【原田研究室】日常と非日常の境界

高強度コンクリートは火災に弱い

教授 原田 和典

はじめに

コンクリートを調合する際に、AE減水剤などを使って練混ぜ水を減らすと組織が密実になり、高強度のものがつくれることはよく知られている1)。強度が高いと、柱や梁といった構造体の寸法が小さくなりスレンダーな建物を建てることができる。しかも、組織が密実なので、中性化に対する抵抗力が大きく、耐久性も高い。良いことばかりのように聞こえる。
しかし、困ったことに、高強度コンクリートは火災に弱いのである。常温で強いものが高温に弱いということはよくある。コンクリートに限らず、鉄筋や鋼材も常温での強度を高めた高強度鉄筋や高強度鋼材では、高温になると強度が大きく低下して、通常の鋼材と変わらなくなるものが多々ある。常温強度を上昇させるための熱処理や機械的鍛造処理の効果が、火災の熱で抜けてしまうからである。構造材料の選定や開発においては、まずは日常での使用性、地震時の耐震性などが考慮されるが、火災時の耐火性については、忘れられがちである。そのため、折角開発してきた構造材料であっても、耐火性に問題があって実用が制限されるものも少なくない。材料開発においても、日常と非日常を連続して考える事が求められる。

高強度コンクリートの爆裂

コンクリート強度が高くなるほど爆裂が起こり易くなることは、多くの研究者により調べられている。例えば、図1に示す実験結果は、強度の異なるコンクリートシリンダーを作成し、これをISO834の標準加熱曲線により30分間加熱して爆裂の程度を調べたものである2)。水セメント比が小さく圧縮強度が高いほど爆裂が顕著に発生している。柱、梁等の実寸法の部材においても、コンクリート強度が高くなるほど爆裂が激しくなる事が知られており3)、建築の実務においては、ポリプロピレン短繊維等を混入して、爆裂を抑制している4)。

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23.8MPa(水セメント比60)


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58.9MPa(水セメント比35)

 

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89.2MPa(水セメント比25)


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85.4MPa(水セメント比15)

図1 コンクリート強度による爆裂性状の違い

爆裂のメカニズム

では何故、高強度コンクリートは爆裂するのであろうか。そのメカニズムは、コンクリートの高強度化の歴史と合わせて古くから考察されてきたが、定説は定まっていない。コンクリート中の粗骨材の種類によっては、骨材そのものが加熱により爆裂し、これがコンクリートの爆裂を引き起こすとする骨材説や、コンクリート中の水分が加熱により蒸発し、そのときの蒸気圧がコンクリートの表層部を吹き飛ばすとする水蒸気圧説、表層部と中央部の温度差により表層部が膨張し、内部が膨張を拘束するために生じる熱応力説などが並立している。
筆者らは、このうち水蒸気圧と熱応力の合力により爆裂が生じるものとして図2のようなモデルを考え、数値解析による解明を試みているが、明確な結論にはまだ至っていない5)。

高強度コンクリート修正版.png

図2 高強度コンクリートの爆裂メカニズムに関する仮説

【参考文献】

1)    日本建築学会編、高強度コンクリート施工指針・同解説、2013
2)    李在永,高強度コンクリートの火災時の爆裂現象における空隙圧力と熱応力に関する実験的研究,京都大学工学研究科博士論文,2016/3
        https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/215525
3)    森田武、耐火性に優れた超高強度コンクリート「AFRコンクリート」,建築コスト研究,42,pp.48-52,(財)建築コスト管理システム研究所,2003
4)    森田 武、西田 朗、刑部 章、河内 二郎、耐火性に優れた超高強度コンクリートの仕様と施工,コンクリート工学 Vol.39, No.11,日本コンクリート工学協会,2001年11月
5)    Keisuke Terada, Jaeyoung Lee, Masahiro Yamazaki and Kazunori Harada, Numerical Analyses of Pore Pressure Rise and Thermal Stress in Concrete Cylinders of Various Strengths during Fire exposure, Fire Safety 2017, pp. 21-37, Santander, Oct., 2017

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