【小林・落合研究室】地域に根ざす設計技術・地域に根ざす人間居住

環境デザインの開発・実践−バンブーグリーンハウス・プロジェクト

特定助教 宮地茉莉

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 現在、日本の多くの地域で里山の放置竹林が繁茂し、景観の劣化、周辺耕作地への侵入、イノシシ等の獣害誘因など社会問題となっている。かつて日常生活でみられたタケノコ採取や、農漁業資材・住宅資材としての循環的な竹材利用は低下し、竹林に人の手が入らず、里山環境の悪化する状況が各地でみられる。これは、自然と共生してきた我々の暮らしのバランスが崩れたことに他ならない。このような状況から、現代社会における竹材の用途開拓として、2008年よりセルフビルドの竹構造農業用ハウスを建設試行したのがバンブーグリーンハウス・プロジェクトのはじまりである。

 バンブーグリーンハウスの分かりやすい構造と、のせる、あわせる、くくる、といったシンプルな接合方法は、特殊な技術・部材が要らず誰でもつくることができ十分な栽培空間を確保する。この特性を生かして、地域の人々が竹林から資材を調達し、自らの手でハウス製作に取り組むことで、里山環境の保全と農業活動の振興に寄与することを目指した。このアイデアとデザインが評価され、バンブーグリーンハウスは2009年度のグッドデザイン・サスティナブルデザイン賞(経済産業大臣賞)を受賞した。受賞の意味はおそらく、我々の暮らしの価値観をまさに考え直す時期にきていることを示唆しているように思う。

 プロジェクト当初からデザイン改良を重ねタイプ1~4までを検討し、現行タイプではおおよそ合理的な栽培空間を実現した。これまでに少なくとも30棟のハウスが製作されたことを確認している。また、農業NPOの菜園(滋賀県近江八幡市、2012年)、高齢過疎集落の小農振興(三重県熊野市、2012年)、Uターン新規就農者のスタートアップ(香川県高松市、2014年)、地域おこし協力隊と地元住民との協働(岐阜県本巣市、2016年)、農業高校による地域貢献活動(兵庫県丹波篠山市、2016年)、竹材利用による環境学習活動(福井県おおい町、2019年)、障害者自立支援の福祉農業(構想中)など、里山の環境保全だけでなく、地域の人々が様々な地域課題と結びつけながらバンブーグリーンハウスに取り組んでいる。

図1 BGHの完成内観
図2 BGHの製作風景

図3 BGHの普及プロセス
図4 BGHの製作マニュアル
図5 BGHの製作ワークショップ

ハウスの製作数が増加するとともに、製作方法に関する問い合わせも増えてきたことから、現在様々な普及活動をおこなっている。まず製作マニュアルを作成し、入手希望者にこれまで300冊以上を配布した。またFacebookのグループページを構築し、製作者や製作希望者が参加できるプラットフォームを整えた。現在約800人(2020年12月現在)の参加者があり、使用状況や製作方法、竹林・竹材に関して情報交換をおこなっている。2019年12月には、全国の製作経験者・関心のある参加者を募り、製作ワークショップと意見交換会をおこなった。現場での工夫や疑問、地域の課題などを直接共有できる機会となり、参加者の中には早速製作に取り組み始めたという報告もあった。

 今後様々な地域で製作され定着していくためには、潜在的製作者がいかに実現行動に至るかが課題となる。製作マニュアルを300冊配布し、Facebookで高い関心を集めていることから、その可能性は大きいと感じている。継続的により簡易な製作方法やよりわかりやすいマニュアルの改良に取り組んでいく。

 

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