【牧研究室】traverse24 Project
巨大災害後の人口シミュレーション研究
曽我部 哲人
はじめに
2004年新潟県中越地震や2011年東日本大震災では、被災前から人口減少傾向のあった地域が大きな被害を受けた。それらの災害の被災地域を復興するにあたっては、数年単位の期間をかけて復興事業を行う際、被災前の人口を基準とした計画では事業後に実際に被災地域に帰ってくる人口との間にギャップが生じてしまうリスクが生じた。今後、日本を襲うと想定される南海トラフ地震では、太平洋沿岸の人口減少地域が広く被災することが想定され、そうした地域の復興事業を行うにあたっては、被災前からの人口減少トレンドを考慮した復興計画が求められると言える。
そうした背景のもと、本研究では被災後の人口トレンドが被災前の地域の人口トレンドと関係性が強い点に着目し、過去の災害事例における各地域被災前後の人口トレンドの変化を用いて、南海トラフ被災想定地域における被災後の人口シミュレーションを試みた。
地域特性の抽出と人口トレンドの違い
人口シミュレーションを行うにあたり、本研究では、最初に地域居住者特性と都市圏規模という2つの軸での地域特性の抽出とそれらの地域特性における人口トレンドの違いを確認した。地域居住者特性の抽出を行うにあたっては、5年に一度全国的に行われる国勢調査の結果をもとに、地理学分野で用いられる因子生態分析の手法を参考に全国1kmメッシュ単位の地域の類型を行った。その結果、「都市地域」、「半農半都市地域」、「高齢化地域」、「第一次産業地域」の4種類の地域居住者特性の類型が得られ(図1)、都市圏規模と合わせて見ることでそれらの地域特性の間での人口トレンドの違いが確認された1)。
地域特性の違いによる被災後の人口動態の違いとそれを用いた南海トラフ被災想定地域での人口シミュレーション
1995年阪神・淡路大震災、2004年新潟県中越地震前後の人口変化の定量分析により、地域特性によって平常時だけでなく被災後においても人口トレンドの違いがあり、都市地域では被災後人口増加するケースもみられるのに対し、それ以外の地域においては元の水準にまでの人口回復が難しいことが示された2),3)。
そうした結果に基づき、南海トラフ地震での被害が想定される和歌山県を対象に、現在の人口と地域特性、想定される物理的な被害を用いて2020年までに南海トラフ地震が発生した場合の将来人口シミュレーションを行った。その結果、県全体として進んでいる人口減少が震災によって10年進められるという結果が得られた(図2)。この結果は県全体だが、高齢化地域に限れば2025年時点で被害がなかった場合の人口推計の半分程度まで人口減少があるというシミュレーション結果も出ており、特に沿岸部の過疎地域においては、長期的な人口への影響も含めた復興を考えることが求められる結果となった。
参考文献
1)曽我部哲人, 牧紀男. 人口変動要因の影響評価に向けた標準的人口トレンドの抽出―都市規模と地域居住者特性に着目して―, 日本建築学会計画系論文集, 784, pp. 1851-1862, 2021.
2)Tetsuto Sogabe, Norio Maki. Do disasters provide an opportunity for regional development and change the general demographics?: Case study on the 1995 Kobe earthquake, International Journal of Disaster Risk Reduction, Volume 67, Article number 102648, 2022.
3)曽我部哲人, 牧紀男, 澤田雅浩. 地震災害が地域人口に与える長期的影響の研究―2004 年新潟県中越地震を対象として―, 地域安全学会論文集, No.40, pp. 29-38, 2022.