなく、人間がいう外観よりも使う空間や内装への意識がしっかりしている。

大崎――なるほど、確かにそうですね。

鈴木――色は理解しています。鳥のオスがあんなに綺麗なことからも、色を感じているのは明らかです。ただ、巣は見つからないようにする方向性なので、ニワシドリ以外はほとんど周辺の地味で目立たない素材を選んでいます。

大崎――そうですね、目的が目立たないこと。じゃあ別に、綺麗である必要はないですね(笑)。

鈴木――逆にいうと、それが環境に調和して綺麗なんだと思うんです。

図18 ウグイスの巣いろいろ(提供:鈴木まもる)

 

――鳥から既に学んでいる部分も実際にあるようですが、形そのものを大きくするのは、やはりスケール効果的に難しいのではないでしょうか。

大崎――これはもう、明らかにどうしようもないと思います(笑)。建築に関しても、小さい建物で有効でも大きい建物では有効でないことがありますし、模型で実験しても全体の実寸では同じような結果にはならないです。鳥の巣もそのまま大きくすればいいわけではないと思います。

つまり枝を梁としてそのまま太くするのではなくて、骨組みを組む、あるいはそれぞれを中空のパイプにするというような必要が出てくると思います。

先程、上からつくる、真ん中に柱を立ててそこから広げていくという話をしましたけども、例えば10mくらいのテントのようなドームであれば、上からつくっていくことは可能です。そのままそれを100mのドームにすると難しいと思いますが、50年後ぐらいにスケール効果を克服できれば、鳥が巣をつくるような方法が当たり前になるかもしれないと思っています。

――実現するかどうかは別として、形も含め鳥の巣から人間の建築に生かすべきとお考えのところはありますか。

鈴木――先生がおっしゃったように鳥の巣をそのまま大きくするというのは無理ですが、鳥さんたちが自分の大切な命を守るために巣をつくっているという心の部分の大切さは、建築でも同じだと思うんです。あとは人間が暮らしに合わせてやっていくことなのかなと思います。

大崎――そうですね。自分の家を愛すること、愛着をもって建物をつくることは学べると思います。あとは、それぞれの部分の機能の積み重ねによって全体が出来ていくという話は昔からあると思うんですけども、鳥の巣の成り立ちからはそういう面も学ぶことができると思います。

鈴木――鳥の巣をそのまま人間の建物に生かせることや学べることもありますが、鳥の巣が使われるのは巣立つまでという点でやはり建築とは根本的に違うと思うんです。人間の暮らしは多様化しているので、「住む」ことに関して鳥の巣から学ぶには相当無理があるとは思います。逆に、「生きる場所とは何か」というのを鳥の巣から学ぶことはできるのかなと。多様で速度が速い今の世の中では忘れてしまいがちな、「命が育つ」という一番根本的な部分を大切にして、それを上手く今の社会に適応させていくことが建築には求められているのかなとは思います。

――お二人にとっての美しい構築物は何か、お聞かせいただけますか。

大崎――私にとって美しいのは、力学的に美しいものです。月並みな例ですけども、建築だと代々木の体育館が一番美しいと思っています。あとは東京タワーやスカイツリーといったタワーも美しい。それから建築以外だと、例えばF1の車ですね。若いころはテレビでF1を全部見て、ただ単に車が走っているのを美しいと思っていました。アメリカだとオーバルコース(楕円のコース)を単にぐるぐる回るレースがあるのですが、それも美しいと感じていました。私にとって美しいものというのは、機能的に優れたものです。ですから、鳥の巣もそれぞれの部分の意味や役割が分かれば、美しいと思うようになると思うんですね。特にカンムリオオツリスドリの巣などぶら下がった形は美しいと思います。それぞれの機能で出来上がった形が理想です。

