まちの中の巣|THEATRE E9 KYOTO 支配人・蔭山陽太まちの中の巣|
コミュニティを横断する
ーー劇場が長く続いていくためには関係性の構築が重要になってくるということでした。「E9」建設後、地域に対してはどのような取り組みや交流をされていますか。
京都市が出している「京都駅東南部エリア活性化方針」は文化芸術でまちづくりをしていくというものなのですが、それに基づいた「機運醸成事業」を私たちが受託し、昨年度は地域にある広い市有地の空き地に野外舞台と飲食の屋台村を設置し、野外劇や地域の皆さんが出演する新作狂言を上演したり、大道芸を呼び込んだりしました。これには地元の皆さんや中小企業家同友会南支部の経営者の皆さん、京都信用金庫の職員や京都精華大学の学生たちにボランティアとして協力していただき、東九条ではかつて無かった規模のイベントを成功させることが出来ました。また、一昨年からは地域の子どもたちが夏休みに自分たちの手で映画を創るプロジェクトを実施して、昨年はTHEATRE E9 KYOTOでその上映会をアカデミー賞の授賞式のような演出で開催しました。実は今年度は先の機運醸成事業で地域の小学校を利用して映画祭をしようと計画していたのですが、コロナ禍により内容を大幅に変更して、東九条で製作される3本の映像作品を京都みなみ会館とTHEATRE E9 KYOTOで上映する予定です。
ーー劇場の上、2階にあるコワーキングスペースはどのような役割を果たしていますか。
「E9」で面白いのは、ビジネスとアートが同居しているところです。コワーキングスペースの会員さんは地元に限らず関西圏からバリバリのビジネスパーソン達が集まっていて、彼らは常に劇場のホワイエを通って行きますし、もちろん劇場の会員になる人もいます。ビジネスとアートはこの国の社会の中ではとても距離があるものになっているのですが、ここでは物理的にも関係的にもとても近くなっています。昨年はコワーキングスペースの会員の皆さんが出演する演劇公演を芸術監督あごうさんが演出してTHEATRE E9 KYOTOで上演したのですが、これがはじめに想像していた以上に作品としてのクオリティーが高く、観客の評判がとても良かったんです。そして何より、お互いにとても刺激的な新しい発見があり、このプロジェクトもこれから続けていくつもりです。
このことに限らず、日常的に劇場がアートとビジネスに関する実験場のようになっていて、今後の展開がますます楽しみになっています。
ーービジネスやアート、地域や社会という様々な異なる枠組みを横断する上で、心掛けていることをお聞かせください。
劇場はお客さんに来てもらう場所ですが、積極的に外に出てこちらからコンタクトをとっていかなければいけないと思います。特にこれからアートマネージメントの仕事をやっていこうという人はできるだけ仕事場や劇場にいる時間を減らして、まちに出ていくことをオススメします。お昼ご飯も外で食べるくらいの方がいい。
劇場は開演時間に間に合って、終演後に家に帰れる範囲の人しか来られないので、自ずと劇場を中心とした観客になる可能性のある人口の分母が決まります。東京首都圏は世界的にもあまりに巨大なマーケットをもつ特殊なエリアですが、世界の都市との共通性をもつのはその規模や人口から見ると京都のような地方都市です。まずは顔が見える距離の範囲をマーケットとして意識することが、劇場が地域社会と持続可能性をもって共生していく原点になるのではないかと思います。
地域の未来
ーー東九条という地域へのこれからの展望はありますか。
地域で生活を続けていくための課題を見つけて、分野を超えて皆で解決していくことが大切だと思います。東九条だと、一つは食の問題があります。高齢化して、食べ物を買える場所が近くに無いのはすごく大変なんです。Uber Eatsみたいに家に呼ぶような解決方法もあるかもしれませんが、買い物に出かけてたくさんの商品が並ぶ中から選ぶ楽しさは、心の豊かさに繋がると思っています。またドラッグストアが無いのも問題です。日本では老々介護が増えていますが、ここでは介護用品が簡単に買えないんです。あとは、地価の問題があります。今やこの地域は2023年に予定されている京都市立芸術大学の移転、「E9」の設立などによる注目もあって市内での地価上昇率が最も高くなっています。そもそも京都駅から徒歩圏内である一等地でもあり、商業エリアとして野放しに開発が進んでしまうと文化芸術による地域活性化は実現できないでしょう。そうした危機感は地元住民も私たちも共有しており、それだけに役所や成り行きに任せるのではなく、自分たちの将来そのものの課題としてこれからさらに積極的に働きかけていかなければなりません。そのために今、いくつかのプロジェクトを進める準備をしているところです。
