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東南アジアで考える日本の建築ものづくり~インドネシア、ベトナム探訪~|古阪秀三

3.2 ベトナムの事例

(1)プロジェクト概要

 前述のとおり、ベトナムの事例は特定のプロジェクトではなく、ベトナム国内のコンサルタントであり、設計施工をするゼネコンでもあるNewCC 社がいかにして現場技術者の能力を高めていったか、その結果として日系ゼネコンと設計施工物件で競合できるようになっていったか、日系ゼネコンはこの流れから何を学ぶべきかの例として紹介する。

(2)NewCC 社の歴史註2

 1996 年にCC エンジニアリング会社設立、現在の社名はNew CC と称している。設立当初は6 人のスタッフで工場の設計を提供する会社であった。約20 年の間にNew CC 社はベトナムでの工場建設のエンジニアリング、プロジェクトマネジメント、設計施工を受託するトップクラスの会社に成長した。現在のスタッフは80 人を越え、熟練し訓練されたエンジニアの確保と育成に努めている。2011 年に技術担当として日本人スタッフ2 名を招聘し、その後、日系企業の工場を中心に設計施工での受注が増えている。

(3)所見

 NewCC 社の創設者は日本留学組であり、その時に学んだ建築構造分野の研究成果を生かしてCC エンジニアリング会社を設立、その子供にも日本留学を勧め、マネジメント系の勉強をさせている。このように日本ならびに日本語への馴染みがあり、それぞれ博士・修士の学位を取得するほどの意欲がある。さらにその間に多くの人的つながり、ネットワークが構築されている。それに加えて、日系ゼネコンから経験豊富で、有能な現場技術者を2 人招聘し、明らかに日系発注者対応の布陣を有する企業組織を構築してきている。その1人が前述のA 氏である。

 このA 氏によれば、日系ゼネコンの現場技術者が当然のごとくこなしている品質上、納まり上、安全上等の技術教育を真摯に繰り返し実施しており、また、その一方で、プロジェクト全体のマネジメントに関して自らが実践するとともに、若手統括者教育を担っている。(図3は縦樋の支持の納まり例。)

図3 縦樋の支持の納まり例

また、設計施工案件では、実施設計ができた段階で、設計者(意匠、構造、設備とも)、積算士、現場技術者、専門工事業者などが一堂に会して、設計ミス、不整合、脱落のチェック等を行っている(図4)。

図4 NewCC 現場会議

さらに、NewCC 社では、“INTERNAL INSPECTIONCHECKLIST” をMASTERPLAN、STEEL STRUCTURE、INFRASTRACTURE 等に分けて用意しており、現場技術者の管理項目の標準化を図っている。

 このように、現段階で明らかに差のある日系ゼネコンの現場管理者の技術力とベトナム地場ゼネコンのそれとの差を極力埋めるべく努力している。

 一昨年、NewCC 社が設計施工で建設したM 工場(図5)を視察する機会があった。その時に、その工場長とお会いした。「この現場はかなり仕事の質が高くなっていると思います。」と切り出すと、工場長から「そのとおり、なかなかの出来栄えで、満足しています。」との答えが返ってきた。さらに筆者が「この仕事を日系ゼネコンがしたものだとしたら、どう感じられますか」と尋ねると、工場長は「うむ!」というだけで答えに困った様子であった。東南アジアの多くの国で日系発注者が日系ゼネコンに向けて要請する「品質は日本並み、価格は現地並」を彷彿とさせる場面であった。 それと前後して、NewCC 社は別の設計施工物件で日系スーパーゼネコンと競合し、当該物件を受注したとのことである。「品質は日本並み、価格は現地並」は妥当なのだろうか。また、NewCC 社のような企業組織のあり方は一考の価値があるのではなかろうか。

図5 M工場外観

2)NewCC 社ウェブサイトhttp://www.newcc.com.vn/index.php

3)古阪秀三:特集 東南アジアの建設事情に関する調査~東南アジアで考える日本のものづくり~ , 建築コスト研究, 建築コスト管理システム研究所, No.94, pp.44-52, 2016.7.

― 4.おわりに

 インドネシアとベトナムの建設市場とその生産体制の成長過程には相当な違いがある。発展段階としての違いもあれば、市場を構成する制度、人的交流/移動の影響による違いもある。まだ空想に近いが、日本→台湾→インドネシアというラインは、日本のゼネコンの進出による国内ゼネコンの成長過程が技術移転的でよく似ているように思えるし、一方で、ベトナムの国内ゼネコンのそれは、技術移転というよりも人的な交流/移動、企業合併等に依存して行われているようにみえる。では、「日本のものづくり」を日本、インドネシア、ベトナム、シンガポールでいかに生かすべきなのか、修正すべきなのか。答えは見えつつある。

【謝辞とお断り】 実態調査にご協力いただいた皆様に記して謝意を表します。また、拙稿の中で特定の会社名を出して記述した部分があるが、具体的な事例をわかりやすくという趣旨からであり、他意はないこと、さらに拙稿は註3の文献の一部引用であることをお断りします。

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