【学び、創造する製図室】まとめ|他大学および京大OB への調査を終えて
他大学及び京大OB への調査を踏まえた上で京大の製図室の特徴を捉え直すこと、並びに建築学生にとっての製図室について改めて考えることを目的として、本誌編集委員で話し合いを行った。
1. 他大学との比較
・京大と異なる点
運営方式
立命館大学では、ストックリーダーと呼ばれる役割があり、ストックルーム(製図室)の鍵を握っている。誰でもストックリーダーになれるが(※将来変更の可能性あり)、清掃担当や管理担当を担う必要がある。製図室の管理を自分達で行うべきである、という意図が感じられる運営方式となっている。
製図室の施設計画
立命館大学の製図室は、一回生から三回生が使う開放型自習室のようなものであり、自分の席がない。京都工芸繊維大学の製図室は意匠系のみならず、歴史・環境・構造系の学生も一部屋に集まって作業を行う。双方とも京大とは異なり、ブース・壁などの仕切りが無く、大学によって製図室の施設計画は異なっていることが分かる。
周辺環境
京都工芸繊維大学の近くには高野川、千葉大学の近くには学生街があるのに対し、立命館大学の周囲には目立ったものがなく、大学により周辺環境も異なる。京都工芸繊維大学や千葉大学、京都大学では多くの学生が大学の近辺で下宿をしている一方で、立命館大学はその周辺環境からか下宿をしている学生が少ない。結果として、製図室で過ごす時間帯が電車の時間に左右され、他大学に比べて深夜での作業が少ない傾向にある。
先輩との交流
京大には、毎年メンバーが持ち上がり卒業設計の手伝いをする縦割りチーム、「系列」が存在する。一方で、他大学には存在せず、卒業設計を行う本人がメンバーを集めて即席のチームを作る必要がある。ただし、京大の系列では、後輩の設計課題に対して先輩がアドバイスことは稀で、設計演習の学生TA が週に一度エスキスを行う「TA チェック」が慣習化されている。千葉大学では一回生から三回生まで同じ部屋で作業をしているため、通りがかった先輩がエスキスを行うことが多い。
・京大との共通点
ルールへの働きかけと生活リズム
京都工芸繊維大学でのスプレーブースを利用時間の制限、立命館大学でのストックルームの使用規定など、大学から製図室の使用ルールを定められている例が多く見られる中、学生側で自分達の生活リズムや作業状況に適応できるような方法を模索し、使用方法を確立している。その結果、製図室での生活リズムや作業時間は京大と共通する部分も多い。
編集委員のコメント
千葉 京大のお手伝いシステム「系列」って独特だよね。
杉本 「系列」の有難さを改めて感じた。手伝ってくれる後輩がいないと、作りたいものがあったとしても、作れない可能性もある。卒業設計というものに、自分の能力だけじゃなくて人脈も入ってくるのが、面白いけれど大変そうだなって。
神田 でも、系列の先輩がエスキスしてくれるとか何か教えてくれることは少ないよね。千葉大は1つの空間があって、そこに一回生から三回生までいたら自然と受け継がれるものがある一方で、京大には系列という制度はあるけれど空間はない。そういったものが京大にもあれば、もっと良くなると思った。
下地 空間について、京大は自分の席があるけれど、立命館は自分の席があるわけじゃないから、物を基本持ち込めない。自分たちの空間をつくることには繋がりにくいんじゃないかな。
長谷川 全学年共通の部屋だから、「この日は次の日が2回生のエスキスだから、今日は3回生はちょっと遠慮しよう」みたいな譲り合いが起こるらしくて。だから、私物で占有空間を作って、士気を上げていくことはできないんだろうな思った。
千葉 推測だけど、それだけいろいろな学年の人が使う場所だからこそ、そもそも自分の場所はなんとなくこの辺だなっていう気持ちすら芽生えにくい状態になっている感じなのかな。
上田 空間について思ったのが、京大の製図室ではあらかじめブースのサイズが規定されている。でも他の大学にはそういった仕切りはない。だから、空間を作る可能性というか、個人の空間としての可動域は他大の方が広いんじゃないかな。
千葉 逆に区画が決まってるが故に、その区画の中の自由があると思った。区画が曖昧だからこそ、自分の居場所感をあまり感じないイメージを受けて。他の大学では物を机の上に置くという選択しかない一方で、京大の製図室では仕切りの上に載せたり壁に紙を貼りつけたりする選択肢があるからこそ、区画に個性が出ているのだと思う。
下地 あとは、工繊の製図室には、意匠系以外の人たちにも同じように席があるというのが良いなと思った。
伊豆藏 逆に私は環境系だけど、その状況を想像してみたときに、それが嬉しいかって言われたら微妙かも。
千葉 確かに、「製図室に多様な人がいる良さ」に関しては、設計をやってる側や外部から俯瞰した時に見えるものと、実際に使い手である人たちから見たものは別の話で、同じものとして議論してはいけないかもしれないね。よく「多様性のある場所が良い」と言われるけど、もしかしたらある側面から見たら必ずしも良いと言い切れない部分もあって、それは議論の余地があると思う。