【加子母木匠塾】手を継いでいく
建築は数十年、場合によっては数百年のタイムスパンで更新される。木材の寿命は樹齢と同じ、などと言われることもあるが、正しく利用すれば1000年以上も材としての用をなす。コロナによって大混乱を招いたこの2,3年は、それらにとっては些細なものだろうか。
加子母木匠塾(以下「木匠塾」)は全国8つの大学の建築を専攻する学生から構成される学生団体である。伊勢神宮の式年遷宮に用いられる御用材でも知られる岐阜県中津川市加子母で、設計から施工まで集中して取り組む合宿を例年夏に行ってきた。1995年に活動が開始されて以降続いてきたこの合宿は、2020年、新型コロナウイルスの影響を受け一度途絶えてしまった。例年は加子母に8大学が集まり一斉に制作を行う木匠塾だが、2020年度には各自のプロジェクトに取り組んだ大学、加工練習のみ取り組んだ大学、学生活動が制限され一切の活動ができなかった大学、と分かれ、加子母地域での制作活動は無かった。2021年度も同様、大学ごとに分かれてプロジェクトに取り組み、並行して全大学共通の「水車プロジェクト」(後述)も行われた。コロナの勢力が落ち着いた時期を見計らって、加子母地域での小規模な合宿を行い、体勢の復旧に向けた起点となる活動となった。この2年間で加子母地域や他大学との交流、加工技術をはじめ制作面でのノウハウの2つが大きく失われた。2022/2023年度はそれらを取り戻し、木匠塾の今後への再整備のための合宿となった。2022年度は、宿泊場所3つにそれぞれ30人前後、日程は各ターム1週間ほどを計3ターム、と参加者を細かく振り分けて合宿を行い、計8つのベンチを制作した。短期間かつ小規模とはいえ、2年ぶりにまとまって加子母地域で制作活動を行い、木匠塾の復旧へと近づいた。2023年度も少し規模を大きくしつつ基本的には2022年度と同様に合宿を行った。各ターム1週間を計2ターム行い、その間に3つの制作物に取り組んだ。加子母の林業文化の資料館となっている内木家、木匠塾生の滞在場所としても活用している古民家の松屋、環境保全モデル林の福崎の森をそれぞれ敷地に、森林学習を通じて加子母地域と木について深く理解するためのきっかけをつくろうとした。しかし、ここでも大学間や加子母との交流を深めることでコロナの影響を再び強く受けることとなる。感染者が複数人発生し、クラスター発生防止のため工期途中ながら直ちに中止となった。夏季長期休暇も明け、大学の後期が開始してからの土日休みを利用して少しずつ作業を再開し、3つのプロジェクトの竣工は当初の予定から1ヶ月遅れてのこととなった。
ほとんどの塾生は3〜5年もすれば加子母での活動に関与しなくなる。これは木匠塾に限らず多くの学生団体でそうだろう。建築物や林業のタイムスパンと、学生生活のそれは一致しない。木匠塾は来年度、活動開始から30年を迎える。建築のタイムスパンに入り、老朽化により取り壊された制作物もある。過去を尊重し、制作物あるいは制作活動そのものに責任を持つために、学生の限りある数年を正しく継いでいくことが求められる。
水車プロジェクト
制作物:水車
敷地:松屋敷地内 池
材種:桧
期間:
設計 2021 年7,8月
加工(各大学) ~ 2022 年2月
本工期合宿 3月23 ~ 29 日
協力:脇坂紀朗、マルワイ製材所、加子母むらづくり協議会
コロナ禍で途絶えてしまった合宿、加工練習、他大学や加子母地域との関わりを取り戻す第一歩のプロジェクト。最大材長さ1940㎜が乗用車で運搬可能であること、各大学の加工した材に天地が生まれない(ヒエラルキーがない)こと、8本の柱からなる構造が8大学を象徴できること、複数の仕口加工の練習になること、など施工からコンセプトまでの一致により決定した。加子母で水車を設計施工されている脇坂紀朗さんに伺い、夏季に設計と材の運搬を、冬明けまでに各大学のペースで加工を、春期休暇に組み立てのための合宿を行った。
福崎の森プロジェクト
制作物:東屋
敷地:福崎の森
材種:桧
期間:
基本設計 2023 年5,6月(制作物コンペ 6月28 日)
実施設計 6, 7月
施工後期 8月24 日〜9月5日
施工後期 9月15 〜18 日、10 月6〜9日、13 〜15 日
協力:熊澤建築事務所、マルワイ製材所、加子母森林組合、加子母むらづくり協議会
「木育」をひとつのキーワードに、一度リセットされてしまった加子母地域との関係を再び構築する。県の環境保全モデル林として整備されてきた福崎の森に休憩所となる東屋を制作した。設計や施工の活動に加え、林業や製材の過程を学び、木についてより総合的に学習するフィールドとして活用されていく。東に広がる谷あいに向けて眺望が開け、ポリカーボネート波板の屋根が自然光を取り込む。