日本の建設活動の参入障壁と進出障壁|古阪 秀三
― 2.1980年代後半から1990年代に掛けて外国企業が
感じた日本の建設市場の参入障壁とは何であったか
前述の通り、日本の建設市場の急激な拡大を契機に、諸外国の建設企業・コンサルタントが日本市場への参入を意図したことは、日米建設摩擦を挙げるまでもなく周知の事実である。しかし、実際には日本の法制度、商慣習、取引慣行等を理解することもなく、また、日本側においても、十分な説明をすることもなく、さほどの参入がないまま現在に至っている。
筆者がここ20年余りの間に感じた日本の建築生産システムの特徴を端的に示せば図1のとおりである2)。その特徴を以下に摘記する。
①相互信頼に基づく簡略化された商慣習
1)口頭ベースでの契約、黙約……書面による契約に変わりつつはある。
2)文書化されない契約条項の存在……工事契約のほぼすべてが一式請負契約。しかも、一式請負を前提とした法制度(建築基準法、建築士法、建設業法、労働安全衛生法等)となっており、多様な入札契約方式に整合していない。
②元請・下請に共通する要求水準の理解
1)工期を守る……多少の変更工事があったとしても工期の変更を要求しない。
2)美しく仕上げる……本来、個々の契約において決めるべき内容も暗黙の前提条件になっているが、発注者がそこまで要求していない可能性が高まっている。
3)必要ならば残業する……元請・下請間においてもすべてが一式請負契約の下にある。
③各種技能工のプロ意識
1)OJTでの職業訓練……技能工に関しては「職業能力開発促進法」に規程がある。
2)安くとも最大限の努力を払う/払ってしまう……相互依存/相互信頼/継続取引慣行の側面がある。
さらに、2004年に発表された論文「海外現場経験からみた日本の建設業と建築生産システム」3)(著者は京大工博の元留学生)によれば、日本への参入障壁ともとれるいくつかの日本の建設業の特殊性を指摘している。
①建設費が海外より高い
②契約書の認識が低い、契約書の確認に関心がない
③設計変更が異常に多い
④赤字工事を発生させない
⑤どんな価格でも同じ高品質の建物
⑥品質第一、コスト第二
⑦込み込み(筆者注:予算が図面上のどこまでを含んでいるかの発注者側の回答例)
さて、これらのことを当時の海外の建設関係者がどう理解したであろうか。いや、現在もどのように理解しているであろうか。
2)古阪秀三:海建協セミナー「PPP/PFI – 国内と海外の違い」基調講演資料,2017.1
3)紀乃元:海外現場経験からみた日本の建設業と建築生産システム,日本建築学会 第20回建築生産シンポジウム(京都)論文集,pp.17-24,2004.7