シンガポール・建設産業界との交流|古坂秀三
The Enthusiastic Look at Japanese Construction Industry from Singapore
― 1. はじめに
シンガポール(以後、星国)は1965 年にマレーシアから独立したまだ若い国である。面積は淡路島とほぼ同規模であり、建設投資は2011 年現在で101US$、ちなみに日本は同年で5,225US$ であり、大きな開きがあるが、それぞれの国土面積で除した場合、星国は1,420 万US$/km2、日本は138 万US$/km2 となり、いかに狭い国土で多くの建設活動を行っているかが分かる。そのため、建設市場は活況を呈しており、設計、工事等において外国人、外国企業の採用も盛んで、国際化の程度は世界でもトップクラスである。実際に、日本の建築家も多数活躍しており、特に星国の建国直後から活動を開始した日本の建設企業は、星国の発展を建設の立場から支えてきたといっても過言ではない。また、建設にかかわる法律、制度の整備に関しても多くの技術支援を果たしてきた。そして、現在では星国の大規模・複雑なプロジェクトは日系企業が担当していることが多い。一方で、建設労働者はすべてを外国人に依存しており、星国政府としては、外国人労働者の雇用ならびに国内滞在には特段の注意を払っている。 こうした中で、星国の建設にかかわる政府機関や団体、個々の企業は、機会を見ては、日本の企業、特に建設企業ならびに建設工事の視察に来日することが多くなっている。一部の建設企業の方からは国なり、大学なりがまとめて対応してほしいとの声を聞くこともあった。筆者のもとに依頼が来ることも少なからずあった。
― 2. シンガポールからの訪日調査団受け入れの経緯
そんなさなかに、星国の日本大使館を通じて筆者のところに、BCA(Building andConstruction Authority;星国政府の建設部門で日本の国土交通省に該当する部門)並びにBCAA(BCA Academy)から、訪日調査団(以後、訪日団)受け入れの要請があった。その目的は「日本の建築生産システムの高い生産性・工業化・乾式化ならびに関係者間の連携などの実際の視察ならびに研修、意見交換」にあった。訪日する団体はBCA &BCAA、星国建築家協会(SIA)、星国建設業協会(SCAL)など総勢30 名程度。
前述のとおり、星国の建設関連団体、企業が個別に日本の企業を訪問することを多少なりとも集約できる術を考えるべく、旧知の国土交通省の担当課の方とも相談し、共同で受け入れ企画を立て、訪問先を確定させることで合意し、訪日団を受け入れることにした。
具体的な受け入れに際しては、訪日団の目的が「生産性・工業化・乾式化」にあることから、建設企業を中心にし、研修の内容としては、日本の建設産業が大きく発展した1980 年代のTQC や複合化工法の歴史を学んでもらい、それらの定着とともに生産性が向上したこと、超高層建築技術や全自動建設システムの開発はそれ自体にも意味はあるが、それらの要素技術の波及効果が大きいこと、これからは生産性向上もさることながら環境共生、品質・安全面への配慮がますます重要であることなどを理解してもらうことに狙いを定めること、また星国での生産性向上や工業化にかかわる技術移転に日本企業が貢献してきた歴史も伝えることにした。そしてこれらに対応できる企業として大林組、鹿島建設、清水建設、大成建設、竹中工務店の5 社(以後、大手5 社)に参加してもらうことを決定した。
なお、大手5 社への個別の要請事項は以下のとおりであり、それぞれ的確に応えていただいている。(企業は五十音順)
□大林組
①大阪工事現場見学(設計施工分離型):生産性向上・工業化・乾式化を設計者側と詰めた事例、
②スカイツリー見学と工事記録説明:工事記録、合理化、現場作業の外部化、設計と施工の連携、地震対応
□鹿島建設(超高層建築の先駆け企業)
①狭小過密地域における超高層建築:超高層建築技術の歴史、高い生産性・工業化・乾式化ならびに関係者間の連携、建設企業がどこまで設計や施工計画に関与するか、
②超高層建築の地下工事( 逆打工法)、
③京都大学の研究施設:埋蔵文化財等が想定される地域での工事
□清水建設
①清水建設本社見学とレクチャー:省エネ、環境共生、未来志向の事務所(本社屋)の発案から設計、施工、竣工までの経緯、
②清水建設技術研究所見学とレクチャー:種々の技術・システム開発・複合化工法等の歴史と見学
□大成建設
①狭小過密地域における超高層建築:廃棄物処理、積層工法、設計と施工の連携
□竹中工務店
①大阪工事現場見学:設計施工一括型:設計施工だからできたこと、現在の竹中としての生産性向上技術、
②竹中東京本店見学とレクチャー:究極の生産設計、生産性向上技術、環境共生技術、現場作業の外部化
以下は、このようにして決定した訪日団受け入れにおいて、どのような現場視察・研修が行われ、訪日団からはどのような質問が出されたかの記録である。紙面の都合上、現場等の特徴は側注とし、質問への回答は割愛する。