学び、創造する製図室

概要

建築学科の大きな特徴である「製図室」。日夜学生が集い、図面を引き作品を生み出すそこは紛れもない「創造の場」であり、同時にコミュニケーションを育み、学生の様々な活動の拠点となる可能性を秘めた「学び、育つ」場でもある。本企画では私たち建築学生にとって最も身近な「創造の場」である製図室を対象に、製図室を利用してきた本誌編集員が主体となり自分たちの製図室を分析し、京大OBOG の協力や学生編集員の交友関係を活かしながら世代間や大学間での使われ方や空間の差異をインタビュイーのリアルな語りや図面、写真、現地調査をもとに探求した。

製図室調査① ―京都大学―  個が響きあう場

一つ目の例として、京都大学建築学科の四回生製図室(デザインラボ)の調査を行った。本記事では、デザインラボの実測とインタビュー、同学の樋田蓮さんが描いた二回生製図室空間の絵図、そして実際に利用してきた本誌編集委員の率直な議論をまとめた座談会から、個人の色が反映され、引き継がれ、そして互いに干渉する「響きあう」製図室の姿を見つめる。

製図室調査Column ―オンライン製図室―  形のない場 

京都大学建築学科では、2020 年に入学した学生はコロナのために製図室を使わない生活を余儀なくされた。そこで彼らは一回生の間、Zoom ミーティングを用いて「オンライン製図室」なるものを設け、活用していたという。本記事では「オンライン製図室」を主催していた宮田大樹さん(京都大学建築学科四回生)の語りから当時の様子を振り返り、二回生以降の対面の製図室と比較しながら、バーチャル空間としての製図室像に迫る。

 

製図室調査② ―京都工芸繊維大学―   創住近接の場

「学び、創造する製図室」像の2つ目の例として、多くの学生が大学周辺に住まい、学び場と日常生活が近接した製図室像を、京都工芸繊維大学デザイン・建築学課程の製図室(実習室)の実測とインタビューを通じて調査する。デジタルファブリケーション機器が充実した環境での創造のあり方、それらを用いたセルフビルドの棚や椅子によって構成される魅力的な製図室の姿、そして製図室と周辺地域が一体となった生活の豊かさを探求する。

製図室調査③ ―立命館大学―  セルフマネジメントで育てる場

「学び、創造する製図室」像の3つ目の例として、立命館大学建築都市デザイン学科の製図室(ストックルーム)の実測及びインタビューを通じて調査する。「ストックリーダー」と呼ばれる学生たちによる部屋を管理するシステムをもとに、その部屋の利用者であると同時に管理者でもある立場から行われるセルフマネジメントによって生み出される、主体性のある生き生きとした創造空間の姿に迫る。

製図室調査④ ―千葉大学―  学年が入り混じる場

「学び、創造する製図室」像の4つ目の例として、「ブース」と呼ばれる空間を多様な学年の学生が巧みに使いこなす製図室像を、千葉大学建築学科の製図室の図面及びインタビューを通じて調査する。解体され建て替わる前の製図室の姿を記録しつつ、縦のつながりが生むことで起こる現象やブース単位で育まれる個性ある生活像、そしてブースから生まれた新しい活動の誕生秘話について伺っていく。

OBOG インタビュー① ―竹山聖―  まざりあう寛容な場 

OBOG インタビューの1人目は、学生運動直後の激動の時代を京都大学・東京大学で過ごした建築家の竹山聖氏。竹山氏が使っていた当時の製図室は、酒を飲む者、麻雀をする者、黙々と模型制作に勤しむ者などが入り混じる、人間の持つ複合性と空間の多様さに恵まれた「創造の場」だったという。竹山氏が大学院で進学した東京大学と比較しながら、当時の製図室の記憶を掘り起こす。

OBOG インタビュー② ―柳沢究―  創造と生活がとけあう場

OBOG インタビューの2人目は、1999 年まで京都大学の建築学科に所属し、現在は京都大学の教授として勤務している柳沢究氏。柳沢氏は当時の製図室を学生の溜まり場として、ある時は泊まり込みながら、暮らしの一部として住みこなすこともあったという。学生街として栄える場所にある吉田キャンパス製図室だからこその、学びと生活が一体となった京都大学の建築学生ならではの暮らし方に迫る。

OBOG インタビュー③ ―西野佐弥香―  人ひとりに与えられた場

OBOG インタビューの3人目は、2006 年に京都大学を卒業し、現在京都大学の准教授として勤務している西野佐弥香氏。現在京都大学では当たり前となった桂キャンパスの四回生製図室(デザインラボ)。その黎明期を過ごした西野氏の語りから、当時のデザインラボの空間の姿、そこでの生活の風景を浮かび上がらせる。そして西野氏の武庫川女子大学への勤務経験を踏まえ、改めて建築学生の特性について触れるとともに、一人ひとりに与えられる創造の場の価値を考える。

まとめ ー大学およびOBOG への調査を終えてー

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