建築家・米澤隆|笑い顔、怒り顔、泣き顔、多義的な顔を持つ建築のゆくえ

― 言葉は道しるべ

—五十嵐さんの紹介文にもありましたが、実際に設計するときに「言葉」は何か特別な役割を果たしていますか。

米澤—僕のスタンスに影響を与えているものとして、学部生時代から実施設計を開始したということと、博士課程まで進んだということが挙げられるかもしれないですね。そして、現在も設計活動と研究活動という二足の草鞋を履いています。設計活動から得た実感や課題を拾い集め研究テーマとする一方で、研究により得た知見をもとに設計の土壌を耕すといったように両者をフィードバックさせ合っています。その際に重要になるのが言葉ですが、設計をする際に言葉を先行させることは意図的に避けています。構築的な論理が先立つとその枠に収まってしまい、論理を超えることが難しくなるからです。言葉はあくまでも土壌であって、建築設計での実感を通して拾い上げられるものの中から、既存の論理を壊す面白いものが生まれるのではないでしょうか。ですがこのようなものは、ふわふわとしていてその時点では実体の掴めないことが多いので、研究というフィールドで体系化し、言葉という確実なものとして蓄積していく必要があるとも考えています。

 最近は、新たに「拡張身体」という言葉と向き合っていて、これまで大切にしてきた「同時多発的」や「多義性」といった言葉とは一見すると関係無さそうですが、おそらくこの先、ある一つの流れをつくりだすのではないかと予感しています。言葉は、ある種の道しるべにはなりますが、それに頼り過ぎて囚われるのではなく、実感を伴うブレイクによって発展させていくことで、数年後、現在のそれとは異なったマトリクスが描かれるのではないでしょうか。

― 学生に向けて

—学生時代から建築とは異なる分野の方々ともたくさん関わってこられていますが、そういった経験はご自身の活動にどのように生きていますか。

米澤—建築学というのは一番手になりづらい学問だと感じています。例えば医院の設計において、医学に関してはクライアントである医師の方が詳しいし、公文式なら先生の方が公文式のことをよく分かっているじゃないですか。そういった専門領域を極めるのはさすがに難しいけれども、外側から眺めるからこそ、気が付けたりつくりだせることがある。建築家はスペシャリストというよりもジェネラリストとして各専門領域とつながり関係を取り持つハブとなることで、創造へと導いていけると思っています。異なる分野の人々とたくさん関わりを持ち、彼らのフィールドを他人事としてではなく、いわば自分事として自らと地続きに考え、自分のフィールドを拡張し続けていくことが重要ではないでしょうか。そういう考え方をしてきたので、僕自身がハブとなり、様々な環境に巻き込まれていく中で活動が展開されてきたし、そこで必死にもがいていたら、面白い状況を生み出す土壌が耕されてきました。気付けば色々な顔を持ち、ある意味多重人格的ともいえるような豊かな人生につながってきています。

—現在は建築系学生団体との活動や大学の研究室運営など、とても学生に近い存在でもあるように感じます。そういう中で、学生への思いなどをお聞かせください。

米澤—何かすることの意義や効果を、行動する前から考え過ぎていて、未知な領域に飛び込んでいくことに臆病な学生が最近は多いように感じます。けれども、一度踏み込んで経験してみないと分からないこともたくさんある。自分は何がやりたいんだろう、何に向いているんだろうと自分探しに明け暮れている学生を多く見かけますが、おそらくそのままでは答えは見つからないんですよ。自分というのはその先の未来には無くて、歩んできた道のりにしかないのではないかと思うわけです。とりあえず、自分を必要としてくれている環境に飛び込んでみて、そこで必死に頑張ってみる。もしそれが自分に向いていないと思っても、心配しなくて大丈夫です。失敗するか、次から声はかかりませんから。そうしたら、また自分を必要としてくれる環境に飛び込んで必死に頑張ればいい。それを繰り返していくうちに適者生存の原理で、自分のあるべきかたちが見つかりますよ。これは、『海の家、庭の家、太陽の塔』で語っていた「進化論的設計手法」と同じですね。僕のこれまでの人生もそんな風だったと思っています。大学3年生の僕は、十数年後に現在のような自分になっているなんて想像すらしていなかった。もしあの時、自分探しをしていたら、今の自分はないだろうとも思っています。自分を必要としてくれている環境にただ飛び込んで必死で頑張る、そうしたら、それを見聞きした人が新たな環境に引き込んでくれる。これを繰り返していくと、結果として自分というものが浮かび上がってきます。つまり、環境が自分のアイデンティティを引き出して、「顔」をつくってくれるということですね。

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学生たちと取り組む「みなとまち空き家プロジェクト」

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