【竹山研究室】ー驚きと喜びの場の構想ー

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― 桂キャンパスに潤いを

 本年度の竹山研究室のスタジオ課題は、私達が日ごろ勉学に勤む京都大学桂キャンパスを対象とするものである。初回ゼミにて、竹山教授より課題の要件が伝えられた。

『ともすれば殺風景とも評されることの多い桂キャンパスに、驚きと喜びに満ちた魅力的な場所を構想せよ。』

 桂キャンパスは2003年にできた比較的新しいキャンパスであり、工学研究科が位置している。A、B、C、Dの4つのクラスターで構成されるが、当初予定された情報学研究科の移転は進んでおらず、手つかずの雑木林や竹林が広がっており現状は立ち入り禁止である。南端部から北端部までは約70mもの高低差がある上、公道によって各クラスターが分断されているが、緩やかな勾配のヒルトッププロムナードによってクラスター間のスムーズな連絡が意図されている。キャンパスの北西部にはニュータウンがあり、地域住民と大学の共生が求められている。

 建物はコンクリートとレンガタイルの外観が特徴的で、それらはおよそ南北のグリッドに沿って配置されている。屋外の通路の多くはコンクリートの列柱で囲われ、厳格な雰囲気が漂う。キャンパスが広大なため、建物は余裕を持って配されており、いたるところに広場や空地が見られる。

 しかしそれら広場や空地が豊かに使われているとは言えないのが現状だ。広すぎる屋外空間は閑散とし、秩序立った建物がその侘しさを助長するかのようである。大学としてもそうした現状を打開すべく、地域住民や学外の人々にも親しまれるキャンパスを目指す努力がなされているが、いまだ結実していない。そもそも、多様な人々の多彩な行為を引き起こすには、その土台となるスペースが豊かで親しみやすいものでなくてはならない。しかし桂キャンパスの厳格な空間は、人々の多様性を拒むかのようである。私達は本スタジオ課題に取り組むにあたり、堅苦しい今の桂キャンパスを柔らかくほぐそうと試みた。

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閑散としたヒルトッププロムナード。

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Bクラスターのロトンダ。

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上空より。手前からA、B、Cクラスター

― 交差点、境界領域

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全体模型模型写真。BクラスターよりCクラスター方面を見る。

 桂キャンパスの広場や空地を、豊かなパブリックスペースとして再生させたい。多様な人々が思い思いに利用し、交流することも一人佇むこともできるような場になることを目指して計画は進められた。話が進む中、ある日のゼミで日本における「庭」の概念について、竹山教授よりお話があった。

 「市場」はかつて「市庭」と表記されていたそうだ。「庭」とは誰にも属さない場所であり、様々な共同体に出自を有する多様な人々が出会う場所であった。庭がそのような場所として機能しえたのは、特定の共同体に所属しない境界領域として存在していたからである。

 この議論を経て、各学生の対象敷地は桂キャンパスに散在する境界領域から、つまり誰にも属していない場所から選定することとし、人と人、あるいは人とモノ、自然、風景、情報などが出会うための場、交差点として計画することが主軸となった。

― 個人と集団を横断する

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全体模型模型写真。BクラスターよりCクラスター方面を見る。

 計画を行うにあたり、通常の大学設計で行われるようなマスタープランから部分へと解像度を上げていくプロセスではなく、全く逆の進め方を採用した。つまり、現状の桂キャンパスのいたるところに見受けられる局所的な問題に対して別々の解決を施し、それらが重なり合うことで桂キャンパスの新たな全体像を構築しようとしたのである。部分に対してそれぞれ最適な解を与えていくことで、利用者にとって親しみやすい桂キャンパスを実現できると考えた。スタジオ課題に取り組む学生たちは各々敷地を選定し、問題提起から提案までを個々に行う。個人で設計しながら、他の学生の提案と関連、時には譲り合いをしながら自身の提案を洗練してゆく。そのようにして部分から全体へと計画を発展させていった。

 例えば、人を呼び込む銭湯やゲストハウスを提案する学生もいれば、滞った動線を滑らかにつなぐための道を提案する学生、人のよりどころとなるような水辺を提案する学生など、その提案内容は多岐にわたった。それらは時間を経るにつれて交ざり合い、次第に桂キャンパスの全体像として浮かび上がるようになる。大人数で同じ課題に取り組むという竹山研スタジオ課題の特性を活かし、個人と集団を往来しながら設計に取り組んだ。

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