【平田研究室】「包むもの/取り巻くもの」を全て生かして
平田研究室修士二年生 山口航平
従来、建築家は空間を取り巻く環境やアクティビティをあたまの中で想像しつつ建築や都市を形作ってきた。ところが昨今はCFD解析に代表されるような環境解析技術や3Dスキャンなどのセンシング技術の進展によって設計手法が拡張し、さらに一般社会ではデジタルテクノロジーの浸透によって人々の活動までもがビッグデータとして収集・運用がなされており人々のふるまいをもデータとして分析できる時代に突入した。これまで設計者が把握・処理できていた領域をコンピューターの演算能力によって押し広げて、建築の周りを取り巻いている環境や人々の想いを全て内包しながら建築を思考することが可能になれば、そうして出来た建築は多様化したこの時代における一つの理想形になりうるのではないだろうか。
以下では、平田研究室が現在取り組んでいる図書館複合施設の設計プロジェクトを紹介し、そこで行われた〈機械的なデータ分析〉と〈ワークショップ〉を横断する設計プロセスを概観したいと思う。
旧小千谷市総合病院跡地整備業務
この夏、平田晃久建築設計事務所、IDEC、Arupがコンペで獲得した新潟県の旧小千谷市総合病院跡地整備業務に京都大学平田研究室の学生有志メンバーも加わった。新潟県小千谷市の眺望豊かな段丘上の敷地に、市民活動の中心であり街のハブとなるような図書館を新たに設計するプロジェクトである。採択されたプロポ―ザル案では、可動式本棚による情報空間と連携した空間〈フロート〉と市民の文化活動・交流を展開する様々な性能・プロポーションをもったハコ〈アンカー〉と新潟の豪雪にも耐えうる大きな屋根〈ルーフ〉という3つの構成が示されており、これから市民ワークショップを経て実施設計へと移行するタイミングだった。この公共建築は建設されることが約束され、市民とのワークショップも開催されるがまだ設計検討の余地が大きく残っているという稀なケースである。そこで我々平田研究室は実務的な設計フローと並行した別の視点で「ワークショップで発露した市民の想いから純粋に設計案を浮かび上がらせることはできないだろうか」という思考のもと、設計スタディを進めることができた。そのために開発した新たな設計ツールや出来上がった設計案は、単なる代案や補助的なものでは決してなく、それ自体が設計の思考を拡張するような役割を事務所と研究室との協働のなかで担っていた。
STUDY01 アンカー析出 ー人のふるまいをデータとして扱うー
平田研究室でははじめに、市民が集まって地域交流・文化活動を行えるような設備を備えたハコ〈アンカー〉の設計を進めることにした。旧病院で行われていた課外活動や、この地域で起こっていた市民活動の記録、WS1で市民に尋ねた「この施設でやりたいこと」への回答をもとに、新たにこの施設で起こりうる100個の活動サンプルを抽出した(fig.02)。建築面積のうちアンカーに割かれる面積はおおよそ1200㎡であったことから、これらすべての活動に対して逐一スペースを設けることはせず、複数の機能・活動を共存(または時間的にすみ分けた)させた12個のアンカーを計画することにした。