【平田研究室】「包むもの/取り巻くもの」を全て生かして
筆者はいくつかの公共建築に訪れたときに、平日にガランとしているキッズスペースや、休止期間中で利用されていない展示スペース、営業時間外で封鎖されている飲食スペースなどが目につくことがあった。施設は開いているのに人がいない様子を見るとなんだかもの寂しい印象を受けてしまうのだが、本プロジェクトにおいてはリサーチの段階でこの施設でおこりうる活動例を溢れるほどたくさん見つけることができたので、それらの活動をうまく組み合わせてアンカーを設計することができれば恒常的に多様な活動が起きている状態をこの公共施設に生み出すことができるのではないだろうか、と考えられた。
いざ100個の活動を12個のアンカーに配分していこうとする際、人為的な手法では手がかりを見いだせず困っていた。また、計画学的な合理性に基づいた設計者本意の設計になったのでは従来の建築像とかわらないため、我々平田研究室では、市民の意見から純粋に活動の様子を浮かび上がらせることができないかと「機械的な手順」によって適切なアンカーを生成させることに取り組んだ。
まず、抽出した100個の活動を「活動の状態で(ACTIVITY)」「どんな空間で(SPACE)」「何が必要か(ITEM)」という3つの観点からそれぞれ8つ評価軸を設定し、研究室の複数人で0−1評価を与えた。評価軸をそのままベクトル軸に変換することで活動サンプル同士の距離関係(=類似度合)を算出した。ACTIVITY、SPACE、ITEMという3つの観点から算出された距離を和算することで、これら複数の観点からの総合的な距離関係を評価することができ、収集した活動サンプルのうち総合的に類似するもの(同じハコの中で共存可能そうな活動)が近くに分布していくモデルを作ることができた。ここでは距離関係をばねの強さに読み替えたモデルをGrasshopper上のKangarooによる引力ばねモデルを用いて群れをつくるように移動していく様を可視化した(fig.04)。
星群のなかから星座を結ぶように、ちりばめられた活動サンプル群から特に類似性の高い活動群を見つけだしたのち、「活動の頻度」や「必要な面積」を考慮しながら虫食いゲーム的にアンカーを形成していった(fig.05)。コンペ要項では閉架書庫やスタジオ機能など一部で具体的な必要機能が指定されているものの、この施設にあってほしいその他の適切な文化・交流活動は設計者サイドから提案する必要があった。初めのワークショップ(WS1)の時点でも各アンカーの詳細は明確ではなかったが、WS1を経てつくり上げたこのアルゴリズムによって個性的なアンカーをつくりだし、施設で起こる活動をデザインすることができた。一つの漢字で表しうる個性的なアンカーが敷地の中に点在し恒常的にヒトや活動が入れ替わり交流が起きるている、まるで小さなまちのようなイメージがチームのなかで共有された。第2回ワークショップ(WS2)にむけて、各アンカーに割り振られた複数の活動をヒントに設計を行い、模型を製作した(fig.07)。
後日談になるが、このアルゴリズムを用いたアンカー内容の精査はWS2以降も継続して行われた。WS2で得た市民の意見や、設計が進んでいくなかで生まれた変更点・修正点を反映させた新しい活動サンプルに対してこのアルゴリズムを適用させても、「ある程度の正確さ」をもって活動サンプル群のまとまりをつくることができた。ある程度の正確さ、と表現したのは分布した活動サンプルの概ね8割ほどがアンカーを形成しうるまとまりをもっていて、残り2割の活動サンプルは相容れない性質のまとまりのちかくに分布してしまうというエラーが確認されたからである。いくつかの乱数を変えて解析をまわしても概ねこの「ある程度の正確さ」で分布が出来上がるので、2割のエラー部分は、解析後にマニュアルで移動させることで解決したり、はたまた考えてもなかった活動の組み合わせが発見されるポジティブな側面をもって受け入れることにした。(例えば、「映画上映」や「コンサート」といった〈演〉のまとまりの中にしばしば「卓球」が分布していた。不適切な組み合わせに思えたが、素直にデザインに反映させて〈演〉のアンカーは従来想定していた傾斜のかかったコンサートホールや映画館のようなデザインから、平場と段状席があるより多様な使い方ができる体育館のようなデザインへと修正された。)