コロナ禍によってこれから世の中が「どう変わるか」という話題は溢れていますが、そうしたフェーズに留まっている限り、このピンチをプラスの可能性にすることはできないと思います。これは先の大震災後の教訓です。「どう変わるか」から「どう変えるか」への転換が社会的に拡がらなければ良い方向には向かわないということです。
何かが変わるのを待つのではなく、コロナ禍によって明確になってきた課題に向き合い、その解決のために具体的な行動を起こすことが求められています。
THEATRE E9 KYOTOの課題は「劇場の存続」ですが、このことと地域の未来は不可分一体のものだと考えています。
⼩劇場を支え続けるため
ーー京都で消えつつあった小劇場の文化が、「E9」の登場で改めて確かなものになってきていると思います。今後京都において、さらに小劇場のコミュニティや文化を展開していくためのビジョンを最後にお聞かせください。
以前から劇場などの芸術創造発信拠点をパブリックスペースとして公的支援に頼らずに社会全体で支え、共生していくための社会的システムの構築について考えていました。
コロナ禍が発生して以降、公的支援がほとんど受けられない多くの民間劇場やライブハウス、ミニシアターなどがクラウドファンディングなどのツールを使って存続のための資金を集めることに成功しています。国や行政にとって民間劇場の存続は限りなく優先順位は下の方であっても、生活や人生にとって「必要なもの」「大切なものである」と多くの市民が認識し、税金とは別に自らお金を支払うことでパブリックスペースをこの危機から一時的ではあれ、守ったということです。
このことはこれまでにない社会的システムの構築実現の道が拓けてきたことを示す実例になっていると思います。
こうしたことを受け、今、京都で舞台芸術や音楽、現代美術などの現代芸術に関わる民間拠点と地元金融機関が一つのテーブルに着いて具体化するプロジェクトに取り組み始めています。これは過去、前例の無い初めてのチャレンジであり、大きな社会的実験でもあります。
それだけに容易なことではありませんが、行政的な複雑な手続きは無く、民間であることのフットワークを生かすことが出来るという点は有利に働きます。
THEATRE E9 KYOTOをつくるプロジェクトもそうでしたが、これまでの常識的な感覚では不可能と思えたことも、「確信と覚悟」があれば何事にも可能性はあります。
同じ志をもつ人たちと共に、知恵と行動力を発揮して新しい一歩を踏み出したいと思っています。
インタビュー風景。THEATRE E9 KYOTO 楽屋にて(撮影のため一時マスクを外しています)
蔭山陽太 Yota KAGEYAMA
Yota KAGEYAMA, born in 1964, is the theater manager of “THEATRE E9 KYOTO” and the director of “ARTS SEED KYOTO”. He studied at Osaka City University before he started working at “Haiyuza theater” in 1990. In 1996, he moved to “BUNGAKUZA Theatre Company” and worked as the director of the theater creation department until 2006. With the experience he gained during his career, he was involved in the start-up of many theaters as a manager, such as, “Matsumoto Performing Arts Centre” (2006~2010), “KAAT KANAGAWA ARTS THEATRE” (2010~2013), “ROHM Theatre Kyoto” (2013~2018), and “THEATRE E9 KYOTO” (2019~). He is also the producer of “Warehouse TERRADA” in the Kyoto area, and a lecturer at Kyoto Seika University.