建築家・木村吉成+松本尚子|受容される「欠落」−多義性を包容する大らかな構え

― 設計後のストーリー

― 意味としても、行為としても、使う人に余白を与える作品が多いですが、ある程度建築家側の想定や判断があり、それがちりばめられている思います。それぞれの人生において多種多様な住経験があるなかで、良い意味で設計者の期待を大きく裏切った建築の使い方をお施主さんがされていたり、住みこなしに驚かされたことはありますか。

木村 ― house S/ shopB (ba hutte)では窓の上の梁のところに文庫本が置かれているのを見て驚きました。

松本 ― あれは私たちも想定していなかった使い方でした。ちょうど、ぴったり文庫本が収まっていました。あの横梁は、構造に効いているというよりかは、アルミサッシの受け材なので、本が置かれることによって構造部材ではないように見えました。使い方としてもよく理解していらっしゃるという感じの使い方でしたね。ぴったりなサイズ感をクライアント自身が発見したりしますね。

IMG_0553.jpg

house S/ shop B(ba hutte)内観

IMG_0570.jpg

house S/ shop B(ba hutte)の梁部分は 施主によって本棚として使われている。

木村 ― 舞鶴で設計したHouse Mという作品でも、建ってからしばらくして伺ったときに、横側の半屋外のがらんとした空間にコーヒーメーカーが置いてあり、もともとキッチンに置いていたはずなのにいつの間に出てきていたことに気づき、僕は面白いと感じました。なぜここに置かれているのかと聞くと、お施主さんは外に出てからコーヒーを淹れて飲むようです。そこでコーヒーを飲むという行為まではあり得るなと思っていましたし、洗濯物を干したりするのだろうなと想定していたのですが、コーヒーを淹れる行為ごとそこに持ってくることについては少しびっくりしました。

松本 ― House A/Shop B(ボルツハードウェアストア)は手前が金物屋さんですが、お店の物量があそこまで増えていくとは思っていませんでした。使い方はそのままでも、量が当初に比べてすごく増えています。前のお店の物量も多かったですが、さらに増えているなかで、建築が絶妙なバランスを保ちながらまだ耐えています。クライアントさんのレイアウトももちろんですが、下の方が埋まっていても、上が空いていたらまだ余力があるなと感じさせられますし、行く度にそこに圧倒されます。

木村 ― オープン当時の写真と最近の写真とを見比べたら、大きく違っていて、今は洞窟のようになっています。あの雰囲気を見て、もともと北大路にあったかつてのボルツハードウェアストアを思い起こしました。当時はすごく小さく、ものに囲まれていて、洞窟のような空間でした。その当時の様子を知っている人は、現在の新しい店に来ても同じ場所だと感じてくださっているようです。それは建

築はではなくて、施主達が作っている空間のクオリティのおかげであると思います。

 — 大学の授業で、人は今までの住経験からその人独自の「住居観」がつくられていると教わりました。その住居観の違いにより生じる裏切った使われ方が、これらの話につながると感じました。

木村 ― なるほど、住居観。面白いですね。

松本 ― クライアントさんと打ち合わせをしていて、何か通じないところがあるなと思えば、結局住居観の違いによるものだったりします。人によってすごく違いますよね。お互いをよく知るということは非常に大事であるといいますけれども、心地良さなどといったものはその人の住居観を知らないと想像できないので、体感できるようにしたり、一緒に見に行ったりして感覚を共有するようにしています。

 — 住居観が違っていても共有できる概念などはあると思われますか。

木村 ― 基本的にうちの事務所に設計を依頼してくださる方々は僕たちが最適だと思ったことに共感してくれていると思います。僕たちは専用住宅も設計していますが、住居兼店舗の方が数多く手がけているので、僕たちが設計した建築空間を体験してから来たという人も多いです。例えばHouse A / Shop Bを見て、自由を感じたのでお願いに来たという人もいました。結局僕らが、環境的にも精神的にも快適で、自由になれる建築空間を作り、それがクライアントだけではなくその向こうにいる見ず知らずの人にまで届いたというときに、僕たちはその人達と共有の状態に至ったということなのではないかと思います。

001.jpg

House A / Shop B  店舗部分から入口へ。 Photo Credit: 大竹央祐

関連記事一覧