野老朝雄 |「 つくりかたのつくりかた」をつくる
――インスピレーションは何から得ているのですか?
インスピレーションに関しては、作りながらも得ているかもしれません。例えば、数年前から有田焼の制作に関わらせていただいているのですが、その時も実際に窯元に行って、「こういうことができるなら、こういうこともできますね」とやりとりをしながら作ってきています。あと、必ず作る途中でスタックするのですが、それもインスピレーションにつながっていると思います。例えば、恥ずかしい名前かもしれませんが[野老折鶴]という名前をつけた作品があります。
これも実は伝統的な折り鶴を折ろうとした際に、間違えからできたものです。ちょうど9.11から20年の9月11日にロンドンで折り紙のワークショップをするかもしれないということになったときに、一応学ぼうと思ったら、一発目から間違えました。でもミスをしている時に、インスピレーションというか、何かができてきて、「あれ、これ美しいぞ」と。伝統的な折り鶴には優美さがもちろんあります。でもクラシックの折り鶴では膨らませた背中(?)は、一回閉じるとダメージを受けてしまいます。ところが[野老折り鶴]は何回閉じても形を保つことができます。なんだこれは、という気持ちでした。本当に単純なことなんですけどね。面白いですよ。それですぐに舘さんに連絡して、「これ名前ついてるかな」と話をしました。僕が初めてとは絶対に思ったことはないです。もう世の中にものすごい人がいるわけですから。それで、調べてみたら名前はないけれど、強いて言えば「間違い折り」かもしれません、と。子供の時に間違えてそれを折ったかもしれない、みたいな。もし保育園の先生だとしたら、野老くん間違えていますよって言いますよね。これだけ確固たる伝統的/クラシックの折り方があるのですから。その他にもミスから生まれたものとして、[CZECH HEDGEHOG STUDIES 2022]という作品があります。
きっかけとしては、もともと立方体のものを斜めに立たせたいという台座制作願望があり、たまたまチェコのハリネズミというものから発想を得ました。まさかこういうものを2022年2月のウクライナに見るとはと驚き、ショックを受けました。あれは戦車を足止めするためのものなのですが、これを子供の時はジオラマみたいに遊んだりするわけですよね。そのような文脈を持つ構造を、平和的に解釈したいと思いました。この作品は、それぞれ右回りと左回りでミラーリングになっています。そして両方が混ざったものもあります。あなたの右手と右手が握手できないように当たり前の話なのですが、ずっと引っかかっていて、偶然左回りの存在を知りました。当時四方謙一さんという以前僕の助手をしてくれていた方に、「ちょっと悪いけど、バイトに来てくれないか」とお願いをして、右回りの模型を4つぐらい作ってもらいました。とても綺麗に作ってくれたのですが、「すみません、間違えちゃいました。」と言われたので、どう間違えたのか聞いてみたらこの左回りになっていたわけです。2人して「どういうことだ?」と驚きました。それまでにも何個も作ってたはずなのに、たまたま今回だけそうなったんです。僕は右利きで、彼は左利きだからかな?とも考えました。もちろん、これは作家として、こういうものができるだろうなというのはわかるのですが、偶然のミスが作品になったというわけです。そうこうしているうちに、今度は表から見ると右回り、裏から見ると左回りというパーツが出来ました。組み合わせてジェンガみたいな遊び方もできるなとも思ったのですが、右回りと左回りをメスオスだとすると、その間のパーツがあることで、こういう立方体じみたものを置けば、なんであれ斜めに立たせることができるというわけです。
偶然の発見でいうと、この [GRADUAL STEPS( 段階的階段)]という作品もそうです。これは4mm の板を少しずつずらしながら階段のようなものを作ったのですが、試しに作った後で立ててみると、アーチのようなものになります。
「そうか、僕はアーチを作っていたのか。」と最後にわかりました。これはもうさすがにミラーリングがあると学んだので逆回りも作ってみました。これは4mmのmdfを使っている、つまりは4mmの段階的縛りの中で作っているんですよね。3Dプリンターで作ることもできそうですが。これがアーチになるというのが偶然の出会い/発見なんでしょう。そういえば、こういう機会でしか「どういう過程でこれを作ることになったのだろう」というのを、振り返ることはないですね。今、すごく久々に口に出すと、バカじゃないのと思うことが結構ありますね。普段から、私はこうやってやるんですと決めているわけでは全くないので、気がついたらという感じです。それで、毎回びっくりします。