鈴木――僕は30年以上前に偶然見つけた鳥の巣をすごく好きになったのですが、はじめは、なぜ絵本作家の僕が鳥の巣を好きなのか全然分からないまま鳥の巣を集め続けていました。ですが、あるとき山の中で、鳥の巣も、僕が描いている絵本も、小さな命を育てるためにつくっているという点では同じで美しいのだと分かったんです。鳥の巣は鳥の親が一番大切な子どもたちを育てるためにつくるもので、絵本も人間が小さい子どもたちの心が育つためにつくるものなんです。鳥の巣づくりって誰かから教わったり、流行りを気にしたりはしないんですよね。僕なんかはやはり雑念が入ってしまいますが、鳥さんは雑念無しでつくっているから無駄もないし、シンプルで綺麗なんだと思うんですよ。その共通点は絵本作家の僕だけの話ではなくて、例えば建築家の方が家を建てるのも、パン屋さんがパンを焼くのも、運送屋さんが車の運転をするのも、仕事は皆突き詰めていくと、新しい命が育つことに繋がると思います。もちろん今の世の中、お金のためという側面もありますけれどね。でも逆に、知識や情報やお金がいっぱいあればあるほど、見えなくなっているものが多いと思うんです。教わらなくとも、鳥さんは自分の一番いい場所で巣づくりして、一番大切なヒナを育てる力があるんですよ。人間だってそうだと思うんです。でも今の世の中は子育てに悩んだりだとか、いろいろ問題が出てきてしまっているじゃないですか。だから、鳥の巣から生きる上での一番大事な部分を感じてほしいし、自分としてはそういうものを作品で出していきたいと思っています。


 

最後に

大崎――事前にいろいろ拝見して勉強はしていたのですが、鳥の巣のことはほとんど分かっていなかったなというのが、第一の印象です。生物に学ぶ構造という、バイオミメティックスには植物も含めていろいろあり、その中で鳥の巣という一つの生物の形を深く知ることは、私にとっても重要だなと思いました。非常に多くの経験と知識をもっておられる鈴木さんのお話を伺いましたが、鳥のことを話されるときに、「この子は」と言われるところにすごく愛情を感じて感銘を受けました。本当に建築も鳥の巣から何か学べればいいなと思っています。ありがとうございました。

鈴木――卵とヒナの命を守りたいという思いはどんな鳥も同じで、多様な地球環境のなかで、それぞれ適応していろいろな巣が出来ています。これを人間に置き換えると、いろいろな巣の形は職業になると思うんですよ。それぞれの場所で自分に合った仕事をしつつ、人間という種を育てているのではないかなと思います。人それぞれどのような職業についてもいいと思うんです。仕事を通じて、人間の子どもたちを元気に育てていくことに、何らかの形で関わるようになっていると思うので。今はお金とかいろいろ大事なこともありますけれど、命を大切にして暮らしていってほしいです。

 
 
​鈴木まもる Mamoru SUZUKI
 

Mamoru SUZUKI, born in 1952, is a painter, picture book artist, birds’ nest researcher in Japan. He studied at the Department of Crafts, Faculty of Fine Arts, Tokyo University of the Arts. He has published many picture books for children, “senro ha tuduku”, “pin-pon bus” and “kuroneko Sangoro”, which was awarded in 1995.  Some of his works focused on birds’ nests such as “Birds’ Nests of the World”,”boku no tori-no-su enikki”, was also awarded in 2006.

In1998, the first time he exhibited nests and his original pictures of nests in Tokyo, and in 2006,  he held the exhibition “NESTS” in New York. He has held many exhibitions since then and also appeared in TV programs as a birds’ nest expert.

​大崎純 Makoto OHSAKI
Makoto OHSAKI is a Professor at the Department of Architecture and Architectural Engineering, Kyoto University, Japan. He received master’s degree in 1985 from Kyoto University, visited The University of Iowa for one year from 1991, and was appointed as Associate Professor at Kyoto University in 1996. He moved to Hiroshima University in 2010 and came back to Kyoto University as a Professor in 2015. His current research interests include various fields of structural optimization, analysis and design of spatial structures, and application of machine learning to design of building structures.

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