メキシコと建築|川上 聡

― マウリシオ・ロチャ

 2014 年、同時期に進行していたケレタロの集合住宅プロジェクトを一段落させ、メキシコの太平洋岸に位置するプエルト・バジャルタ南部の無人の半島タマリンドにフォーシーズンズホテルを設計することになる。レゴレッタとメキシコの若手建築家を代表するマウリシオ・ロチャ(Mauricio Rocha)との協働プロジェクト。メキシコは現在、建築界が盛んで活発であり、アルベルト・カラチ(AlbertoKalach)、ハビエル・サンチェス(Javier Sanchez)、タティアナ・ビルバオ(TatianaBilbao)など若くて優秀な建築家が多く存在するが、マウリシオ・ロチャはその中でもひときわ目立った存在である。

 マウリシオ・ロチャは1950 年生まれ。建築を構成するにあたり、単純なメソッドではなく、その地域で使える素材や、メキシコの職人の技を生かし、メキシコだからこそできることを検討して構造システムを構築し、素材や職人の技をインテリアの仕上げではなく、構造のシステムの中で考えることをしている数少ない建築家である。代表作には土壁で作ったオアハカの造形美術学校がある。 このホテルはそんな彼との協働で、最低でも週一度は一日中デザインミーティングをこなす濃密なスケジュールでデザインを進行させた。レゴレッタもロチャもメキシコを愛する建築家であり、地域性を重要視するという点では話が進みやすかったが、レゴレッタが機能とボリュームで全体の形態をスタディ、決定しようとするのに対し、ロチャは面や線といった建築のエレメントで、構造のコンセプトからデザインに入るといった違いもあり、デザイン決定のプロセスは2 倍以上の時間と労力をとられることになった。それでも互いの建築を理解し、互いの手法をより高い次元へと昇華することに成功したのではないだろうか。数千枚に上るスケッチにおよぶスタディの結果、レゴレッタの自然の中に溶け込む遺跡のような粗いマッシブなボリュームが、ロチャの緻密な構造システムによって構築され、内部ではダイナミックなスケール感の空間が実現されている。

フォーシーズンズ リゾート タマリンド

― 事務所退職、京都

 2016 年春、日本で自らの設計活動を行う決意をし、レゴレッタ事務所を退職した。ビクトール、また事務所の同僚たちは、私の旅立ちを惜しんでくれたが、同時に多くの励ましと応援とともに送り出してくれた。 退職後3 カ月たった今、京都でこのエッセイを書いている。マヌエル・ポンセ(Manuel Ponce)のスケルツィーノ・メヒカーノを聴きながら、メキシコでの仕事と生活を振り返りつつ。12 年間スペイン語で仕事をしてきて、今そのことについて日本語で書いているのが不自然でならない。乾燥した常夏のメキシコで、積層、石で建築を考えてきた私が、これから四季のある日本で、軸組み、木を中心にした建築とともに何ができるのか、明快さ、明るさを美学とするメキシコから、陰影を好み、わびさびの精神をもつ日本に移り、何を表現をすることができるのか、自分でもまったく予想ができないが、それでも今後、何かしらの形で、メキシコで学んだ建築のエッセンスを実現できればと思う。

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