建築家・木村吉成+松本尚子|受容される「欠落」−多義性を包容する大らかな構え

― 誤用

― 先ほども話題に上がった、House T/Salon Tを掲載した号の新建築のコラムに、「建築専門性の開放」というフレーズが挙げられていました。そのコラムで材の誤用・汎用を住み手が行うということを書かれており、このような誤用・汎用を建築と住み手をつなげる手法として使われているような印象を受けました。そこにはメッセージ性のようなものはあるのでしょうか。

木村 ― 人間を超えたところにある論理でできたものを人間が使っていく中で、どうやってその使い方を設定するのか、ということが重要だと考えています。使い方の方向性を指し示すことがプランニングであるわけですが、設計段階でその使い方を共有できるのは、あくまで一世代30年程度にすぎません。実際に使うのは施主ですし、もしその施主がその建物を手放したとしても、次には他の誰かが使っていくと思います。そこに設計者である我々が介入することはなく、さらには僕らの言葉などがないなかで、建物が使い続けられていくのだとすれば、使い方についてのある程度の解説をしておかなければいけないのかなと思います。素材や誤用などは、その解説のうちの1つと捉えています。

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木村さんがdot architects設計・施工の「UNDER THE BRIDGE(2017)」でDJとしてプレイしているときの写真。 音楽のミキシングは建築設計の多義性と通底しているとおっしゃっていました。

― 木村松本さんの作品は、ディテールや、その使われ方まで考えられているものが多いと思うのですが、そこに関してどのようなこだわりがあるのでしょうか。

木村 ― 建築の中でもディテールは大きな興味の対象になっています。私はある審美性に基づいた言葉、例えば「薄いものは美しい」のようなものを鵜呑みにしたくなくて、むしろ自分でその審美性をしっかり定義したいのです。ディテール自体にも自分なりの原理的なものを突き詰める、あるいはその原点まで遡り、そこからものづくりを始めたいのです。ディテールの存在意義は、建築において何らかの問題を解決する方法となることだと考えています。よりシンプルで一般の人でも理解しやすい解き方など様々な問題解決の方法があるなかの1つとして、誤用が挙げられるのではないかと思います。

 僕は昔DJ をしていたことがあるのですが、これが材の誤用のバックグラウンドになっているのかもしれません。DJは、ある共通の文脈を重ねて行くようにBPM(テンポ)が近い他のジャンルの曲をつなぎ合わせていくのですが、そのぐちゃぐちゃで読み替えが自由な感じがとても面白いと感じていました。今僕がディテールに竹を使ったりすることは、DJと同じなのではないかなと思っています。ビニールハウスで使う直径25mmとか30mmの金具であれば、それを同じ直径の竹に置き換えても良いのです。その瞬間、竹は天然素材ではなくて、植物繊維でできたパイプ材という見方になる。すると竹について僕らが思っている、いわゆる「伝統的」、「和風」といった属性が消える。パイプ材を直径という数字だけで捉えることによって、見方のずれから、そこに違う材が登場する理由が作れるのです。

 こういったことを考えるにあたって、仲の良い友達と、tumblrに「工夫」というサイトを作り、みんなの日常で発見したものを載せています。(https://mkktt.tumblr.com/) ものの見方、考え方のずれや横滑りなどといったものをこうして蓄積していっています。

松本 ― 誤用するということは結局、人を信用しているということだと思います。その感じが態度にあらわれていることで、使う人もリラックスして過ごしてくれる。それを建築で示していきたいというところに、ディテールが役割を果たすといいなと考えています。

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木村さんと友人達で運営する「工夫」:日常に溢れる様々な自分たちも含めた「誰かの誤読」のアーカイブとなっている。(https://mkktt.tumblr.com/)

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疎水性のあるまな板がパッキン材の代わりに。


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民家の木製格子。朽ちて無くなった部材を同径の竹で補う。部材寸法の共通性が異素材をブリッジする。

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はたけ・あぜ道の間のフェンス。ビニールハウス資材の金属管を支える竹。工業製品と天然素材が「管」という共通項で使われている。交差部には保護の軍手。


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育てられるパイプ材、竹。

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年に一度開かれる清水坂の陶器市。竹とビニールハウス結束部材で作られるブレたフレームが和風建築の中に重ね合わされる。


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竹とビニールハウス部材を使った習作。


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疎水性のあるまな板がパッキン材の代わりに。

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