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株式会社髙橋工業 代表/髙橋和志|人のもの真似をしていくと枯れていくんだ 

― 他の主体との関わり方

――実際に建築家と仕事をされる際、建築家からどのような図面を受け取るのでしょうか。


下手にきれいな図面をもらうよりも手書きのスケッチの方が分かりやすいですね。例えばCG の図面を送ってこられると分かりません。余計なものはいりません。建物や人の大きさを描いてくれればよく、建築全体を見て考えているわけではないので、意匠と構造を兼ねたようなものが分かればいいと感じます。

――CG で送られてくることが多いのでしょうか。


おそらく建築家が描いたものを、そこの所員の方がCG にしたのでしょう。きれいに表そうとしたのでしょうが、それは建築家の考えではなくなります。やりたいものをズバッと言ってくれた方が、鉄がいいのか、あるいはコンクリートがいいのかがすぐ分かります。つまり、形が欲しいのか、素材の力強さが欲しいのか、そういうことを知りたいのです。CG は一見きれいなように見えて、何を意図したのかが伝わってきません。細かい取り合いは図面で後から考えればいいのです。つまり建築の考え方が知りたいのです。


――建築家との仕事はどのように進めるのですか。


建築家のプレゼンに対しては、金額が何億であろうとあまり気にしません。まず、その考え方やデザインに興味を持つか持たないかで決めます。面白いと思ったら、すぐにスケッチに描いて、そして作り方や考え方を描きます。デザインには口は出しません。アルミやスチールをこのように加工するといった、具現化の考えを示します。最後に数量と単価を書いて、金額を出します。見積書は項目ごとには書きません。相手が知りたいのは、今のデザインをいくらでできるのかということなのです。


――ゼネコンとはどのような形で関与していますか。


ゼネコンは何も言ってきませんね。私には、ゼネコンはものをつくること以外にすることが多過ぎるように見えます。ゼネコンにはゼネコンのやり方があるのでしょうが、私はそういうやり方に染まらないように距離を置いています。一方で、気骨のある建築家も少ないように感じます。ゼネコンに隙を与えてしまっているような。自分がこうしたいという事に対しては引かない、癖のある、個性的な建築家が減ってきたのではないでしょうか。「俺に任せたなら黙って見とけ」くらいの勢いが欲しいですね。自分たちで考えて「これが私のやり方です。それで批判されるなら建築家辞めます」くらい言えればいいのですが。みんなの意見を聞いて責任を取らないようなやり方が、一番危ないと思いますね。


――造船と建築の費用の考え方は違いますか?


建築では、費用は数量×単価で決めるのが基本的な考え方です。ゼネコンが行っていることは、ものづくりというよりも、管理・マネジメントで、実際にものをつくってお金を決めるのは専門工事業者です。一方、造船は自社で設計して、自社で値入れしているから、目利きがあります。パッと見ただけで、なぜ1 億円違うのがすぐ分かります。しかし、あまりゼネコンのやり方をどうこう考えたことはありませんね。


――ものづくりの考え方は組織によって異なりますね。


結局はそこにいる社員個人の違いだと思います。気が合わない人とは話さなくてもよいと思っています。そのうち相手のにおいで、どんな人間かわかるようになるものです。普通の生き物はそうなんです。人は親切にしてくれるもの、人は暴力をふるわないものという考えは間違いです。ライオンよりトラより怖いものは人間。人間を襲うのは人間。だからこそ生き延びるために心身共に鍛えるのです。心も身体も守られていることがどれだけ幸せかということを知るのは大切です。

― 会社経営とものづくり

――髙橋工業の社員は何名いらっしゃいますか。


現在は8 人です。事務1 人と現業技術4 人、設計技術3 人。ほとんど皆が、鉄板の加工なども含めて現業を行っています。熟練度の違いはありますが。組織の考え方として、10 人を統率する人が一人いれば、全体が何をしているかわかります。10 人いれば一つのプロジェクトが出来ます。


――少ない人数で仕事をすると、皆の技量は上がりますが、 会社の規模が大きくなると建築のように分業になっていきませんか。


考え方次第ではそうはなりません。50 人の組織をつくるためには、5 人をその人と同じレベルの人材に作り上げればいいのです。社員が多いからといって、技術が高いというわけでは必ずしもありません。


――大規模造船所では管理をする技術者と親方的な技能者の組織で船をつくっていると聞きます。


造船所は勝海舟がつくったドックが最初で、つまり欧米型の技術を導入してつくったものです。技術云々は官側にあって、下請は人集め役でした。戦時中は、造船も強制労働で行われていました。管理の考え方は「官」の考え方がそのまま発展してきています。働く側と管理する側とが別であるのは、良いのか悪いのかという話になりますが、私は技能者=技術者である方が正しいと思います。技能者と技術者を一緒にしてはいけないのか、と思っています。構造をやるにしても、「溶接とは何ぞや」ということが分からなければ意味がないですし、構造計算を示しても実際作業をやってみなければ分かりません。図面に傷がないということは、実践が分からないから傷がないということ。見ただけでは分からないものもあるのではないでしょうか。


――中小の造船所にできて、大規模な造船会社にできないことは何ですか。


船も建築と同様、人が増えれば管理をする人が必要になります。規模が大きくなれば管理造船になり、大組織になります。大手の会社で儲かっていないというのは、生産に寄与しない、管理する人間が多すぎて、それに払う金が多くなるからです。管理と生産が逆ピラミッドになっているのでしょう。大手の造船会社に私の後輩もたくさん行っています。組織の中では役に立つかもしれませんが、自分一人では何もできないでしょう。生きていけることは確かですが、自由度はありません。一人でも、腕が良ければ好き嫌いは言えますから。


――造船は設備投資が大きいという印象を持つのですが。


結局、鉄骨製作業者は自分のために投資するわけではありません。つくるものが限定されますし、汎用機械ではないから、すぐに体力がなくなります。つまり、単価の切り下げを交渉しないと仕事がないのが現状です。そもそも、つくる側と買う側は対等であるべきでしょう。他の鉄骨製作業者を見ていると、いいようにしかされていません。同じ設備の工場を持てば、高いも安いもありません。人しか変わらないはずです。船の場合はもっと汎用性のあることしかしません。つくるものが決まっていると生産効率を上げることが重要ですが、造船はそうではありません。どんな大小の船でも対応できるような機械を整えます。鉄骨製作業者の多くは、工場を止めない仕事、ロボットを止めない仕事、道具に合うような仕事を求めてしまっています。本来のものづくりは逆であるべきです。


――逆といいますと…。


ものをつくることと経営することは違います。ものをつくる大きな会社の社長でも経営のことに偏りがちです。昔の漁業会社は造船もしていました。多角経営などと言われていますが、百姓にも色々なことをやっていた人はいます。そのように経営をすることに興味がある人もいますが、私にとっては「ものをつくること」が楽しいのです。

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