災害・仮すまい考|牧紀男
― 応急仮設住宅の防災的課題
そもそも、現在のバラックである応急仮設住宅は何か、ということであるが、「災害救助法」という法律に「第四条 救助の種類は、次のとおりとする。一 避難所及び応急仮設住宅の供与…」と規定されている。さらに「告示」で「住家が全壊、全焼又は流出し、居住する住家がない者であって、自らの資力では住家を得ることができないものに供与するものであること」とされる。シェルターである避難所の対象者は、被災した人すべてであるが、バラックである応急仮設住宅の対象者は「自らの資力では住家を得ることができないもの」であり、実際に以前は年収制限が行われていた。表2 に応急仮設住宅供給思想の変遷をまとめる。
東日本大震災では阪神・淡路大震災のほぼ2 倍となる総計11 万戸を超える応急仮設住宅が利用されている。利用されていると書いたのは、東日本大震災では、民間賃貸住宅を利用した応急仮設住宅(「借上げ仮設」)が半数以上(6 万戸以上)を占め、これまで主流であった新たに建設されるプレハブの応急仮設住宅(約5 万戸)より多くなっているからである。
東日本大震災の応急仮設住宅については様々な問題点が指摘されている。しかし、東日本大震災の応急仮設住宅の問題として指摘される様々な問題(コミュニティー維持、住宅の温熱環境、高齢者ケア、供給システム等々)は、いずれも以前から応急仮設住宅の課題として指摘されてきたことであり、解決策の提案も行われている。応急仮設住宅の課題は「個別には」解決可能である。例えば、居住環境は1991 年雲仙普賢岳の応急仮設住宅と比較するとかなり改善され、また一般の賃貸住宅を利用した「仮上げ仮設」の居住水準は当然のことであるが一般の住宅と同じである。さらに新たに建設される応急仮設住宅のバリアフリー化、集会所の建設等々、以前指摘された課題の改善が行われてきている。また、東日本大震災の応急仮設住宅における「良い試み」として紹介される応急仮設住宅団地での店舗建設(写真①)、巡回バス、対面型のレイアウト(写真②)、高齢者グループハウス型仮設(写真③)、木造仮設住宅等々は、いずれも阪神・淡路大震災でも実施されてきたことである。しかし、反省を踏まえ居住環境の改善、コミュニティーに配慮した団地設計を行ってきた結果、建設コストが一戸あたり600 万円(撤去費含まず)4 程度にまで上昇しており、仮すまいのコストが高いことが新たな問題となってきた。
一方、東日本大震災では、これまでの教訓が活かされなかった事例も存在する。たとえば、学校の校庭に応急仮設住宅を建設しない、コミュニティーごとに入居する、事前に応急仮設住宅用地を検討しておく(浸水域内で設定されていた)等々については以前から指摘されていた課題が再度発生している。東日本大震災の教訓を踏まえ、国土交通省で応急仮設住宅のあり方5、岩手県の応急仮設住宅建設担当者の経験6 等がまとめられている。しかし、問題の本質は教訓・経験が引き継がれていかないところにある。
東日本大震災で新たに発生した問題をあえて挙げるとすれば、1)民間賃貸の入居者募集・契約・退去、2)応急仮設住宅の長期利用という2 つである。1)については、国交省等で検討が行われており、解決策も含めた対応策が検討されている7。東日本大震災に関わる直近の問題として、さらに今後の応急仮設住宅を考える上で重要なポイントとなるのは「5年を超えて応急仮設住宅を利用する」という課題にどう立ち向かうかである。
4 内閣府(防災担当)、被災者の住まいの取り組みに関する取組事例集、2015
5 国土交通省住宅局住宅生産課、応急仮設住宅建設必携 中間とりまとめ、2012
6 大水敏弘、『実証・仮設住宅』、学芸出版、2013
7 国土交通省住宅局住宅総合整備課他、災害時における民間賃貸住宅の活用について:被災者に円滑に応急仮上げ住宅を提供するための手引き、2012