【三浦研究室】人の行動や心理から建築・地域にアプローチする

京都市における「景観」とは

 

修士課程2回生 長谷川峻

 京都らしさとは何でしょうか。私は京都で育ったわけでもなく、とりわけ関西には縁もゆかりもありませんでした。京都大学に通ったのみです。けれども京都で生活していく中で、少し違和感を持つようになってきていました。街を見ていると、「京都らしさ」を身にまとったビルの多さがどうしても気になってしまいます。もちろん私は本当の「京都らしさ」を知っているわけではありません。ごちゃごちゃした街並みも、勾配屋根の連なる街並みも、ハイカラな街並みも、「京都らしさ」の一部のように思えます。その中で私たちは「京都風」にしつらえ、設計されたビル群をどう捉えれば良いのでしょうか。そこで、京都市の現状を、設計者と行政、規則と形の関係性の中で、どのような議論が行われているのか、規制と現実の間にどういった齟齬が生じているのかを、二つの立場の人から聞くことで京都らしさをどのようにしてとらえているのかをあぶりだすことができるのではないかと思っています。

 京都市にける景観について、様々な議論がなされてきたことは周知の事実かと思います。京都市としては、昭和5年の風致地区の指定から始まり、平成19年には新景観政策が行われ、京都市全体に高さ制限等のより厳しい規制を全体的にかけました。この時は、歴史的景観の破壊との時間との勝負であったといいます。しかしこの後、よりきめ細やかな規制について問題となることになります。

 京都市に建てられる建物は、もちろん厳重にかけられた規制に従わなければ建てることができません。しかし一方で、平成31年4月の新景観政策の更なる進化検討委員会の答申において「建物等の形態をコントロールして景観を保全・再生する「規制法」だけでなく、まち全体を活き活きとした場所にし、新たな景観をつくりだすことにも貢献する「創造法」を含むように、新景観政策の更なる進化を図ることが重要となります。」と記載されています。また、京都市の方とのヒアリングの際、新しいデザインに挑戦してほしいけれども、規制は通っているので何も言えないが毎回同じような図面で出てくるようなところもあるという話や、いろいろ規制が複雑になりすぎていて分かりにくくなっているという話、これがうまくいっているかといわれたら必ずしもそうとは言えないというお話も伺うことができました。創造法への言及は難しいですが、少なくとも現行の規制法では規制と現状の間の問題に対処しきれていないということは言えるかと思います。

 京都市は、特例として現行の規制を適用しないようにすることができます。デザインの特例に関して言えば、京都市美観風致審議会によって計画が審査されたのち京都市長によって特例の認定がなされます。しかし実際に特例が認められるのは年に1、2件程度であり、その中でも「優れた形態及び意匠を有し…(中略)…地域の景観の向上に資すると認められるもの」として認められたものはその中でも少ないのが現状です。そもそも京都市美観風致審議会にかけられ、特例が認められるものはほんの数%で、そのほかの90%以上の計画は審議会にかけられず、業者や設計者と京都市との間の簡単な審査が行われています。審査会に通すことにより余計な時間や費用が掛かってしまうことが原因とみられています。しかしこの中でも、規制の緩和や但し書きの認識のすり合わせなどが行われていないような建築計画は、数値ではわからないがかなり多いというお話を伺いました。

 それでは設計者からの視点ではどのように感じているのでしょうか。これはこれからの研究の話にはなりますが、京都に建築を設計した方々にヒアリングを行い、実際に京都についてどのように考え、どのように設計を進めていったのか、そして景観政策についてより具体的に伺っていきたいと思っております。修士論文では、建築家へのヒアリングをもとに、具体的なエリアや建築の構成要素を設定したうえで、例えば、沿道型美観地区における勾配屋根や軒庇、屋上緑化、に着目してその意匠を調べ、設計者の理想と規制による現実の差を形態的に明らかにすることで、現状の課題と改善の方向性を明らかにしたいと考えています。

京都らしさを身にまとったビル

ごちゃごちゃした地域

瓦屋根の連なる町並み

ハイカラな町並み

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