壁 -建築環境工学、特に熱湿気の視点から-|小椋大輔

― 室内の湿度を調整する壁 ―調湿建材―

 室温の維持という機能に加え、近年は湿度に対する要求も高まってきている。冬季は、低湿化抑制についてインフルエンザウィルスの生存率が高まる点に加え、乾燥感、静電気防止などの点から、夏季は、高湿化抑制について、カビなど微生物の繁殖によるアレルゲン物質の発生抑制に加え、衣類等の汚損を抑制の点から考えられている。また、未だになくならない冬季の結露問題についても、この材料を用いた湿度安定性の機能が期待されている。
 表面結露は目視が可能であり、人々に最も身近な結露現象である。この結露は建材の腐朽、カビ、汚れ、内装の剥離といった被害の原因となる。これを抑えるための一般的な対策としては、壁の断熱性の向上が考えられるが、例えば窓面の結露のような断熱性が弱くなる部位での結露発生を完全に防ぐことは困難である。調湿材を用いることで表面結露を防ぐ事が可能であれば、非常に有効と考えられる。ここでは調湿材が表面結露防止に対して有効に働くのかどうかについて、調湿材の持つ、室内湿度安定化の能力とその持続時間を簡単な例題を挙げて考えてみる。

表1 3)

 室内空気の相対湿度の安定化について調湿材がどう働き、どの程度持続性があるのか、簡単な計算結果を用いて説明する。床面積13㎡、天井高3m の室を考え、表1の様な使用条件を考える。図4、5にそれぞれ1 日目と30 日目の室内相対湿度変動を示している。1 日目の結果から、調湿がある場合の相対湿度が、60%以内に抑えられているのに対して、調湿がない場合は、86%に達しており、調湿材の持つ効果は明らかである。また調湿ありで換気がない場合は24 時に2%程度、換気がある場合と差が生じる程度である。一方、30 日目の結果から、調湿があり、換気がある場合は、相対湿度は70%以内であるが、換気がない場合は、相対湿度が90%近傍を変動しており、水分発生がない時間帯では、調湿がない方の相対湿度が低い。換気がない場合、調湿材に水分が蓄積してしまい室内相対湿度を高湿化させている。この結果から、調湿材が室の相対湿度の適当な値で安定化に持続的に働くようにするためには、換気あるいは除湿を行う事で、材料からの放湿を行う事とセットで利用を考えることが重要である事が分かる。

図4 室内の相対湿度変動(1日目) 4)

 

図5 室内の相対湿度変動(30日目) 4)

― 壁 ―物理環境調整機能の活用―

 室内の物理環境を調整するという目的は、シェルター性能としての建築を考えれば、非常に古くから建築に求められているものである。一方で、ここで説明した例から分かるように、より高機能、高性能な壁に用いられる材料が開発され、利用されつつある。熱環境的には、これら以外にも開口部の利用が考えられる透明断熱材、室温の安定化を高める潜熱蓄熱剤を用いた壁など、紙面の都合上紹介できなかった多くの面白い材料が開発されてきている。
 なお、ここでは説明を省いたが、これら壁の機能をしっかり働かせるためには建物の気密性が非常に重要な鍵を持つことを付け加えておく。
 これらを使った壁を適切に用いて室内環境調整能力と省エネルギー性がより高い建築や住まいが益々増えることを祈念して、このコラムを終えたい。

<参考文献>
1).IEA Energy Conservation in Buildings & Community Systems, Annex 39 High Performance Thermal Insulation Systems,
URL: http://www.ecbcs.org/annexes/annex39.htm
2).IEA/ECBCS Annex39,『Study on VIP-components and Panels for Service Life Prediction of VIP in Building Applications 』,Subtask A, 2005, p.3.
3). 同上 pp.6
4). 小椋大輔, 鉾井修一,『調湿材で表面結露は防げるか』, 建築技術No.660,2005,p.154-156.

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