【学び、創造する製図室】製図室調査①京都大学|個が響き合う場

製図室調査Column 形のない場-オンライン製図室-

インタビュイー:宮田さん(京都大学四回生/2020 年度入学)

聞き手:下地杏花、杉本春佳

2023.10.24 京都大学桂キャンパスにて

2020 年度、新型コロナウイルスの感染拡大により通学が出来なかった当時、学部一回生はオンライン製図室を作成し、巧みに利用していた。コロナ禍で学部一回生を過ごし、オンライン製図室を主催していた宮田さん(取材当時四回生)にインタビューを行った。


――オンライン製図室とはどのようなものでしょうか?

同学年の人がいつでも入れるオンラインのミーティングスペースのことです。僕たちは主にZoomを使っていました。学年のLINE グループにZoom のミーティングURLを貼って、オンライン製図室の場を用意しました。

――コロナ禍でどのようにして同学年が繋がり、LINE グループを作成したのでしょうか。

最初の頃はTwitter(現X)で繋がって仲良くなりました。その繋がりからLINE グループを立ち上げることができました。

――実際オンライン製図室はどのように使われていましたか?

授業課題の答えが分からない場合に入ってきて誰かに聞く、もしくは、ドローイング課題を一緒にやるという使い方をしていました。基本的に24 時間空いていて、少ない時は2人、多い時は20人いました。あとは、学祭にあたって建築学科のパーカーを作った際、製作の話し合いにも利用しました。私たちはこの頃、オンライン製図室のことを製図室と呼んでいました。本当の製図室ではないのに「製図室にいる」と言ってましたね。

――オンラインという仮想のものではなく、製図室そのものという意識だったんですね。

そうですね。正式な名前はオンライン製図室ですが、みんなが呼んでるのは製図室。高校や他学科と違って、まず製図室というものがあることが嬉しかったですね。結構みんな積極的に入っていて、専門以外のの課題をやるときも集まっていました。授業直前までいて、授業のタイミングで一斉に抜けて、授業のZoomに入って、終わってまた一斉に帰ってくる、みたいな感じでした。

――すごい。オンライン製図室が本当に「みんなが集まる場所」だったわけですね。ところで、オンライン交流会というものも行っていたそうですが、どのような内容だったのでしょうか。

オンライン交流会では、Zoomで学年中の人が集まって懇親会のようなことをしていました。ブレイクアウトルームに分かれて、15分間、お題決めて話したりとか。Zoomの仕様上40分の制限があったので、当日にリンクを3つぐらい作成して、その部屋をみんなが回るという感じでしたね。そのような交流会を大学が始まって間もない4月13日、4月22日に二度にわたって行い、その後も定期的に行いました。

オンライン製図室の案内のスクリーンショットと交流会の実施概要 提供:宮田大樹 

―― なるほど。新入生歓迎会のようですね。次は設計課題についてより詳しく伺います。ドローイングや模型製作を各自家で行っていたと思うのですが、オンラインでも上手く取り組めたのでしょうか?

かなり盛り上がりを見せながら取り組むことができたと思います。特に、ドローイングは大きく盛り上がりました。課題も例年と違って毎週一枚のペースで好きなものの図面を書いてこい、というものでした。平面図、立面図、断面図、パースを大半の学生がきちんと描いて毎週出してましたね。

――すごいですね。初めての課題ということで、周りに相談しながら進めないと制作に苦労したと私自身も記憶しています。オンライン製図室に入っていなかった学生は制作に苦労していたのではないでしょうか?

私もそのように思います。オンライン製図室に入らないと分からないみたいな。入っている人と入っていない人との間でのクオリティの差は出ていたと思います。逆に、オンライン製図室に入っていないのに高い質の成果物を出した人は、「一体何者なんだろう?」と話題になっていましたね。

当時自宅で取り組んだのドローイング課題の作品 提供:宮田大樹

――全く入らない人もいた、ということですか?

もちろん入らない人もいました。当時、私が対面で会っていた人たちの中には、オンライン製図室に入っていない人も多かったです。京都で下宿してる人たちは、誰かの家に集まっていたりするので、必ずしも必要がなかったのでしょう。逆に、京都に来れずに実家の方にいた人たちが結構Zoomに入っていましたね。ちょっと今じゃ考えられないかもしれないですが、カメラはほとんどみんなオンでしたね。最近のことを考えると珍しいかもしれないです。

――二回生以降、リアルの製図室での変化はありましたか?

オンラインの時は、今考えると結構異なる属性の人が集まっていたと思います。リアルの場になると、設計演習に熱心に取り組む人たちばかりになりますね。もちろん、一回生から二回生になったという影響もあったのかなと思いますけど。オンライン製図室に比べて製図室に来る人は減りました。授業もだんだんフェードアウトしていく人が多かった気がします。

――宮田さんの学年は二回生になってから共用でプリンターを購入したり、かなり製図室での活動が盛んで、製図室に対しての愛着がある印象があります。

製図室が大学での繋がりの象徴になっていたという気がします。コロナ禍によってみんなサークルに入っていなくて、最初に繋がりができたのが建築学科。だから他にコミュニティがない人も多いです。サークルや部活に入ってる割合は大凡半分ぐらいだと思います。これは他の学科や学年と比べて恐らく少ないですよね。だから製図室に集まることがサークルに入っていること、みたいな気持ちだったんだと思います。ちなみにプリンターは全員で500円ずつ出して買ってるんですよ。

――なるほど。一方で、ここまでは同学年の話でしたが、先輩 とのつながりはどうだったのでしょうか。

そうですね、今までだと入学式の日に先輩と一回生が親睦を深める会ががあったと思いますが、私たちの代はありませんでした。先輩との繋がりができたのは、一回生の夏ぐらいです。先輩が建築新人戦に向けて、お手伝いの後輩を探し始めて、そこから先輩との繋がりができ始めた感じがします。

――そこでリアルの製図室の話や先輩の手伝いをする話を知っ た、ということでしょうか?

そうですね。その頃お手伝いに行っていたちょっとやばい先輩たちに「建築学科は先輩の手伝いをするものだ」と洗脳された感じはあります(笑)。でもそうやって声を掛けに来た先輩たちはものすごく熱心でしたね。

――最後に、オンライン製図室とリアルの製図室の両方を経験 してみて感じた、それぞれの特徴について教えてください。

オンライン製図室は誰でも気軽に入れる特徴が、リアルの製図室にはオンライン製図室よりも強い仲間意識が生まれやすい特徴があったと感じました。オンライン製図室の頃には、設計課題に熱心に取り組む人だけでなく、程々に取り組む人もよく参加していました。二回生になってリアルの製図室で過ごすようになると、熱心に取り組む人たちが自然と製図室に残り、より熱量を高めあうようになりました。その結果、製図室に頻繁に訪れる人たちでコミュニティが出来ました。私たちの学年は、四回生になった今も設計課題や卒業設計に取り組む人が比較的多いのですが、メンバーを見ると、二回生製図室でのコミュニティがそのまま持ち上がった形に近いと感じます。リアルの製図室に移り変わった時に形成された、強固な仲間意識が大きく影響したのだと思います。

――確かに、形成されたコミュニティがそのまま持ちあがる、 というのはあるかもしれませんね。もっと伺いたいところですが、今回は以上になります。どうもありがとうございました。

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