【神吉研究室】Project of Kanki Lab
―「場所の力」に向き合うことを通して
助教 太田裕通
本学の4回生は卒業設計の前に、教員毎に異なるテーマが設けられているスタジオ制課題に取り組む。約2ヶ月半のタフな演習である。開講以来、神吉スタジオの課題は 「場所の力」である。課題文にはこう書いてある。
「これまでにない変化をみせる現代の都市・地域で、どのようなランドスケープが受け継がれ創造され得るだろうか。新しいランドスケープにむかうために、場所に潜む力を読み、その力を顕在化させる建築と都市・地域空間の提案をめざす」。
敷地・テーマは自ら考えて欲しいというメッセージと共に、唯一の条件が「全員参加でそれぞれの現地調査に赴くため、敷地は京都から日帰り可能圏内、自由に選択する」ということである。その結果この8年で図のような30以上の場所が選ばれ、空間提案がされてきた。敷地の選び方は以前から関心があった場所を選ぶ者、偶然場所を発見する者と様々である。
卒業設計では「空間の構想力」や「緻密な図面を引くこ と」は勿論、「敷地の選び方」と「その地におけるテーマ・ 枠組みの設け方」が問われると思われるが、それは本課題も同様である。特に場所に対しての気付きや発見から、自分なりの価値付けや捉え方を言葉や図を駆使してまとめ上げるところが鍵になってくる。最終的な提案では、都市・地域の実空間に対して新しい価値の捉え方を空間的表現、すなわち一つの形に決定する事を通して提示するという難しいハードルを超えなければいけない。
課題が始まって最初は誰しも困る。場所へ赴いてさあ、どうしようと。約2ヶ月、修士1年と教員とで一緒に考える。この対話(エスキス)の時間こそ重要で、毎回4回生が持ってきてくれる思考の触媒に触れ、参加者全員に学びがある。また本人の場所に対する生の感覚は、他の者にとって現地に赴いて話し合ってこそやはり腑に落ちることが多い。その為全員で場所へ赴く日を設ける(だからこその日帰りである)。濃密な対話を繰り返す中で本人が自らつくり上げていくテーマは当然非常にバリエーションに富み、面白い。そのまま卒業設計、さらに修士研究のテーマとなる者もいる。つまりここで学んでいる事は、設計や研究、都市・地域に関わる活動において必要な「場所の力」への「構え」である。それは言葉で理解するというよりも、神吉研での経験を通して身体で体得していくある種必修技能といえるだろう。
次ページ以降のプロジェクトでもこの「構え」は一貫している。それぞれの表現から「場所の力」を感じ取って頂きたい。