【平田研究室】traverse24 Project

響き合う活動

助教 岩瀬 諒子

ゼミの様子

私が学生の頃の桂キャンパスの研究室は、黒い扉が重苦しく室内の活動の様子が伺い知れなかった印象が深く心に残っていたが、時を経て教員としてキャンパスに戻ると各々の研究室ごとに扉を開きっ放しにしたり、暖簾をかけたりと、使い手側の工夫によって環境的な制約を乗り越えているユニークな様子に目が行くようになった。設計者の計画のあり方と使い手の自由との関係については長く建築設計の分野でも議論されてきた事であるが、研究室活動として携わってきた「北大路プロジェクト」「桂の庭プロジェクト」や今期の取り組みである「研究室のリニューアル設計」は、むしろ学生自身が「設計者」であり「使い手」でもあることの葛藤を実感しながら取組んでいる設計実務のプロジェクトである。

クライアントや設計与件も不在であるため自分たち自身で「何を設計するべきか」という自分たち自身への問いかけからスタートし、「使いやすい空間を上手に設計する」ということと、今建築設計を行う上で向きあうべき視座を同時に模索してきた。例えば、捨てる予定だった既存のオフィス家具をあえてリニューアルの材料として再利用できないかと材料の意味から問うことや、散らかりがちな模型材料の物量自体を肯定的に捉えて風景にできないかなども議論した。もちろんこうした実験的な空間をきちんと作り使いこなしていくところまでが設計行為である。

そこにある環境を観察し、今まで意識の外にあった見えない事象やものたちの秩序やその関係性を設計のきっかけとするような考え方は、「ものの響き」として設定したスタジオ課題のテーマとも共通する。据えづらい抽象的で動的なテーマを設計手法としてたぐり寄せるために思考のフレームを自ら考案して設計しきる必要があり、しなやかさと屈強さが同時に必要だった難題をうまく乗りこなしてくれたと思う。

近年は、主宰している公開ゼミ「宵山ゼミ」で設定したテーマが「うごめくもの」だったことや去年ゼミで輪読した「生物の世界(今西錦司著、1972年)」にける棲み分けの理論などが、こうした設計をとりまく思想に深みを与えてきたとも感じている。時に実務として、研究として、思想として、複数の視点から互いの意味や理解を深めあうような活動がネットワーク状に存在しているのが研究室活動の総体らしきものである。これらの響き合いの種が重い扉を越えて、今後社会に広がっていくことを望んでいる。

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