【原田研究室】日常と非日常の境界
ダブルスキン建築における煙拡散性状
助教 仁井 大策
はじめに
近年、SDGsをはじめとして世界的に地球環境への意識が高まっている。そのような潮流は建築の分野においてもみられており、建物の環境負荷低減や室内空気質の向上を図ると共に、省エネルギーを実現するために、自然換気をはじめとしたパッシブ技術を積極的に取り入れたエコ建物が増加している(図1)。
自然換気は、風力や温度差を駆動力として、外気を取り込み、室内の汚れた空気を排出するものであるが、空気の通り道は火災時には当然ながら煙の通り道となる。特に、温度差換気では、複数階を接続するダブルスキンやエコボイド等の縦長の空間を空気の通り道として利用するため¹、ここに煙が入ると上層階への煙拡散を助長する恐れもある。その一方で、うまく制御すれば排煙塔として効率よく煙を排出できる可能性もある。そのため、自然換気システムの一つであるダブルスキンファサードを対象として、火災時にどのような煙流動性状になるのかを予め検討しておくことが重要である。
模型実験
実験室内にて、5層のダブルスキン建築を模擬した実験模型を作成し、熱気流性状を測定した。図2は実験模型の写真であり、最下層に電気ヒーターを設置して煙の流れを再現した。煙の温度や開口部寸法、ダブルスキン頂部の形状等を実験条件として、ダブルスキン内の温度や流速分布、上層階への煙流入性状を測定した。
図2では模型写真の他に、PIV(Particle Image Velocimetry)システムにより測定した流速分布を載せている。このシステムは、連続的に撮影した映像を処理することで断面全体の流速分布を計測するものであり、従来の風速計による測定よりも詳細な流速分布が得られ、これをもとにダブルスキン部の煙の流れ、特に居室部とダブルスキン部の間での煙の流出入性状の分析を進めた。
ダブルスキン部の温度予測
ダブルスキン部における煙の流れの駆動力も温度差なので、ダブルスキン部の温度予測手法を自然換気と同様に考えて提案している。
まず、ダブルスキン部を排煙塔として利用する場合、温度分布は流出した煙が対面するスキンに衝突する前後で異なることが実験から分かったので、それぞれの性状を熱収支及び質量収支からモデル化し、実験式を作成した(図3)²。
次に、ダブルスキン部と上層階居室が開口部で接続されている場合は、居室部への気体の流出入を考慮するため、換気回路網計算を行い温度分布と圧力分布を求めた。この際、ダブルスキン部の壁面での摩擦による圧力損失だけでなく、気流の合流/分岐部での圧力損失も考慮している。その結果は図4に示すとおりであり、単純な開口部条件ではあるが、実験値と非常に良い一致を示す結果を得た³。
図3 頂部開口のみから煙を排出する場合の温度分布
(図の縦軸は高さ,横軸は温度を無次元化したパラメータである)
図4 換気回路網計算による温度/圧力分布の予測
【参考文献】
1) (一社)日本建築学会,実務者のための自然換気設計ハンドブック,技報堂出版,2013
2) 宮本康平,南雄太,仁井大策,原田和典,ダブルスキン内煙流動性状の測定と簡易予測 -その3 中空層内温度分布簡易予測式の構築-,日本火災学会研究発表会概要集,pp.158-159,2021
3) 仁井大策,原田和典,ダブルスキン内煙流動性状の測定と簡易予測 -その4 上層階への煙流入量の予測-,日本建築学会近畿支部研究報告集,第62号,pp.165-168,2022